やはり欠如するBCP

昨日の新幹線のトラブルでは20万人とも30万人とも言われる多数の人々が迷惑をこうむりました。
私もその一人ですが、まぁ、私は交通屋ですから、こういう時でもさっさとオルタネートを考えてサバイバルしますが、じゃないと笑われてしまいますからね。
でも、一般の方は大変だと思います。

JR東日本の新幹線の場合、東京-大宮間がボトルネックになっていて、ここをやられちゃうとどうしょうもないということは以前から指摘されていました。
私の友人の阿部等さんが昨日のニュースで言ってましたが、「なぜ、大宮で折り返しができなかったのか?」
確かにそうですよね。

だって、東北、上越新幹線が開業した当初は全列車が大宮で折り返しをしていたのですから。

でも、電気的区分けができていないようで、大宮-東京間の電気を止めると、一緒に大宮駅構内の電気も止まってしまうから、大宮駅に電車を入れることができない。

何やってんの?

って話ですよね。

まして、在来線には区間ごとに分断された各駅停車が短い編成で走っているだけ。
もし、新幹線が止まってしまったら、代替輸送手段はないのです。
つまりBCPができていない。

以前から申し上げている通り、JRという会社には近年までBCPという概念がありませんでした。
彼らは「計画運休」と言っていて、つまり電車を止めることはやりますけど、運転再開のためのプロシジャーができていないから、天下の東海道新幹線だって運転再開でごたごたするのはご承知の通りですが、新幹線が止まった時の補完輸送に関して全くアイデアがなくて、切符を払い戻してお仕舞なんです。

一部路線では臨時の快速だか特急が走ったみたいですけど、そんなもの数本走らせたところで、とてもじゃないけど新幹線の代替輸送にはなりませんよ。

つまり、新幹線だけやっていれば、あとは考えたくない。考えなくてよいという会社なんです。

だから、JR東日本だけじゃなくて、東海も西日本も、新幹線が止まれば国を挙げての大混乱となるわけで、でも、それって自分たちの仕事じゃないと考えているかもしれません。

では、そういう会社に対して、国交省が「けしからん。万一に備えてきちんと代替輸送手段を確保しなさい。」と言うかといえば、実はそうじゃない。
国はJRに対して強く言うことはできないんです。

なぜならばそれが国の政策だからです。

国は、国鉄民営化の時点で責任を放棄したと私は考えています。

それまでは日本国有鉄道でしたから、国営企業ではありませんでしたが、国が運営に深く関与していたのです。
一生懸命責任感を持ってやってきました。
ところが、JRになるときに、国は一斉に手を引いたんです。

各地にあった鉄道管理局という今の支社のような組織には、国から大勢の職員が派遣されてきていましたが、すべて引き払ってしまいました。
「あとはよろしく。」ってね。

JRという新組織に残された人たちはさぞかし不安だったと思いますよ。
だって、それまでは国がなんとかしてくれると思っていたのが、知らん顔されちゃったんですから。
もう、何があっても助けてくれない。
見放された感があったでしょう。

今でこそ、JRと言えば一流企業ですが、当時はいつつぶれるかわからないと言われていたのですからね。

そういう会社が民営化されて、必死になってやってきて、利益が出せるようになって今があるわけです。

つまり、できるだけ費用を削減して、できるだけ売り上げを上げるというのが民間会社の命題ですから、まぁ、余計な費用をかけるのであれば、電気のつなぎ目など当面の課題ではないと考えるのも無理はないでしょう。
電車がぶつかるとか、脱線するとかいう問題ではないのですから。

そして、今回のような事故が発生しました。

国が、「お前たちの会社は国家の大動脈を支えているんだから、しっかりやれ。」と言えると思いますか?

国家の大動脈なんてことは、国が鉄道を民営化した時点で放棄させた使命なんです。
たまたま、日本は戦争もなく、国家安泰ですから別に鉄道が国の大動脈じゃなくても、トラックだってバスだって、なんだっていいでしょう? とやってきましたが、航空会社だって鉄道会社だって、安全輸送の使命はありますが、国家の大動脈としての使命などは、民営化した時点ですでにないんです。

えちごトキめき鉄道もそうですが、並行在来線というのは県と沿線市町村に運営を任されています。
田舎の沿線市町村が、国家の大動脈の使命を果たす必要があると思いますか?

「貨物輸送は国家の大動脈だから」などと言ってるのは私ぐらいなもので、たいていどこの県や会社も、貨物なんてお荷物で迷惑なんですよ。

貨物調整金というお金が入ってくるだろう?

そう言われる方もいらっしゃると思いますが、あれは貨物列車が走るための線路の維持管理にかかった費用の一部が返ってくるだけですからね。

ということで、私はJRという会社がBCPに関して非常に脆弱な体質であるということを何度も申し上げて来ていますが、でも、同時に、「JRという会社が本当に国家の輸送を支えていかなければならないのか?」と考えた場合、「いや、その議論は別物ではないでしょうか。」と思っているのであります。

そりゃあね、国鉄の借金を棒引きにしてもらって、その付けを国民に押し付けて、今でも喫煙者の皆様方はせっせと国鉄の借金を返していただいているわけですが、それは、言うなれば会計処理の方法を誤っただけであって、37年経過するというのにいまだに借金を背負ってるなどということ自体が政策のミスだと私は思いますが、当時のJRの幹部の皆さんとしては、国に見放されて、それでも歯を食いしばってやってきたわけですから、いまさら国家の大動脈とか言われてもねえ。

そういうことは国がしっかりと責任を持って考えるべきことだと思いますよ。

まぁ、となるとJRという民間会社が組織変更を求められるということになるとは思いますが、鉄道院、鉄道省、国有鉄道、JRと、だいたい30数年周期で組織そのものが変わってきていますから、JRという組織も、どうも行き詰っている感があちらこちらに見えてきていることでもありますから、そろそろ組織そのものを変える時期に来ているのではないでしょうか。

と、国の偉い人がいつだか話していたことを、「やはりそうなのかな」と思うのであります。

報道ステーション 1月23日


▲昨日見たお客様が誰もいない東京駅の新幹線ホーム