観光列車の乗車率

観光列車を商品化するときにはビジネスプランを作ります。

 

何両編成で、座席は何席で、一席当たりいくらで販売するか。

そして、平均乗車率は何パーセントにするか。

 

こういうビジネスプランを立てますが、その時大事なのは乗車率です。

乗車率とは1年を通じて平均したら何人乗るかということで、シーズン中は満席でも、シーズンオフになったら半分しか乗らなければ、年間を通した乗車率は60~70パーセントということになりますね。

こういう計算を皆さんすると思うのですが、その時注意しなければならないことがあります。

それは、観光列車特有の判断をしなければならないということです。

 

乗車している距離や時間にもよりますが、観光列車は満席にはしてはいけないということです。

完全個室なら別ですが、オープンな客席の場合は、例えば1両60席あるとしたら、30席で満席になるようなビジネス展開をしなければなりません。

なぜなら、満席の混み合った状態では誰もが乗りたくないからです。

 

ふつうの特急列車など、目的地へ向かうために乗る列車であれば、満席だろうが立ち席だろうが、これは仕方ありません。

ところが、観光列車というのは乗ることそのものが目的ですから、満席で窮屈では、お客様には基本的には受け入れられないのです。

 

1人で旅する人であれば隣の座席には誰もいない方が良いし、2人で旅しているのなら、2人掛けの座席を向い合せにして、4人分の座席を2人で使うぐらいが快適でちょうどよいのです。

3人連れなら4席を3人で使ってもらって、そうすれば稼働率が50パーセントを超えます。

このぐらいの感じで使って、ちょうどよいのです。

 

いすみ鉄道の場合、レストラン列車の座席は全部で32席です。2人がけの座席が12組と、車端部のロングシートコーナーはグループ席として8席の合計32席。

現状、この32席を20席として販売しています。

 

不思議ですか?

 

だって、3人連れで申し込みがあったり、1人で申し込まれたり、そういう方がいらっしゃるでしょう。

高級なお料理をお召しあがる列車が、「お客様、ご相席でお願いします、」と見ず知らずの方と隣り同士になるなんてありえませんよね。車端部のロングシートは、グループ席ですから、個人の客様がアサインされたらちょっとがっかりですよね。

そういうことを考えて、32席の座席数ではありますが、20席で満席とさせていただいているのです。

 

ところが、実際に現場を知らないで数字でしか見ていない経営者は、「何やってるんだ。もっと稼働率を上げろ。」という話になります。

「あなたがお客様でしたら、知らない人と相席は受け入れられますか?」

そう聞くと、「仕方ないだろう。空席よりはましだ。」と言うのです。

 

でも、そういう人に限って、食堂で相席にされたり、柱の横の席に案内されたりすると文句を言うものです。

2人で食堂に入った時に、4人掛けのテーブルに案内されたら落ち着くでしょう。

この状態で稼働率50パーセントだなんて考えませんよね。

1人で入った時に、テーブル席ではなくてカウンターに案内されたら、「あっちだって空いてるでしょう?」と言いたくなりますね。

これが顧客心理です。

まして、ハレの舞台の待ちに待った観光列車ですから、ゆったりとお食事を楽しみたいでしょうし、楽しんでいただきたいのです。

だから、20名で打ち止めにしてあって、それでちゃんとペイするようにプランしてあるのです。

 

なにしろ、観光列車というのは、その沿線には用もないのにいらしていただくことが目的ですから、ゆったりと、のんびりとお楽しみいただかなければ、その沿線のイメージも悪くなってしまうのです。

 

目的地へ行くために乗る特急電車や新幹線、飛行機だって、できれば空いていた方がありがたい。

新幹線のグリーン車なら、隣に誰も来なければ良いなあ。

みんなそう思うでしょうし、そのためにグリーン車に乗るのです。

これがお客様の心理です。

ふつうの移動手段でさえそうなのですから、非日常体験の「乗ることそのものが目的」の観光列車はなおさらですね。

 

だから、ビジネスプランを作るときは、お客様の心理を忘れてはいけないのです。