自分の常識で物事を考えるな

久しぶりに千葉の家へ帰りました。

家族とも約1か月ぶりに会いました。

そこで、いろいろ会話をするわけですが、いつもカミさんから言われるのは「あなたは自分の常識で物事を考える。」「他の人はそんなことは思わないですよ。」
息子からも、「お父さん、今の時代、それ、アウトだよ。」

何の話で、どんな会話だったかは置いておくとして、まぁ、家に帰ると私は常識からも時代からも取り残されているらしい。

でも、こと、需要を発掘するという点では、私は人よりたぶん少しだけ抜きんでているかもしれないし、常に心掛けているのは
「人と同じことはやらない。」
「人が『良いね』ということはやらない。」
「人が『それはやめた方が良い』と言うところにビジネスチャンスがある。」
ということでありますから、つまり、新しいことをやるためには人が賛成することをやっていたのではダメで、なぜなら皆が「良いね」ということはすでに常識化されていて、ビジネスとしては新鮮味に欠けるから注目に値しないということなのです。

これ、ビジネスとしては基本中の基本でイロハのイなんですけど、そういうことがわからない人が世の中には多く居て、ご多分に漏れず私の周りのもたくさんいます。

思い起こせば列車の中でレストランをやりたい。それも地元の名産品の伊勢海老をワイングラスを傾けながらいただく食堂車を作ろうと言った時、皆さん「そんなことできるわけないじゃないか。」と笑いものになったんです。

何しろ貧乏極まる3セク鉄道ですから観光用車両を導入する予算もない。
食堂車なんてふつうの常識で考えたらできるわけないんです。
でも、私はできると思っていたから、私なりにやり方を考えて、小予算で実際にやってみた。

実際にやってみて「試食会」を開いて沿線の人や知人を招待したのです。
んで、たっぷりお召し上がりいただいて、「さて、いくらなら払いますか?」とアンケートを取ったら、だいたいの人が6000円というお答え。

まぁ、考えてみたら私の知り合いも、沿線の人も、懐具合を察すればランチで3000円も出せば「清水の舞台」ですから、よっぽど美味しかったんでしょう。だから倍の6000円。

わかるわかる。
それが皆さんの常識でしょうから。

そこで私はさらに倍額の12000円で売り出してみたのです。

みんな「社長、何考えてるんですか? そんな高い金額払うわけないでしょう。」

私、「まぁ、皆さん方の常識ではそうかもしれませんけど、定員は20名ですから、首都圏で毎週20名の人がお客様になっていただければよいわけですから埋まりますよ。」と申し上げてスタートしました。

で、ふたを開けてみたら毎週満席。
あっという間に予約が取れないレストランになりました。

JR九州のななつ星が運転開始する前で、雪月花が産声を上げるはるか以前のお話しですからね。

夜行列車もそうです。

今、18000円とか20000円とか、日によって、季節によって多少変動はありますけどだいたいそのぐらいで、いつも満席になります。

今の時代6~7000円出せば快適なシングルルームで朝食までついてきますから、硬い座席の列車で一晩過ごすなんて考えただけでも嫌ですよね。
だから、ふつうの人ならそんな列車に乗りません。

でも満席になる。

ふつうの常識の人なら信じられないでしょう。

トキ鉄に来て「夜行列車をやる」と言った時に幹部全員が反対しました。
そんなことやって誰が乗るんですか? と。

それは皆さんがふつうの常識を持ち合わせているということはもちろんですが、それにプラスして「知らないこと」だからです。

私はさんざん夜行列車をやって来ていて、どうすれば満席になるかも心得ている。いすみだけじゃなくて他の路線でも依頼を受けて夜行列車をやって満席にしてきていますから、こうすれば満席になるということがわかっていますけど、当時のトキ鉄の幹部はそれを知らなかったから、常識外だったんですね。

でも、夜行列車を企画して募集してみたら1分で満席になったんですから。
一般の人の常識では商品化できないものでも、顧客心理をつかんでいれば満席になるということです。

会社の幹部もその辺りはきちんと理解して、勉強熱心な人間は実際の夜行列車の運転日に「どういう人が乗りに来ているのか?」と夜中に見に来ている。(来ない人もいるけど。)

次に455を導入する時も、そういう経験があるから自分では理解できなくても否定はしなくなっていて、否定したのは公務員だけ。
「そんな古い電車買って本当に人が来るのか?」
とか、さんざん言われましたが、ふたを開けてみたらわずか2年で利益率では雪月花を上回る稼ぎ頭になっている。

公務員の皆様方にとってみたら経験していないことであり、知らないことでしょうけど、私はいすみ鉄道時代に「古い車両を導入したらお客さんが来るのではないか?」と仮説を立てて、それを実証してきているのですから、455だって当然うまく行く前提で事業化しているのですが、知らない人たちは自分の無知を棚に上げておきながら、「社長は自分の趣味で車両を集めている。」などと言っているわけです。

2年経って455が稼ぎ頭になって、私は「ざまあみろ」とは言いませんけど、反対した人たちも「申し訳ございませんでした。」とも言わない。

まぁ、自分たちにできないことを目の前でやられてしまうと、メンツが潰されると思っているのかもしれませんが、そういう田舎の常識にとらわれ過ぎると、何をやっても足かせばかりで、そういうことの結果として、今、日本全体が停滞しているのではないかと、私は考えます。

ところがですね、最近、私の常識では理解できないことをトキ鉄の若手チームが考え始めていて、「社長、これどうですか?」と提案してきた。

「はぁ? なにこれ? どうするの?」

って思わずあっけに取られてしまいました。

それがコレ!
新作の駅弁だそうです。

わかりますか?
ケーキ弁当ですよ。
全部ケーキ
ハンバーグも卵焼きもポテトサラダも、もちろんご飯も。

そして、このケーキ弁当を子供の日にちなんで特別運転する夜行列車の中でご乗車のお客様にお召し上がりいただくというのです。

私の常識では計り知れないことが目の前で展開されている。

そのことに対して「お前ら何考えてるんだ?」と言ってしまったら私も烏合の衆の一人になってしまうので、ぐっとこらえて「ほう、おもしろそうだね。やってみな。」と合意。

で、本日から発売中なのですが、もう満席のコースも。

で、よく見るといつもよりも値段が上がっている。
ゴールデンウィーク価格ということなのでしょうか?
いや、出発が18時半だから夜行列車としての乗車時間がかなり長くなっている。つまり乗車時間が長い分、乗車料金も上がるという理にかなった価格設定。ということなのですね。

ということで、だんだんと私の常識では考えられない世界が広がりつつあるようですが、トキめき鉄道という名に恥じないように、トキめくことができる商品を提供していかなければ観光は成り立ちませんから、トキめく商品を作ってピンポイントでお客様をゲットしていかないといけませんからね。

今までは万人受けする観光でした。
これはサイトシーイングという意味の観光です。
ところが、今の時代はそういう観光ではなく、ツーリズムなのです。
だから、何か刺さるものを提供することができれば高額でもお客様がやってくる。
お客様の人数は少なくても、高額な商品を買っていただける上顧客になっていただければ、そんなにあくせくと忙しい思いをしなくたってやっていかれる。
私は常日頃そのように考えています。

田舎はリソースが限られますから、マスに訴えるような万人受けする観光ではなくて、価値がわかるほんの一握りの人たちにいらしていただければ成り立つような商品を作らなければならないということを、トキ鉄の若手スタッフは理解し始めているのでしょう。

ということで、ゴールデンウィークは2晩連続夜行列車の運転です。

朝から夕まで、朝から朝までとか組み合わせて50時間以上乗り通す人もいるんだろうなあ。
そのうち、シベリア鉄道に挑戦だろうか。

皆様、えちごトキめき鉄道でお待ちいたしております。

GWの観光急行企画の詳細はこちら。
お早めにどうぞ。

https://www.echigo-tokimeki.co.jp/information/detail?id=1867