地方空港の取り組み

北陸新幹線が開通する前に富山県庁の方から相談を受けました。

東京-富山便の飛行機は残した方が良いですか?

私はもちろん、残した方が良いですよと答えました。

新幹線が開通すると東京-富山間は2時間の距離になります。

「新幹線で2時間の距離に飛行機は要らない。」

当時は「4時間の壁」という言葉がまことしやかに「流通」していて、4時間以内の移動であれば新幹線。4時間を越えれば飛行機というように利用者の選択基準が時間であると考えられていました。

もっともこれは机上で物事を考えているスーパードメスティックな学者センセ方の論調で、私は一概に同意できるものではないと考えていました。

なぜならば、私は若いころお金がなくて、時刻表を片手にいわゆる机上旅行専門家でしたが、その反動からか、大人になってお金が手に入ると、机上旅行を脱皮して実際に自分の足で歩いて、自分の目で見て歩くことをさんざんやってきましたし、今でもそのポリシーは変わりませんが、そうやってみると机上旅行と実際の旅行は全く違うことに気が付くわけで、つまり机上というのは空論なわけです。

では、なぜ4時間の壁というのはスーパードメスティックかというと、飛行機は誰が乗るのかということが抜けているからです。

地方都市にいるとよくわかるのですが、皆さん自分が東京へ行くときにどの交通手段を選択しようかという視点だけで交通を考える。
新幹線なのか、飛行機なのか、それとも高速バスなのか。

では地方都市の皆様方が東京へ行くということは、誰が行くのかというと、大人の場合は仕事での出張業務など。子供の場合はスカイツリーやディズニーランドなどへの観光。
どちらにしても東京の都心部に用事がある人がほとんどです。

つまり、新幹線で上野駅や東京駅に到着したら、そこから半径10㎞程度に用事がある人がほとんどですから、4時間以内であれば新幹線となりますね。
羽田空港へ行ったら、さらに都心までの移動が必要になりますから。

自分たちが東京へ行くというのとは、つまりはそういうことですから、新幹線があれば飛行機は要らないという論調が主流になります。
県の職員も議員の先生も地方の経営者も、皆さん東京の都心に用事がある人がほとんどですからね。

でもそれは地方都市居住者が東京へ行く場合であって、では東京の人が地方都市へ行くということはどういうことかというと、まず、新幹線の駅の周辺に用事がある人というのがどれだけいるか。
出張といっても企業や工場などは新幹線の駅に近くにあるとは限りませんし、観光客だって新幹線の駅周辺で行動を完結する人ばかりではないでしょう。
何らかの形で現地での移動が必要になれば、レンタカーになる場合は駅よりも空港の方が便利でしょう。

そもそも論として、東京の人というのは上野駅や東京駅の近くに住んでいるわけではなくて、いわゆる東京都下(23区の西側)であったり、近接する千葉、埼玉、神奈川県民というのが、いわゆる東京の人ですから、そういう人が地方都市へ出張や旅行へ行く場合に、東京駅や上野駅というのがどういう存在なのかということが4時間の壁からは抜けていて、今時は東京近郊から羽田空港へ直行するバスは朝の5時台から何十本も出ていますから、旅行鞄を持ってラッシュの通勤電車に揺られて東京駅や上野駅に行くことを考えたら、自宅近くの駅から高速バスで羽田空港へ行く方がはるかに楽で行きやすいし、帰りも同じです。

こういうことが机上の空論ではわからないのですが、実際に夜の羽田空港の到着ロビーに行ってみると、地方から帰ってきて高速バスに並ぶ人たちがいかに多いかがわかります。

飛行機というのは東京の人を地方都市に連れて行くばかりではありません。
今や羽田空港は海外からの日本の玄関口ですし、成田空港もLCCが何十本も地方都市を結んでいます。
つまり、海外からのお客様を自分たちの県に連れて来てくれるのも羽田からの飛行機なのです。
もちろん、海外からのチャーター便や直行便が自分たちの町の空港にやってきてくれるのも、ハンドリングを考えたら定期便が就航していることが前提となりますから、地方都市に東京からの定期便が就航しているということは、インバウンド誘致政策の上でも重要なことです。

外人だって新幹線に乗るよという人もいますが、新幹線のネックは何といっても1か月前発売ですから、海外旅行を計画している人にとって、1か月前にならなければ予約できないというシステムは「ありえない」ことですから、新幹線じゃなければ行かれないところというのは、そもそも旅の目的地から外れる危険性があると私は考えます。

それともう一つ大切なことは貨物輸送です。
飛行機はお客様ばかりでなく貨物も運んでいます。
貨物なんかトラックで運べば良いじゃないかという人もいますが、旅客に長距離客や短距離客、通勤通学客やビジネス観光客などがあるように、貨物だってひとくくりにはできません。
貨物はいろいろの分類方法がありますが、一般的には重量、体積、単価、時間という分け方をします。
つまり、重くて、大きくて、安くて、急がないものと軽くて、小さくて、高価で、急ぐものというのが対極にあるわけで、その貨物の内容によって輸送手段が変わります。

重くて、大きくて、安くて、急がないものであれば船であったり貨物列車で運んだりします。
逆に、軽くて、小さくて、高価で、急ぐものは航空輸送が適しています。
トラック輸送というのはその中間ということになりますね。

これが貨物という品物の特徴であって、航空貨物というのは究極のプレミアム商品を運ぶのに適しているわけです。

そして、日本全国の地方都市が勝負できるとすれば、各地の特産品の中でも海産物や果物などになりますから、それを迅速に東京へ運ぶことができれば大きな付加価値が付くのです。

最近では新幹線だって貨物や荷物を運んでいるだろうと思われる方もいらっしゃるでしょうけど、あれは東京駅に到着して駅周辺の飲食店向けの需要であって、朝採れたものが夕食時間帯に都会の食卓に並ぶためには、到着したところからの輸送が必要ですが、今の東京駅は貨物自動車が往来する構造にはなっていません。せいぜい、台車に載せた発砲スチロールを数箱車に積む程度でしょう。

これに対して空港はフォークリフトで荷物を下ろして直接トラックに積み込む構造になっていますから、契約販売店の店頭に1~2時間で並ぶことができるのです。

さらに、羽田空港は24時間空港です。
深夜には貨物便が発着します。

そういう便へ載せ替えれば、各地から最終の羽田便に載せることができれば、翌日には中国や東南アジアの地域の食卓に採れたての特産品が並ぶのです。
こういうことが地方都市の潜在需要だと私は考えていましたので、かれこれ10年近く前になりますが、富山県庁から相談を受けたときに、「東京便は守りましょう」と提言させていただいたのです。

で、今日ネットで見かけた富山空港のパンフ。

富山県外在住の方限定!
マイカーで富山空港に来て、飛行機を利用すれば1500円分のクーポンを差し上げます。

だそうです。

すごいと思いませんか?

県外の方限定!
つまり、石川県、岐阜県、新潟県の方を対象としているわけです。

さらに、対象となるのは富山空港まで片道1500円以上高速道路を利用すること。
ちなみに北陸自動車道に乗ると富山インターから金沢東インターまでは1620円。
富山インターから親不知インターまでは1930円ですから、親不知から富山空港へ行く人がどれだけいるかは別として、戦略的には完全に金沢と上越を狙ってますね。
富山空港が市内にあるという利点をしっかりと活かしていると思います。

でも、私が10年近く前に相談を受けたのは国から来ていた課長さんがいらした時代で、その方はずっと前に国に戻られているわけで、ふつうであればその人がいなくなれば自然消滅的にそういう施策も立ち消えると思うのですが、しっかり受け継がれていて、さらに発展しているように見えるのです。

ちなみに、富山空港からは全日空の東京便が1日3便。札幌便が1日1便だけで、あとは国際線が時々飛んで来る程度。

それだけの空港できちんとレストランが営業しているのが不思議ですが、その理由は飛行機に乗らない人たちが空港に食事に来ているから。

富山といえばお寿司ですが、人気のお寿司屋さんやイタリアンレストランが入っていて、決してお安くない金額で、それがきちんと営業しているということは、飛行機を利用しないお客様が食事に来ているということになります。

もうひとつ面白いのが空港がオンラインショップをやってること。

大きな空港を除くと、私の知る限りオンラインショップを運営している空港は10か所ぐらいでしょうか。

つまり、飛行機に乗らない人をいかにお客様として取り込むか。

こういうことをきちんと続けていただいておりますので、「4時間の壁なんて嘘だから、飛行機は残してください。」と進言した甲斐があったということですね。

わが新潟空港もオンラインショップを運営しています。
コロナの時代にはかなり大変な思いをしましたが、12月中旬にはトキエアも就航予定ですから、どんどん新潟空港も盛り上げていきたいと思います。

そう、トキエア、新潟-札幌(丘珠)便は間もなく就航ですよ。(たぶん)

札幌では結構盛り上がっていると友人たちが言ってますが、新潟の盛り上がりが今一つなのが気になります。

航空行政的に言えば、新潟空港は地方空港の中でも別格なのですから、もっともっと盛り上げないと。

東京便がないから地元の人たちは関心が薄いかもしれませんが、東京便もトキエアで復活予定ですから、無関心ではなく、県民の翼として一生懸命育てなければならないと私は思いますが、いかがでしょうか。

▼参考までに、4年半前に私が書いた4時間の壁のニュース。
航空にご興味のある方はご一読ください。
4時間の壁? 飛行機は逃げるけど新幹線は逃げられないという事実。