時には真面目に国批判

こんなニュースが出ていました。

地方中小鉄道、コロナで窮地 高松琴平電鉄社長「全国でコスト負担議論を」

四国の琴電が27億円の運賃収入が10億円ダウンするという話。
地方の交通機関はみんな大変な状況です。

トキ鉄も例外ではありません。
今年度の事業計画から4億円売り上げがダウンする予測を立てています。

売り上げが4億円ダウンするということは、赤字が4億円増えるということです。
なぜなら、鉄道会社は売上を上げるために特別の仕入れをしませんから。
ふつうのお店なら利益率が5割として、売り上げ1億なら仕入れが5千万になりますから、売り上げが1億円ダウンすると利益は5千万減るという計算になりますが、鉄道会社はお客様が乗ろうが乗るまいが、基本的には時刻表通りに列車を走らせなければなりませんから、売り上げが1億円減少するということは、赤字の会社であれば1億円赤字が増えるということになります。

では、そういう経営環境は、民間事業として一つの株式会社が背負いこまなければならないのでしょうか?
そこで発生する赤字は、インフラとしての社会コストとして考えることはできないのでしょうか?

というのが琴電の社長さんがおっしゃりたいことではないかと理解します。

結論から申し上げて、答えは「NO」です。
今の国交省の考え方では、「NO」なのです。

鉄道輸送の特性は何でしょうか?
大量性と高速性です。

長い編成の列車がたくさんのお客様を乗せて高速で走るところに鉄道としての良さがあります。
逆に考えると、1両か2両の短い編成の列車が、トコトコとのんびり走るような地方の鉄道は、鉄道特性としての大量性も高速性もありませんから、その輸送というものは鉄道である必要はない。
これが国交省鉄道局の今現在の考え方です。

そういう鉄道輸送の利点としての大量性も高速性も発揮できないような地域鉄道は、本来であれば鉄道である必要はなく、バスなどの代替輸送機関に置き換えるべきである。にもかかわらず、地域の皆様方は自分たちの意思で鉄道を残したのですから、そこから生じるコストを国が負担するというのは道理に合わない。
鉄道は線路や信号の維持管理に多額の費用が掛かります。つまり、バスに比べると贅沢品なんです。
その贅沢品である鉄道を、自分たちの意思で残したいというのであれば、自分たちで何とかするのが筋でしょう。

これが国交省の考え方です。

百歩譲って、鉄道としての輸送特性を発揮できないようなローカル線でも、観光鉄道としての価値がある。まあ、つまりは私が長年やってきたことでありますが、確かに観光のシンボルとして、あるいは集客のツールとしての価値は認めます。
でも、観光のツールというのであれば、それは各都道府県の問題であって、基本的なところで国がその鉄道に支援する道理はない。

ということであります。

皆さん、どう思われますか?

私は、交通というのは、切れ目なく、途切れることなくつながっていることに価値があると考えています。
都会の人が、新幹線に乗って、あるいは飛行機に乗って、目的地についたら地域鉄道や高速バスに乗り換えて、さらに路線バスやタクシーに乗って観光地や温泉旅館に到着する。
こういうシームレスサービスがつまりは交通であって、例えば新幹線で降りた所から鉄道やバスがなかったらどうしますか?
タクシーなんか高額ですから、新幹線の駅からタクシーで1時間などと言うところへは誰も行きません。
まず地域鉄道や路線バスに乗って、タクシーに乗るのはできるだけ最短距離。
そうやってつながって初めて価値があるわけです。

そういうシームレスサービスが交通であり、そこに求められるのがバリアフリーサービスである。
こんなことは常識中の常識ですね。

では、そういうシームレスでバリアフリーが常識の交通ですが、こと、お金の話になると、突然そこにギャップができてバリアが発生する。
つまり、経営は別ですよ、という壁です。

交通機関というのは、大手は別ですが地方へ行けば単独での維持は基本的には困難です。
都会の大手だって、各種関連事業をやっているからはじめて交通機関を維持できるのであって、田舎の過疎地では駅ナカや不動産などの関連事業などありませんから、つまりは維持できません。

以前、望月さんという三陸鉄道の前社長さんとお話をしていた時のこと、こんなことをおっしゃられていました。

「東京から来るお客さんは、三陸鉄道に3万円使ってくるんですよ。でもね、三陸鉄道に入るのは3千円位なもので、あとは新幹線に行っちゃうんですよ。だけど、お客さんは三陸鉄道に3万円払ったと思うわけです。だったら別に新幹線で来なくたってよいから、マイカーでも高速バスででもやって来て、浮いたお金を地域で使ってもらいたい。それが三陸鉄道ができる地域貢献です。」

JR西日本が山口線でSLを走らせている理由は御存じですか?
東京や大阪の皆さんは、もっと近くで走らせてくれたらと思うでしょう。
なぜ山口線か?
それは、新幹線に乗ってやって来てくれるからです。
SLだけではせいぜい2000円ですが、大阪からでも新幹線に乗って来てくれれば12000円になる。
その証拠にSLやまぐち号は東京駅始発の新山口停車の「のぞみ3号」に接続するようなダイヤになっていて、大阪からなら楽勝で間に合うようにできています。

五能線で観光列車を走らせているのもまったく同じ。
秋田新幹線と東北新幹線に乗って来てもらって、ぐるっと回遊してもらうためのコースの一部としてですから、観光列車だけの収益ではなく、往復の新幹線のお金も含めて入ることを考えて、わざと一番遠くで走らせているということなのです。

では、地域鉄道はどうでしょうか?
例えばトキ鉄の「雪月花」。
東京からのお客様は雪月花に乗るために新幹線で往復2万円払ってきています。
でも、その中からトキ鉄には1円も入りません。
雪月花という観光列車があって、そういう列車が走っているから、別に新幹線には乗るためじゃないけど新幹線でやってくる。つまり私たち地域鉄道は新幹線のお客様を増やすためのツールになっている。
JRからは1円も直接的に新幹線のお金が入らなくてもそういう構造を甘んじて受け入れているんです。
どうしてか?
その理由は、交通というのはシームレスにつながっていてこそ交通だからです。

そういう私たち地域鉄道は、逆の言い方をすると、川の流れで言ったら支流なんです。
新幹線が大河だとすれば小さな支流であり、新幹線が太い幹であれば、地域鉄道は小さな枝葉であるわけで、大河も大木も支流や枝葉がなければ大河や大木であることは不可能なんですが、ことお金の話になると別会計。なぜなら鉄道は贅沢品であり、お前さんたちが好き好んで贅沢品を残してるんだから、そんなことは知らん!

これが今日現在の国交省です。

でも、私はこう考えます。

国交省は何のために存在するのか?
鉄道局は何のために存在するのか?
公務員は何のために存在するのか?

今の時代はまさか「世が世ならお前たちとは口もきかん!」という立場でもないでしょうから、では何のために存在するのか?

私は、私たち交通事業者をサポートするために存在すると考えています。
鉄道だけじゃありません、バスも、船も、タクシーも、すべての交通事業者をサポートするのが国交省の仕事のはずです。

そして、今、私たちが困っている。
どうしてよいか途方に暮れている。

そういう時に彼らの仕事は何でしょうか?

困っている私たちをサポートすることが仕事であれば、何とかサポートしなければならないですよね。
「あなたたちは好き好んで贅沢品である鉄道を残したのですから、自分たちで考えなさい。」
とか、
「観光観光って言うけれど、観光は地域の問題だから地域で解決しなさい。」
ということは、自分たちの業務を放棄していることになりますね。

サポートするのが仕事のはずなのに、困っている事業者がサポートを受けられないということであれば、私たちは生き延びるために、国交省ではなくて別のところにお仕事をお願いするべきだと私は考えます。

「お前、何言ってるんだ。鉄道会社は国交省の管轄だ!」

そういわれるかもしれませんが、管轄って何ですか?
ちゃんと仕事をするということですよね。
その仕事って何ですか?
私たちをサポートすることですよね。

もしそれができないのであれば、まず何をするべきでしょうか?

「申し訳ございません。私たちの力が及ばず、ご期待に添えません。」
というのがまず初めの言葉でしょう。

だったら私たちはどうしますか?

お店だったら、「じゃあ、他の店に行きましょう。」となりますよね。
ということであれば、国交省ではなくて経済産業省でも行った方が私たちのサポートをしてくれるかもしれません。

私はそう考えます。
希望の商品が自分のお店の品揃えの中に無くて、「では他のお店に行きます。」と言ったら、「それはダメです。あなたはうちのお客様ですから、他のお店へ行ってはダメです。」ということは競争原理に反しますよね。
私たちに経済性や競争原理を求めておきながら、自分たちにはそういうことを適用しようとしないというのは、サポートする側のあるべき姿ではありません。

もっとも、これを機会に、「淘汰されるべきものは淘汰されるのが自然の原理だ。」と考えているのなら、話は全く別ですが。

いずれにしても、国交省は、少なくとも地域鉄道に対しては、我々が求めるサービスやサポートをタイムリーに提供していないということは間違いありません。

Internal Customer, External Customer という考え方をすれば、私たち鉄道事業者は国交省にとってはCustomerです。
そのCustomerの求めるサービスやサポートをタイムリーに提供できなければ、お店だったらお客様は他のお店に行ってしまいます。

私たちは監督官庁を選ぶ権利を主張する時期に来ているのかもしれません。

鉄道会社の社長さんという人種は、皆さん常識人で、大人で、立派な人がほとんどです。
そして長年鉄道業界で生きてきていますから、こういうことに何の疑問も持たれないでしょう。
私は航空業界出身で、日本の航空局というのはFAAやCAAの下に位置する組織であり、私たちは直接FAAやCAAの通達を受け取って仕事をしてきました。その通達を受け取って仕事を始めようとすると2~3日遅れて航空局から同内容の指示が出るのが常でしたから、「何を今頃」という感じでした。だから育った環境が全く違いますし、頭の中身も他の鉄道会社の社長さん方とは全く違いますから、ふつうは鉄道会社の社長には私のように御上に対してこんなことが言える阿呆はいないでしょう。

だとすれば、私には私の役割がある。
私はそう考えます。

Customerが困っているのですから、早急にサポートツールを用意してください。
じゃなければ、私たちにとって、国交省は要らないのです。
上から目線でえらそうなことばかり言ってる監督官庁なら、私たちにとっては不要です。

なぜなら、皆様方の方針に従って、まじめに、しっかり、長年やって来て、地域鉄道はダメになっているからです。
このままで行ったら会社が無くなってしまうからです。

とにかく私たちは地域の足を担わなければなりません。

「鉄道というぜいたく品を残すのは自分たちの勝手だろ。」と言われても、何と言われても、きちんと列車を走らせるのです。

いつものように、明日も、あさっても。

そして、そういう支流や毛細血管が集まって、この国は成り立っているのですから。


今朝の地震
何事もなくてよかった。
この景色を10年後も見たいです。