インバウンドの恐怖

最近では猫も杓子も「インバウンド」という言葉を使います。

こういう世の中の現象に対して、私は???と思います。

 

観光需要というのは、インバウンド(先方からこちらにやってくるお客様)と、アウトバウンド(こちらから向こうに出かけて行くお客様)の二通りあって、例えば旅行会社が観光として取り扱う場合は、どちらかというとアウトバウンドの方がありがたい。

インバウンドというのは、旅行代金が出発地側、つまり向こう側に入るわけで、こちら側はその旅行代金の中から、ハンドリング手数料をもらう程度の仕事ですから、ビジネスとしてのうまみはありません。にもかかわらず、インバウント、インバウンドと掛け声ばかりが先走りしている。

旅行業界としては、インバウンドは儲からない仕事なんですね。

まして、インバウンド(この場合は外国からやってくるお客様)は年間2千万人をわずかに越えたところですが、日本人の国内旅行の旅行者数は年間2億人と言われていますから、どちらを相手にした方が良いかというのは自ずと知れたもので、私は、こと田舎の観光については、インバウンドというのは、来ればラッキー、来なくて当然という程度に考えています。

 

にもかかわらず、全国の田舎の町がインバウントという言葉を、まるでお題目のように唱え続けているのは、私から見たらなかなか滑稽な姿で、では、そういう人たちの好みは何で、客単価はいくらになるのかなどという計算がまるでできていないまま、日本人旅行者の10分の一程度のボリュームしかないインバウンドを真剣に取り込もうと考えている。そういう姿こそ、的外れなわけです。

だから、私はインバウンドには何も期待しないことにしています。

 

台湾のローカル鉄道と姉妹締結をしていただいたのも、別に台湾からの観光客をたくさん呼び込もうというのではなくて、私は台湾の鉄道が大変好きで、この台湾の鉄道を一人でも多くの日本人に知っていただきたかったからで、台湾からの観光客を当て込んだものではありません。結果として、台湾からたくさんのお客様にいらしていただいていますが、当初からそれがお目当てだったわけでもないんです。

 

では、なぜ私があまりインバウンドの需要に期待していないかというと、それは、インバウンドには様々な落とし穴があって、それに対する恐怖というのを身を持って体験しているからなのです。

 

つまり、どういうことかというと、外からの旅行客というのはある日突然来なくなる。

地震や災害があれば来なくなるし、病気が流行るなど悪いうわさが飛べば来なくなるし、国と国との仲が悪くなれば来なくなる。

そういう極めて予測不可能なマイナス要因を含んでいるのがインバウンドだからです。

 

航空会社に長くいるとそういうことを何度も経験します。

昨日まで満席だった400人乗りのジャンボジェットが、テロが一発発生しただけで、ある日突然お客様がいなくなる。どのぐらいいなくなるかというと、40名程度になる。10分の一ぐらいに減ってしまうのです。

つまり、旅行というのは不要不急のことでありますから、不安定要因があれば、あっという間にいなくなってしまうのです。

インバウンドというのは外国人観光客のことですから、その国の政治家が何かひとこと言っただけで日本バッシングが起きるような国を相手にしていたら、いつまでお客様にいらしていただけるかなど全くの未知数であり、根拠など何もない。そういう根拠のない未知数のインバウンドに、設備投資をして、何年がかりで回収しようなどというビジネスは、小資本だとちょっと恐ろしい話だと思います。

 

今から2年ほど前に 「東横インが1泊1万円になる日」 というブログ記事を書きました。

その記事を書いたころは、「おそらく近い将来にはこうなるでしょう。」という予測記事でしたが、マスコミ各社から多くの反響をいただきました。そして、あれからわずか2年ですが、その予測記事は見事に的中し、今では1万円どころか、アパホテルなどは曜日によっては普段5000円の部屋が、1泊2万円にもなるという時代になりました。

それは、事業者にとってはまたとないビジネスチャンスがやってきたということだと思います。

 

でも、なぜそういうチャンスを捕まえることができて恩恵にあずかれるのかというと、それは、前もって大きな設備投資をして準備していたからであって、その前に投資した金額を、この時代になってやっと回収できているにすぎません。

つまり、今から始めるのでは遅いのだということです。

まして、不特定多数の外国人観光客を相手にする観光ビジネスでは、いつ何時お客様がパッタリ来なくなるのかはわからない世界ですから、私はいすみ鉄道にあまりそのような設備投資はするべきではないと考えています。

 

それよりも、日本人のお客様に楽しんでいただけるようなビジネスを展開して、まず日本人の皆様に楽しんでいただく。

そういう世界を作ることができれば、外国人だってやってくるわけで、私はインバウンドを直接追い求めるのではなくて、地域の皆様を始めとする日本人にまず喜んでいただいて、そういう世界をしっかり作り上げて、それを求める外国人の方々にいらしていただければ、それで十分だと考えています。

 

とにかく、インバウンドというのは、得体のしれない恐怖の部分があるのが実際のところなのですから。

 

(つづく)