養老鉄道の将来展望 私見

今回、大垣のフォーラムへお招きいただきまして出かけてきた話は昨日させていただきましたが、養老鉄道に乗車させていただいて、私なりに「自分だったらどうするだろうか?」という視点で考えてみました。

 

東京から大垣の出張ですから当然日帰り出張なわけですが、考えてみれば私は養老鉄道に最後に乗ったのは近鉄時代は別として、養老鉄道になった直後の2008年でしたので、フォーラムに出る前に一度乗ってみたいと思いました。

前日の日曜日は大多喜で仕事をしていましたので、その後東京経由で夜遅くに名古屋に入り前泊をしました。

主催者からは日帰り交通費だけを支給されますから、宿泊分はもちろん自腹で持ち出しになりますが、そんなことよりも乗ってみて初めて気づいたり理解したりすることの方が価値がありますからね。

 

近鉄の桑名駅に隣接する養老鉄道のホームから、近鉄電車と同じ感じの3両編成の電車に乗車して1時間10分ほどの旅です。

 

養老鉄道は養老線という線名ですが、事実上2つの路線から成り立っていて、桑名から大垣間と、大垣からスイッチバックして揖斐までの区間で、運行系統も別系統になっています。ちょうど東武野田線(アーバンパークライン)と同じような形ですが、仮に養老線(桑名ー大垣)と揖斐線(大垣ー揖斐)として2つの路線の特徴を考えてみましょう。

 

養老線(桑名ー大垣)は43.0km。

この路線の特徴は両端が他の路線に接続しているということ。

桑名では近鉄とJR,大垣ではJRに接続しています。

ローカル鉄道は支線と呼ばれるように、その多くが行き止まり式です。

こういう路線だと、通り抜けする需要がないのはもちろんですが、朝夕の輸送が一方通行になります。

朝は上りだけ、夜は下りだけというような偏った需要になりますが、両端が他の路線に接続している養老鉄道の場合は、両端へ向かう需要がありますから、通勤通学輸送とはいえ、片方だけに偏った一方通行の輸送になりません。

つまり、桑名へ向かう需要と、大垣へ向かう需要の2つの需要がありますから、朝夕ともにどちらの列車にも需要があるわけで、効率的な運用であるということです。これは通勤通学路線にとって見たらとてもありがたい有利なことです。

 

揖斐線(大垣ー揖斐)は14.5km。

大垣からスイッチバックして揖斐方面へ向かいますが、こちらは行き止まり式の支線です。

従いまして朝夕の通期輸送は一方通行になります。

しかし、この区間には大垣市、神戸(ごうど)町、池田町、揖斐川町と短い区間に4つの自治体があり、大垣市以外の自治体は鉄道が無くなると陸の孤島になってしまうという危機感があります。岐阜県には名鉄の岐阜市内線、揖斐線、谷汲線という路線が走っていましたが、岐阜市内線が路面電車区間であったことから、「鉄道などいらない。」ということで2005年に廃止してしまった経緯があります。

近年、世界的に路面電車が見直されている中で、岐阜市ではそういう認識がないまま、1970年代さながらの昔ながらの考え方でこの鉄道路線を3路線同時に名鉄が廃止することを受け入れてしまったのです。

岐阜県の岐阜市周辺の方々は、この廃止の教訓があるために、今でも「廃止は失敗だった。」という気持ちがあります。

でも、いったん廃止してしまった鉄道は戻ってくることはありませんから、例えば北方町などは鉄道の地図から消えてしまいましたので、インターネットで検索しようにも、生き方さえも表示されない自治体になってしまいました。

養老鉄道の揖斐線沿線はまさしくその地域ですので、自治体や住民の鉄道に対する思いがとても強い地域だと感じています。

 

この2つ沿線地域の考え方がありますので、私は養老鉄道は十分に鉄道として存続できると考えています。

後は、その方法ですね。

どうやって経費を削減しながら、年々減り続ける地域輸送を補うだけの収入を別途計上していくかということになります。

 

さて、私の手元には利用実態の数字や経営の数字がありませんから余計なことは言えないのですが、ローカル線問題が全国共通の問題であるという考え方に従って考察してみると、少なくとも現地の皆様方に何らかのヒントになるのではないかという意味で、私なりに感じたことを述べさせていただきたいと思います。

当日は養老鉄道の幹部の方々にご挨拶をさせていただきましたが、その時に、いろいろとお話をさせていただく時間がありませんでした。皆様私からいろいろなことをお聞きになりたい感じでしたので、この場でそのお話をさせていただきたいと思います。

 

1:地域鉄道が地域に根付いた運営をしていく。

沿線11もの自治体が、完全上下分離して下の部分を引き受ける公有民営という考え方を取り入れたことは画期的なことです。沿線地域にはそういうコンセンサスが取れているということです。これは大切にしていただきたいと思います。また、自治体はただ単に金を出すということではなくて、下の部分を引き受ける形で経営に参画してくるわけです。そういう点では将来的に各種問題が発生する可能性がありますから、各種ガバナンスについて取決めしておく必要があると思います。

簡単に言うと、負債を国民に押し付けて民営化した鉄道会社は、ローカル線まできちんと運営するということがお約束になっていましたが、最近では株式会社だから儲からないところはやるべきではないという考えになって来ていて、新幹線など儲かるところだけに設備投資をする傾向があります。これは当初のお約束が守られていない、つまりガバナンスが効いていないと考えられます。企業の社会に対するガバナンスを当初から取り決めをして、将来的に発生するであろう問題をあらかじめきちんとお約束しておく必要があるということです。

 

2:経営努力する。

2007年に近鉄本体から分社化して養老鉄道になりましたが、相変わらず大きなロスが発生しているようです。

この部分がどうなっているのかは私にはわかりませんので無責任なことは言えませんが、乗ってみて分かったことは、日中時間帯にだれも乗っていないにもかかわらず電車は3両編成で走っています。見たところ3両固定編成ですから、朝夕の需要に応じてこまめに増結、解結できないのでしょうが、そういうことは大手私鉄のスペックです。ローカル鉄道にはローカル鉄道のスペックがあるわけですから、そこを変える必要があります。例えば、愛媛県の伊予鉄道では朝夕は3両編成で、日中時間帯は2両編成。終端駅で車両を1両切り離して、夕方まで奥に押し込んでおきます。その切り離した車両は片運転台の車両ですから、切り離した面は運転台がないまま放置されているように見えますが、このようにこまめに運用をする必要があります。

ワンマン対応も運賃収受が完璧にできていないんじゃないかというような設備です。地方私鉄では誰一人無賃乗車は許さないというシステムを導入していますが、この点でもシステムの見直しが必要だと思いました。

車両の全般検査基準などもローカル線のスペックになっているかどうか。

大手私鉄がその従業員を出向させてローカル鉄道を運営するという形が本当に良いのかどうか。この辺りで一度検証が必要でしょうね。

 

3:観光鉄道としての取り組み。

すでに列車の中で地元のお料理を楽しめる薬膳列車などの取り組みをしています。

乗車券込数千円で地元事業者の提供する仕出し料理を楽しめる列車です。

こういう取り組みは、ふだん鉄道に乗らない地元の人たちに鉄道を利用していただく良いきっかけになると思います。

ただしこれでは観光鉄道とは言えません。

観光鉄道というのは、地域外の人たちに、「乗ってみたいなあ。」「行ってみたいうなあ。」という気持ちになってもらって、特段の用事はないけれど、「わざわざ乗りに来てもらう。」ことですから、「わざわざ行ってでも乗りたくなるような列車」を走らせる仕組みが必要です。この点に開拓の余地がありそうですね。

今、全国のローカル鉄道は観光列車ブームで、各地で趣向を凝らした観光列車が走っています。こういう傾向は鉄道復権の兆しとしてはとても良いと私は考えています。でも、心配なのは何年続くかということ。どんなものにも必ず初期需要というものがあり、その初期需要が一巡したときにガクンと利用が下がります。それをどうやって克服していくかということは、客商売の問題になりますから、各地の鉄道会社がその客商売の問題を克服できるかということになります。どちらかというと客商売が苦手な人たちが集まっているのが鉄道会社です。ましてブームともなれば必ず廃れます。高い金額をかけて設備投資したところほど厳しい状況になるのは商売の常道ですから、私としてはその部分が今から心配なのですが、養老鉄道が「乗ってみたくなるような列車」を走らせるにあたって、どういう企画にしていくかは、ブームが去った後でも、周辺地域や全国から集客できるような列車にするのはもちろんですが、もし集客に苦戦したとしても大きな負債にならないような、他に流用できるような列車にするというのも大切なことだと思います。いすみ鉄道のキハを使った観光列車戦略は、まさにそういうことなのです。

養老鉄道では、一部の編成を塗装変更して懐かしい雰囲気で走らせています。

こういうことができる鉄道ですから、きっと、お客様の気持ちがわかる会社だと思います。

つまり、会社の中にそのような土壌がすでにあるということですから、期待できると思っています。

 

▲昭和41年製の車両が今でも現役で走っています。あと5年もすれば骨董品として価値が出る車両でしょう。

▲日中時間帯はご覧のとおりの状況です。

▲大垣駅ではとても良い接続ダイヤで連絡しています。

▲養老鉄道の養老駅。

いすみ鉄道にも養老渓谷があります。

「よく間違えて電話がかかってきますよ。」と役場の方がおっしゃっていました。

 

いすみ鉄道と姉妹鉄道提携したいなあ、などと考えてしまいます。

 

養老鉄道の皆様、沿線自治体の皆様。

この鉄道には無限の可能性があります。

是非大切にして、地域を盛り上げていただきたいと思います。

 

お力になれることがございましたら、お申し出ください。

いすみ鉄道の仲間で、いろいろな能力を持っている人間がたくさんいますから、お手伝いできると思います。