B787のトラブルに見る航空会社の判断基準

最新鋭のB787が次々にトラブルに見舞われて運航停止になってしまいました。
航空機の運航停止というのはそれほど珍しいものではなくて、数年前にはボンバルディアがトラブル続出で飛行できない事態になりましたし、ずっと以前には全日空で飛んでいたトライスターのエンジン・タービンブレードに欠陥が見つかり、全日空が全機運航停止にしたことや、JALで使っていたDC10のエンジンパイロンに欠陥が見つかり、全世界でDC10が飛行禁止になったこともあります。
今回は日本の航空会社が世界に先駆けてB787を就航させましたので、初期トラブルも日本が一手に引き受けた形になってしまっているようです。
ただ、怖いのは電気系統の火災など、初期トラブルとして扱うには重大すぎるトラブルですから、私は今回の運航停止は妥当な判断だと思います。
以前は航空事故の9割は離陸時の3分間と着陸時の8分間に集中していて、この時間を「魔の11分」などと呼んで恐れていましたが、昨今では巡航中に突然墜落するような事故が相次いでいて、その原因のほとんどは機内火災であり、例えば映画や音楽など各座席についている電気の配線のトラブルで火災になって墜落する事故は過去10年間を見ても1つ2つではありません。
飛行機事故というと「エンジントラブル」とか「操縦ミス」などと言っていたのは昔の話なわけです。
さて、私が今回のB787のトラブルの対処の仕方で注目するのは、一昨日(1月16日)に高松空港に緊急着陸したトラブルを受けて、ANAもJALもその日のうちに所有するB787の全機の運航を停止したこと。
国土交通省が運航停止命令を出したのは昨日(1月17日)ですから、監督官庁よりも早く、自分たちで「こりゃダメだ。」と判断している点です。
航空会社はどこも経営が厳しくて、JALもやっと立ち上がったばかりの状態です。
1機数百億円という高い買い物をして運航を開始したということは、できるだけたくさんお客様の予約を取って航空券を販売し、少しでも早く投資額を回収し利益を上げなければならないという営業的な面が強くなります。
そういう状況の中で、「運航停止」と自ら判断するのは大変なことだと思いませんか。
航空券の払い戻しや他の輸送機関への振り替え、ホテルの手配などなど、これによる損出は計り知れませんが、航空会社は監督官庁から言われる前に、自ら運航停止を決めている。
これが航空会社の判断です。
私は空港の現場に長くいましたから、こういう時にお客様が苦情を言う窓口だったので、金銭的損失だけでなく現場職員をはじめとする働く側の大変さも良くわかります。
1日後に国交省が「運航停止処分」を出してくれたので、お客様も「しょうがないな。」となり、クレームも少なくなったと思いますが、自社で判断して運航停止するいうことは、お客様からの苦情はそれはそれはたいへんなものなのです。
今回はANAもJALも管理職の皆さんが自らそのような厳しい決断を下したわけですが、その管理職の皆さんというのは私と同年代のかつての同僚なわけで、誰が担当しているか知らない顔でもありませんから、彼らの判断を尊敬したいと思います。
さて、航空会社以外ではどうかというと、聞いた話ですが、鉄道業界でも他の運輸業界でも、「長」が付くポジションに居ながらなかなか自分では判断できないというか、判断したくない人たちがいるようです。
そういう人たちは、常に監督官庁である国土交通省の顔色をうかがいながら仕事をしているのかもしれません。
航空会社から来た私は、そのような考え方の体質を持ち合わせておりませんので、時として不思議な光景に出合うことがあるわけです。
そして、「不思議だなあこの会社。」と言おうものなら、どこの会社とは言いませんが、「あいつはけしからん。」と、総攻撃を受けることがあるのも事実です。
また、監督官庁である国土交通省も航空会社が管轄である航空局と、鉄道やバスなどの他の運輸機関が管轄の運輸局では、ものの考え方や体質が全く違うわけで、両方の業界を見てきた私としては、「不思議だなあ。」と思うことしばしなわけですが、おそらくやっている側としては、何の疑問も持っていないのだと思います。
10月に納車になって、11月には全般検査が終了しているにもかかわらず、キハ28がいまだに運転開始のめどすら立たないのは、航空業界の判断基準が当たり前だと思っている私としては全く理解できないのであります。
(と、本日は少しゆさぶりをかけておきましょうか。)

1月15日、山口宇部空港で出発準備中のNH696便。 この翌日にここ山口宇部から離陸した便が高松に緊急着陸しました。