1等・2等・3等車 その2

昭和40年代に国鉄の車両から等級制が廃止された話をしましたが、今でも等級制がしっかりと残っている交通機関があります。
それは船と飛行機です。
船の場合は顕著で、1等船室の人には救命ボートが用意されていますが、3等船室の人には身に着ける救命胴衣しかない船もあるようですから、等級制イコール命の値段のようなものだと思います。
では飛行機ではどうなのでしょうか。
飛行機では、特に国際線では「ファーストクラス」「ビジネスクラス」「エコノミークラス」と「クラス」に分かれています。
日本人が階級に対してどのような考え方を持っていたとしても、世界的に見えれば階級があるのは当たり前で、特に飛行機では完全に「クラス」で分かれているのが常識です。
経験された方もいらっしゃると思いますが、飛行機の場合は座席のゆったり感や特別な機内食が出るのはもちろんのこと、離陸して上空へ行ったとたんキャビンクルーがクラスの境目のカーテンを閉めてしまい、上級クラスの客室に立ち入ることも許されませんし、トイレですら上級クラスの所を使用することは許されません。
これだけあからさまにサービスの差を見せ付けられると、「いったいこのカーテンの向こうではどんなサービスが行われているのだろうか。」と気になりますし、若い人など「よし、いつかは向こうの座席に乗ってやろう。」と自分自身へのモチベーションとすれば、人生きっと良い結果が出ると思いますが、逆の場合はちょっと困ったことになります。
私が航空会社にいたころにバブルの崩壊があり、会社の出張等でそれまでファーストクラスやビジネスクラスに乗せてもらっていた人が、エコノミークラスしか利用できなくなった時代がありました。
いまから20年ぐらい前の話ですが、それまでビジネスクラスを利用していた人が急にエコノミーに転落するものですから、本人にとって見れば悲劇です。
「今日はエコノミーに乗っているが、俺を誰だと思っているんだ!」的なクレームというか、文句を言うおじさんたちをよく見かけたものです。
航空会社ではお客様に向かって「あなたはビジネスクラスです。」と会社の側から指定しているわけではなく、自分がどのクラスで旅行するのかはお客様がご自身で選択することですから、私は航空会社がお客様を差別しているとは思いませんが、世の中が急に変わって没落した貴族からしてみたら腹立たしく思ったのでしょう。
よく食って掛かられる場面に遭遇したものです。
この点、航空会社として一番商売がやりやすいのはインドだといわれています。
インドは急速に経済が発展していますが、その反面、カーストと呼ばれる階級制が歴然と残っています。
上の階級にいる人は下の階級の人と同じ座席で隣り合わせになったりすることは許されないことだと自分で思っていますから、高いお金を払ってでも自分の階級にふさわしい切符を購入するのです。
階級というのは、自分がファーストクラスにふさわしいと自分で思えば、誰に言われなくても自らお金を払ってファーストクラスの切符を買うということです。
これが、本来の「クラス」だと私は思うのですが、当時の日本人の場合は「俺を誰だと思っているんだ!」的なおじさんがとても目立ちました。
会社が上級クラスの切符を支給してくれないということは、それだけの人物なのですから、こちらに言われても返事のしようがないわけで、自分がそうでないと思うのであれば、自分で差額を払ってでも上のクラスに乗ればよいのです。
あれから20年の歳月が流れました。
20年経ったということは、当時40代だった出張族も定年になりますから、いつの間にか「俺を誰だと思っているんだ」というおじさんの姿も見かけなくなりました。
そして今日では、大きな企業の管理職でもエコノミークラスでの出張が当たり前の時代のようです。
航空会社の立場からすれば、エコノミークラスの、それも格安切符で出張することは旅程の変更が効かないという不便さばかりでなく、出張というある面臨機応変さが求められる旅行形態では、いろいろなトラブルになる元ですから、できればビジネスクラスでお出かけになられる事をお勧めします。
ところが日本ではバブル崩壊後の失われた20年の間にヘンな美学が芽生えてしまったようで、政治家の先生や政府高官などかなりえらい人でも公費で飛行機に乗るときはエコノミークラスだったりします。
政治家の先生や政府高官のような偉い人は、国民の代表として行動しているわけで、その国民の代表がエコノミークラスで旅行するということは、私から見れば国の意識を問われかねない由々しき問題で、自分たちの代表をエコノミークラスに乗せる国民は恥ずかしいと思うのですが、変な「民意」で「税金で上のクラスに乗るのは許せない。」という考え方が主流の今の日本では、私のような考え方はどちらかというと非難される側にあるのかもしれません。
私としてはこの辺が日本がすべての面において壁にぶつかって行き詰っている原因のように思うのですが、皆様方にはどのように見えますでしょうか。
(つづく)