いすみ鉄道の可能性 その2

私は東京生まれの東京育ち。
昭和40年代でも東京はコンクリートだらけでしたので、昆虫を捕まえた経験もなければ、ホタルも見たことがありませんでした。
子どものころから、私にとって、ローカル線は心が安らぐ場所。
昔からローカル線の駅に住んでみたいと思っていました。
そんな私に訪れたBIG CHANCE。
それはローカル線の駅の土地を売りますという広告。
旧国鉄時代に駅舎があった場所が無人駅になった今、売りに出されていたのです。
早速見に行って、誰もいない駅前広場を歩き回り、歩数で面積を測ったりしていると、地元のおじさんがやってきて
「何してるんだ?」と声をかけてきました。
「いえ、この土地が売りに出ているって聞いたものですから、買おうと思って。」
と答えると、「え~っ!、土地ならこの先に温泉付きの物件が安く出てるぞ。そんなところ買うのヨセ」と真剣にアドバイスしてくれました。
「いやあ、他の土地じゃダメなんですよ。ココじゃなければダメなんです。」
そう言って事情を話し、地元の方にも協力者になっていただいて購入したのがJR北海道の釧網本線茅沼駅の国鉄事業団の払下げ用地。
日本でただ1か所、タンチョウヅルがやってくる駅。
今の季節は蒸気機関車が来る駅なのです。
そしてその土地にC58の動輪を置いた。
なかなか行くことはできないけれど、
「ああ、今頃は雪が積もってるだろうなあ。」
「タンチョウヅルが来てるかなあ。」
そう思うだけで、何だかゆったりした気分になれるし、明日への希望が湧いてくるのです。

[:up:]茅沼駅の動輪。後ろはSL列車「冬の釧路湿原号」
そんなことをやってきた私の目から見てみると、いすみ鉄道はすごい可能性を秘めていることがわかります。
首都圏3500万人と言われている都会の人たちに、私が北海道の駅で味わう、こんなゆったりとした気持ちになってもらいたい。
いすみ鉄道ならばそれができると確信しているからです。
いすみ鉄道は、時刻通りに、安全に正確に列車を走らせるのが仕事です。
これを私は「素材を提供している」と考えています。
その「素材」をどのようにとらえ、どのように料理するかは、皆様方それぞれがお楽しみいただくことなのです。
皆様方それぞれが、それぞれの楽しみ方を見つけることができる場所。
それがローカル線の良いところだと思います。
「ムーミンがいるって聞いてきたんだけど、どこにもいないじゃないか!」
そうクレームする人は、来る場所を間違えているんです。
「ムーミン達はいつでも皆様がやってくるのをお待ちしています。」
この言葉がわかる人は、「素材を料理することができる人。」
つまり、幸せになれる人だと私は思います。
「素材」を自分なりに料理する力も人生では必要だと思うのです。
(つづく)