列車を支える人々

ローカル鉄道があちらこちらで危機的状況を迎えています。

でも、よく見ると危機的状況を迎えているのはJRの田舎の路線がほとんどで、第3セクターのような路線は今現在では表立って廃止議論が出ていません。

その理由はたった一言、「きちんと地域が支えているから」です。

国鉄末期に利用客が少なくて、「こんなところに鉄道は要らないよ」と言われたところが80数路線ありました。
でも、その中の半分ぐらいの路線は地域がしっかりと支えるという仕組みを作りました。

いろいろと大変ではありましたが、何とか踏ん張って鉄道を守ってきて、今、特に国鉄時代の赤字ローカル線を引き受けた第3セクター鉄道の沿線は、いろいろ工夫して観光客を呼ぶツールとして使ったりすることで、鉄道が地域に人を呼ぶ役割も果たすようになりました。
地元の人口が減少していく中で、国鉄末期の利用者よりもはるかに少ない乗客しかいませんが、何とか頑張って走ることで、話題にもなって、広告塔としての役割を果たしています。

でも、不思議なことに、国鉄時代の末期に「ここはJR路線として存続できますよ。」と言われたところが、今、議論の真っただ中にいます。
当時の数字で「とてもじゃないけど維持できない」と言われた路線が38年経ってもきちんと残っていて、「大丈夫だ」と言われた路線が今、維持できないとなっている。
当然人口減少や利用者の減少は同じですから、私はそれが廃止議論の理由だと思っていません。
理由はたった一つなんです。
「地域がしっかりと支える仕組みができないないから」です。

しっかりと支える仕組みというのは、何もお金だけの話ではありません。
「線路の維持管理を地元の自治体がやってください。」とJRは言ってますが、その維持管理にかかる費用と言ったら普通では考えられないような高額な金額です。
だいたい2~3倍ぐらいかな。
ちょっと直すと言って、ふつうなら500万円もあればできそうなところが1000万円以上だというケースがほとんどです。

以前に、JR北海道の駅を改修しようという話になって、JRが出してきた見積もりと、地元の役場が出した見積もりが3倍の金額だったという話を書きましたら、JRの担当者からクレームが付いた件がありました。
そういう時に、私は「あなたはJRのどこの所属ですか?」と聞くようにしていて、「では、あなたの上の人にこの話をしますよ。」と言うことにしていますが、そうするとたいていはそれっきり何も連絡がありません。

なぜならば、事実ですからね。

で、もう一つの事実は、JRに高い工事のお金を払っても、それは大都会に本社がある関連事業者に皆行ってしまうので地元の事業者が潤わないんです。
だから、そういう高くて地域にお金が落ちないような工事に役場はお金を出すことはありません。

こういうことが続いてきて、お互いに見て見ぬふりというか、知らん顔をしてきて30年以上経過すると、働いている人たちもそれが当たり前になるので、何も疑問に思わなくなって、当然のように自分たちのテリトリーの仕事をしているのです。
だから、私の発言に腹を立てて、「お前は何を失礼なことを言ってるんだ。」と課長や係長級の人間が文句を言ってくるのですけど、私はその人の上の人に「お宅の会社には愛社精神が高い人がいますね。」と連絡すると、「鳥塚さん、どういうことですか?」という話になりますから、「これこれかくかくしかじかで」というと、笑って「失礼しました。よく言っておきます。」となるのです。

まぁ、「よく言っておきます。」という上司の人も、だからと言ってどうすることもできないんですけどね。
つまりはそれが構造というものなのであって、そういう構造が長い年月をかけて地域に根付いてしまっているから根が深いのです。

だから、国も関与しなければならなくなって「改正地域交通法」などというのを整備しなおしたのが昨年の10月なんですね。

でも、田舎の町役場に「線路の維持管理のためのお金を出せ」などと理不尽な要求を突き付けたところで到底無理なのは私はわかっていましたから、自分の土地がある釧網本線には何とか残ってもらわないと困りますので、もうかなり以前からアドバイザーのようなことをさせていただいているのです。

で、私が釧網本線の沿線の皆様方に何を申し上げているかというと、「鉄道を皆さんで支えましょうよ。」ということです。

支えるということはお金を出すということだけじゃありません。

鉄道会社が一生懸命頑張つているということを素直に認めて、地域住民ができること、地域行政ができることをしっかりとやりましょうということです。

最初のきっかけは大木さんという標茶の女性から千葉県の大網で話しかけられたことでした。
ある会合に彼女が出席していて、私にこう言ったんです。

「JR北海道は酷いんですよ。釧網本線の地元の五十石という駅を廃止にするって言うんですよ。鳥塚さん、どう思いますか?」

私はこう答えました。

「その駅を利用している高校生が卒業なんじゃないですか? その後、もう定期的に利用する人がいなくなるんじゃないですか?」

大木さんはびっくりしてこう言いました。

「なんでわかるんですか? うちの息子なんです!」

大木さんの息子さんが来春卒業すると、定期利用者がいなくなるんです。

「JRって会社は、そういうところをしっかり見ていて、息子さんが卒業するのを待っていてくれたんですよ。」

私がそう言うと、大木さんの目の色が変わりました。

「じゃあ、私たちもJRのために何かしないといけませんね。」

「そうですね。私は毎年SLに乗りに行ってますけど、標茶の駅に着くと駅前ががらんとしていて誰もいません。どこへ行ったら食事ができるかもわかりません。だから、線路伝いに歩いて行って、踏切の近くでお蕎麦を食べて帰ってくるか、コンビニですよ。せっかくいらしていただいたお客様にそれじゃいけませんよね。」

大木さんは一言、「わかりました。」

それからが早かったですよ。
女性陣は本当に動きが早い。
次の年に行ったら駅で手作りの地図を配っているんです。
手書きの地図にお店が書いてあって、お蕎麦とか中華とか喫茶店とか。
どこへ行ったら何が食べられますよってね。

食べログとかもありましたけど、やはり地元の人たちの手作り情報ですからね。
ありがたいことです。

大木さんは「とりあえず今年はこれをやります。」

そして次の年には女性陣の有志で駅構内の空き室を借りてお店を始められて、それから毎年、だんだんと取り扱う商品が増えていくし、賑やかになって行って、しまいには町役場が予算を取って町内の飲食店を巡回する無料タクシーを走らせたり、町長が列車をお出迎えするようになって今日があるんです。

黄色いひよこの帽子をかぶっているのが大木さんです。

「もう何年になりますかねえ。」
私が聞くと、
「8年ですよ。鳥塚さんにハッパをかけられて8年です。」
「すごいですねえ。昭和のウーマンパワー、続いてくれてありがたいです。」

標茶町の佐藤町長も私の顔を見るなり、「ちょっといいですか? 打ち合わせしたいことがあるんです。」と言って1時間みっちりランチミーティング。
アポなんて入れてないですよ。
ふらりと行っただけですから。

こういう活動が続くと、当然JRだって無視できませんよね。


会長になられた島田さんも2年前の社長時代にここ標茶のご婦人グループに感謝の意を述べるために訪れています。

実は今年はSLの調子があまりよくないんです。
普通だったら「じゃあ、ディーゼル機関車にしましょう。」となるところですが、やっぱりSLじゃなければ意味がありません。
そこでSLの後ろにディーゼル機関車の補機をつけて2両体制で運行してるんです。

これ、実は大変なことなんですよ。

何が大変かって、人の手配です。

機関車ですから、SLの乗務員の他にディーゼル機関車の乗務員も必要です。
電車のように何両つないでも運転士一人で運転できるものではありませんから。
そして、乗務員のスケジュールって、もう決まってしまってますから、例えば1日か2日のピンチヒッターだったら何とかなるかもしれませんが、最悪機関車の調子が悪ければ3月までこれで行くわけですから。

でも、JRとしては何とかこの列車を運休させまいと頑張っているんです。

釧網本線では網走方も地域の人たちが頑張っています。

この間YAHOOニュースに書いた網走のMOTレール倶楽部の皆さんです。

観光列車「流氷物語号」です。
地元のボランティア団体と網走市とJRが一体となって走らせている列車です。
みんないい笑顔してるでしょう。
ふつう、JRの運転士さんにカメラを向けても、こんなにいい笑顔してくれませんよ。運転士さんだけじゃなくて、駅の人たちも皆さん一生懸命です。
なぜなら、地元の人たちがこれだけ盛り上げようとしている列車ですからね。
沿線は無人駅ばかりだし、列車はワンマンだし。
そういう中で、観光列車を走らせるなんてJRとしては無理ですから、本社としては面倒くさいことはやりたくない。
でも、地域の人たちがおもてなしを支えるというのですから、「だったらできますね。」となるでしょう。

やらなかったら「改正地域交通法」の趣旨に反することになるわけですからね。

釧網本線は全線至る所で地域の人たちがこういう活動をして鉄道を支えているのです。

全国的に見て、他にもありますよ。
追分を中心とした室蘭本線もそうです。
今、東北の北上線でも始まりました。
九州の指宿枕崎線も皆さん熱心です。


北海道安平町の及川町長さん(右から2人目)と安平町幹部の皆さん


北上線沿線の横手市の高橋市長さん


指宿枕崎線の南九州市の塗木市長さん(私の向かって左となり)

私は以前からいろいろな地域で鉄道を大切にすることで地域が良くなりますよいう話をさせていただいていますが、皆さん、ありがたいことに私の話を素直に聞いて実行に移してくれていらっしゃいます。
できない理由を言う人たちではないんですね。

でも、実はまだまだで、こういう地域はほんの一握りです。
ほとんどの地域はここまで議論が成熟していません。
それだけ、JRと地域の確執は根深いのです。

だからと言って知らん顔して良い訳はありませんよね。

日本は人口が減っていくんです。
ローカル鉄道もそうですが、地域だって全部が全部残れるところではありません。
だから、ダメになっていくところは止めることはできないんです。

でも、鉄道と地域住民と行政が力を合わせていけば、きっと明るい未来は開けると私は考えています。

なぜならば、鉄道は夢と希望を乗せて走っているからです。

【YAHOOニュース】オホーツク海に一番近い駅「北浜駅」が今年で百周年の地元企画