飛行機の位置通報

マレーシアの飛行機が突然と姿を消してから10日以上が経過しました。
今まで航空機が行方不明になることはありましたが、こんなに長い間どこへ行ったのかわからない何てことはありませんでした。
私が子供のころは、日本でも飛行機の墜落事故が毎年のように発生していて、「また落ちたぞ。」と大人たちはしょっちゅう言ってましたが、例えば札幌から東京へ向かっていた全日空機が東京湾で行方不明になったとか、函館空港に着陸する直前のYS11がいなくなっちゃったというような第一報というのがニュースで報じられることはありましたが、翌日にはだいたい近くに墜落しているのが見つかりましたので、今回も、2~3日あれば、見つかるだろうと思っていましたが、いったいどこへ行ってしまったのでしょうか。
飛行機というのは無線で交信をするというのは当たり前だと思われていますが、無線というのは管制塔にいる管制官とパイロットが会話でやり取りをするいわゆる「無線電話」以外にも、離れた所へ情報を送ったり、離れた所から情報が送られて来たりする手段は、いくつかあります。
テレビのニュースやインターネットでこのごろ言われているのが「トランスポンダー」とか「エーカーズ」という言葉で、今までこういう言葉は一般には使われていませんから、何だろうと思われるかもしれませんし、私も久しぶりに聞く言葉ですが、これも無線通信の一つで、飛行機が自分の位置などの情報を送ってくる手段です。
地上から飛行機を探す場合、レーダーで電波を送って、その電波が空中の物体に当たって反射してきた反射波をキャッチすることで位置を知ることができます。
ところが、何十キロも何百キロも遠くの飛行物体に向けて電波を発信し、その反射波をとらえるということは、かなり大きな電力が必要ですし、そこに物体がいることはわかりますが、何が飛んでいるかわかりませんから、いわゆる未確認飛行物体(UFO)になってしまいます。
これを防ぐために、飛行機は「トランスポンダー」という機械を搭載していて、地上からのレーダー波をキャッチすると、トランスポンダーで自分の情報を送り返してあげるんです。
これをSSRというのですが、つまり、レーダー側から「あなたは誰ですか?」と質問の電波を送って、それに対してトランスポンダーが「私は日本航空の131便です。」と答えを送り返すことで、地上の管制官は、レーダー画面上でその飛行機の便名、高度、速度などを知ることができるわけです。
このトランスポンダーは4ケタの数字を入れ込むことで識別されるもので、管制塔から、「スクォーク」と言われて、指示された数字をパイロットが入れると、地上からのレーダー波に応答して自機の情報を返答するシステムになっています。また、ある特定の数字を入力すると、パイロットが無線で「ハイジャックされた!」と緊急通報しなくてもハイジャックされていることがわかりますから、ハイジャッカーに気づかれずに情報を送れる重宝なシステムとして40年ぐらい前から使われてきていますが、今回は離陸からしばらくして、このトランスポンダーの電源を切ってしまったようですから、航空管制用のレーダーでは「突然機影が消えた。」ということになったのだと思います。
テレビなどで報道されているもう一つのシステムに「ACARS(エーカーズ)」というのがあります。
これは、この20年ぐらいで一般に使われるようになった衛星を利用したシステムで、レーダーでカバーできないような洋上やシベリア大陸などを飛んでいるときでも、現在位置がはっきり分かるシステムです。
また、このシステムは地上からの情報なども送ることができますので、例えば出発前の重量計算やバランス計算に時間がかかっても、とりあえず飛行機を出発させて、離陸に向けた地上滑走中に情報を送ることで、事務手続きのために出発を遅らせることなく、飛行機が間違いなく運航できるという優れものです。
また、いわゆるツイッターのようなショートメールも使えますので、無線電話で音声を送らなくても、飛行機と地上でチャットのように情報を伝え合うこともできるので、このACARSが登場した時は、メールもチャットもツイッターも一般化する前でしたから、「これは面白いものができた。」と友だちのパイロットといろいろ試したことを思い出します。
携帯電話が通話型からメールやツイッター、そしてスマホになっていったようなことが、航空業界では20年ほど前から変化して来ていて、それに伴って航法援助システムの性能が上がって、安全性が増してきているのです。
今回の航空機の行方不明では、トランスポンダーばかりでなく、このACARSも電源も切られていたというのですから、意図的に航空知識がある人間が機内側から操作したのだろうということのようですが、だとしたら、何の目的でそういうことをしたのか。
飛行機を墜落させるだけの目的であれば、そんなことをする必要がないでしょうから、もしかしたら、6時間以上飛行して、西側諸国と敵対しているような国の軍用基地に向かって飛んで行って、着陸か不時着しているのではないかとも考えてしまいます。
世界で初めてのハイジャックといわれる日本航空の「よど号」がそうであったように、どこかに無事に着陸しているのが見つかれば一番良いのですが。
飛行機は西に進路を変えて、アンダマン海方面へ飛んで行ったと言われていますが、この「アンダマン海」という日本人には聞きなれない海の名前は、私が大韓航空に入社する直前に北朝鮮のスパイによって爆破されたボーイング707という飛行機が墜落したところですから、40歳以上の方でしたら、この海の名前も、飛行機に爆弾を仕掛けた女性スパイの名前もご記憶されている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
航空輸送の安全性というのは、飛行機を物理的に飛ばすシステムだけではなくて、テロやハイジャックなどの外部要因にも大きく左右されていますから、新幹線に乗る時に金属探知機やボディーチェックが必要ない日本の鉄道は、本当にありがたい交通機関だと思います。
いずれにしても、1日も早い発見を祈ってやみません。