タラコの誘惑

北海道の登別の近くに虎杖浜というところがあります。
ここで採れるタラコは特級品で最高のタラコです。
などという話をすると、
「北海道の登別ではタラコ色の特急が走っていたのですか?」
という人がいるかもしれません。(いないか。)
いすみ鉄道社長のブログをお読みいただいている方の中には、それだけ頭の中はタラコでいっぱいの人が多くいらっしゃるのではないか思いますが、タラコだけでなく、昔からチョコレートに始まり、カボチャやカステラ、そして昨今ではタクワンなど、身近な食べ物が鉄道ファンの皆様方の関心を集めています。
私が初めてタラコと出会ったのは高校生の時で、それはバックパックを背負って北海道を旅していた時に札沼線に新製配置されたキハ40系でしたが、その時は見たことがない車両が見たこともない色に塗られているのを見て、わが目を疑ったというか、思わず2度見したことを覚えています。
それが確か昭和52~3年ごろだと思いますが、その時から35年以上が経過していますし、タラコ自体は北海道だけでなく首都圏色と言われるように、首都圏の相模線や川越線から配置が始まりましたから、例えば当時10歳で、鉄道に興味を持った小学生だった人はもう45歳になる計算で、40代以下の皆様にとってみれば、物心ついた時から走っているタラコ色の車両が懐かしさの対象だと思います。
人間というのは、だいたい小学生から高校生ぐらいまでに経験したことが、大人になっても鮮明な記憶として残っていて、それがその人にとってのノスタルジーの基準になると言われていますが、私にとっては高校の時に初めて見たタラコよりも、当時いくらでも見ることができた一般色(今のキハ52のツートン色)の方が、当時の時代背景に溶け込んでいて、ノスタルジーの対象であり、それが私だけでなく、私と同年代の50代以上の人間に共通していることと思いますが、70歳ぐらいになってくると、旧国鉄色と呼ばれるブルーとグレーの塗り分け(キハ52がいすみ鉄道にやってきた時の色)が懐かしいと思われるのではないでしょうか。
つまり、ディーゼルカーの色の塗り分けを見て、どの色が懐かしいかということは、年齢によって違うということでありますから、今のキハ52の塗り分けを見て懐かしいと思う私の年代の人たちは、歳を重ねるごとに少数派になって行って、それと共にタラコが懐かしいと思う人たちが時代の主流になって来るということになるのです。
例えばいすみ鉄道の前身の国鉄木原線の場合も、同じように昭和52~3年ごろからタラコが走り始りはじめているはずですから、木原線沿線で育った40歳以下の人にしてみたら木原線イコールタラコ。国鉄気動車イコールタラコになりますから、皆さんに喜んでいただくためにはやっぱりタラコも必要かなあ、という誘惑に駆られる今日この頃なのであります。
私から見たら、タラコは、大きな赤字を抱えた国鉄が、2色で塗るより1色の方が手間がかからず、コストも低いからというただそれだけの理由で塗り始めた色で、そういう発想は、当時の鉄道事業者としての車両に対する愛情のかけらも感じられない意思決定ですから、そういう色の車両を見て育った子供たちが大人になって、その色を懐かしいと思うのは何とも複雑な気持ちで、当時の国鉄の意思決定者たちは、自分たちがやったことの罪深さをどう感じるのだろうかと今さらながらに思いますが、歴史は繰り返すと言われる通り、最近ではこの国鉄のタラコ発想と同じ「面倒くさいから」という理由で、やっぱり同じように車両を一色に塗ってしまう会社があるようですから、さらに複雑な気持ちになるわけです。
自分たちのプロダクツに対する愛情がみじんも感じられないのですから。
そして、今、その車両を見て育った子供たちが何十年か後に、その色を懐かしいと思うわけですから、この国の美的センスはどうなってしまうのだろうか、と思うわけで、それって実はとても罪深いことなのです。
鉄道車両というのはそれだけ将来への影響を与えるものだというところまで考えて色を塗らなければいけないものなのですが、そういう心の余裕がなかなか見つからない人たちが意思決定しているということがさみしいですね。
湘南電車の色は「お茶とミカン」。横須賀線の色は「青い海と白い砂」というように、美的センスで彩られた電車は60年経っても色あせることなく走っていますし、リバイバルカラーの対象にもなっていますが、そういう人々の心に訴える大元になるぐらい印象に残るものでありますから、鉄道車両というのは、そういう使命もあるのではないかと思うのです。
だから、新型車両が入る時に、それまでの車両とは似ても似つかぬ色に塗り替える会社が多い中で、私は、地元の皆様方に親しんでいただいているいすみ鉄道カラーの黄色い列車の塗装をそのまま新型車両に踏襲しましたし、国鉄時代のディーゼルカーの色も当時と同じに再現しているわけです。
ということで、40代以下の皆様方に敢えてお聞きしたいことがあります。
それでもあなたはタラコが好きですか?



まあ、確かにこれも国鉄色なんですがね。