景気が良くなるということ。その3

日本は20年以上にわたって不景気の時代が続いてきました。
だから、30歳代よりも若い世代の人たちは、好景気というものがどういうものか、実感することができないと思います。
これから日本が景気が良くなる予感がしている中で、例えば日経平均株価や円相場などが景気のバロメーターにはなりえない時代の今、不景気から好景気へ移行する世の中をどうやって生きて行ったらよいのか。
別にうまく立ち回って一儲けしようというわけではありませんが、初めての経験をする人たちにとっては、知っておいた方が良いことがあるかもしれません。
前回お話しさせていただいたのは、景気が良くなると物価が上がる。だけど、いきなり物の値段が上がるのではなく、例えば同じ値段でも中身が少なくなったり小さくなったりすることも、物の値段が上がることと同じだということや、物の値段ばかりでなく、人の値段も上がるということ。それも単に人件費が上がるということではなく、優秀な人材を確保するためには、お金を惜しんでいると、どんどん他に取られてしまうということと、それと同時に、ふつうの人の給料はなかなか上がらず、ふつう以下の人の給料は逆に下がっていく可能性があって、それが好景気の世の中の格差を作って行くことになる。ということでした。
だから、不景気が20年以上も続いた日本で、物が安く買えるのが当たり前。人が安く使えるのは当たり前。そう思っている人や組織や地域は、景気が良くなるとどんどんおいていかれて取り残される可能性があるわけなんです。
でも、私のように外国の会社に長く勤めていた人には、過去20数年間でも好景気、不景気の波が何度も押し寄せてきているのを実感されている方もいらっしゃると思います。
私の場合は、「アメリカがくしゃみをすると、日本が風邪をひく。」という話を地で行くように、外国でテロ事件などが発生すると、翌日から飛行機に乗るお客様の予約のほとんどがキャンセルされるという経験を何度もしてきました。
特に、観光需要として考えた場合、テロなどの不可抗力だけでなく、ヨーロッパのような一番遠い地域は、不景気の影響を真っ先に受ける地域なんです。
私たちが旅行に行く先として、一般的な目的地を遠い順番に地域をあげるとすれば
ヨーロッパ・アメリカ
ハワイ・グアムなど
香港・東南アジア
北海道・沖縄
その他の国内1~2泊観光地
そして日帰り観光地
と、こういう順番になります。
景気が悪くなると、真っ先にお客様がいなくなるのが、一番遠くにあるヨーロッパやアメリカで、その次がハワイやグアム。
そういう遠くて費用が掛かる順番にお客様が減っていきますが、最後まで残るのが日帰り観光地なんです。
なぜかと言うと、皆さん、不景気になってお金はないんだけど、やっぱりどかへ行きたいという気持ちはありますから、今まで遠いところへ行ってた人たちは、中ぐらいの遠さの所に行くようになるし、中ぐらいの遠さの所へ行っていた人たちは近場へ行くようになる。
近場へ1、2泊で行っていた人たちは、日帰り観光地へ行くようになる、というように、だんだんスケールダウンしていきますから、一番最初にお客様がいなくなるのがヨーロッパで、一番最後まで残るのが日帰り観光地ということになります。
私は、ヨーロッパの会社から千葉のローカル線に来ましたから、両極端を見てきています。
だから、そういうことが実感できるわけです。
いすみ鉄道に就任して4年半になりますが、不景気の時には不景気の商売のやり方がありますから、私は「日帰り観光地」を一生懸命に売り出すことで、いすみ鉄道への旅行需要を掘り起こしてきたのです。
ところが、安倍政権になって1年。アベノミクスのおかげで世の中はインフレ、好景気の方向へ向かっています。
テレビのニュースでは、この年末年始の海外旅行者数は過去最高になると報じていますし、ビジネスクラスで行く旅など、高級志向、贅沢志向が顕著になっているらしい。
ということは、今までの不景気時代と比べて、旅行に出かける人々の流れが逆の方向に向かっているということになります。
つまり、今まで旅行へ行くといっても、遠くへは行けず近場でお茶を濁していたような人たちが、皆さん遠くへ、遠くへという動きを希望するようになる。
景気が良くなれば、それまで1泊で温泉へ行っていたような人たちが、沖縄や北海道へ行こうという気持ちになるし、沖縄へ行っていた人たちはハワイへ行こうという気持ちになるからです。
そこで問題となるのは日帰り観光地。
そう、景気が良くなると、日帰り観光地は見向きもされなくなる可能性があるんです。
おそらく、房総半島各地の観光地にある役場や観光協会の中で、こういうことを直感的に見極めて、それに対する対策を立てているところは皆無だと思いますが、私はこういう危機感を以前から持っていましたので、このところの世の中の流れを見ていて、日帰り観光地の観光鉄道として、今までとは別の戦略が必要になると、今年の春ごろからのお客様の流れや動き、数字の変化などを見て確信しました。
ところが、日帰り観光地としては、いきなり宿泊施設を作るわけにもいきませんし、もし宿泊施設を作ったり、既存のホテルなどがキャンペーンを敷いたとしても、そういうお客様は、「どうせ泊まるんだったら。」と、やっぱり遠くへ行ってしまう傾向がありますから、日帰り観光地での宿泊への移行を促すビジネスではうまくいきません。
そこで考え出したのが、いすみ鉄道でこの夏から運転開始したイタリアンランチクルーズなのです。
同じ日帰りでも、他では味わえないような、ちょっとリッチな旅行を提供する。
そして、その旅行プランが、大人気で予約がなかなか取れない状況にある。
そういう商品を提供できれば、いすみ鉄道でイタリアンランチクルーズに乗ることが友達への話のタネになるし、周囲から「へえ、凄いわねえ。」と言ってもらえるような旅行になる。
沖縄や北海道なら飛行機に乗れば誰でも行かれるけれど、いすみ鉄道で食堂車に乗ってイタリアンを食べるのはなかなかできることではない。
という商品を提供することで、地域のブランド化はもちろんのこと、好景気の時代でも、お客様の気持ちを引きつける「日帰り観光地」ができると考えたのです。
誤解しないでいただきたいのは、私はわざと予約が取れない状況にしているのではないということで、月に2回の日曜日の運転は、実際に自分のお店を経営されているシェフに腕を振るっていただくために、いすみ鉄道に乗っていただくには最大限の回数であって、本当は毎週土日にやりたいけれど、それだと、シェフが自分のお店が開けられなくなるし、1回あたりの定員20名様というのは、車両の大きさですから、これ以上実施回数も座席も増やすことができないのです。
そういう商品を提供することは、地域の産品の話題にもなりますから、私はローカル線としての使命の一つだと考えていますが、ちょっとリッチな日帰り旅行というのも、私自身が「自分だったら参加したいだろうなあ。」という商品なんですね。
いすみ鉄道のイタリアンランチクルーズは、そんな食いしん坊の社長が、自分が乗りたいと思って企画した、少し景気が上向き始めた時期の商品なんです。
ということで、1月から2月にかけて、冬メニューのイタリアンランチクルーズが、来週の12月23日の午後8時にいすみ鉄道のWEBショップ及びJTBサイトにて発売開始となります。
詳細はあさって以降、いすみ鉄道ホームページのトピックス欄でお知らせいたしますが、発売はインターネットのみとなりますので、お電話でのお申込み、お問い合わせには対応しておりません。
皆様どうぞよろしくお願い申し上げます。
日帰り観光地というのは、当たり前のことですが、宿泊が伴いません。
宿泊を伴う観光では、ホテルや旅館で夕ご飯においしいお料理を食べることが旅行の重要なテーマになります。
でも、日帰りのお客様は夕ご飯においしいお料理を食べることはありませんから、房総半島のような地域はランチが勝負なんです。
ランチにお金をかけて、リッチなプチ旅行が楽しめるようにすると、お客様の満足度が上がる。
これから景気が良くなる時代を迎えるにあたり、私はそう考えて、いすみ鉄道で食を提供する商売を展開していきたいと考えています。
(おわり)