指定席に対する考え方

鉄道会社のルールや運営がとてもユニークで、中には一般の商習慣や、ふつうの人の考え方にそぐわない部分があるのではないか、というお話を昨日いたしましたが、そんなルールの一つに、「指定席」があります。
特急列車や急行列車には指定席や自由席があって、特急列車の場合、特急券(座席が指定されている)と、自由席特急券(自由席車両に乗車する)の2種類があり、自由席車両の方が指定席よりも500円程度安いわけです。
指定席と自由席は何が違うのかというと、座る席が保証されているかどうかという違いだと思います。
指定席券を持っていれば、始発駅で乗車の前から列を作って並ぶ必要もないし、途中の駅からでも必ず座れる。
これが指定席だと私は思います。
で、それを拡大解釈しているのかどうかは知りませんが、おそらく運用上の混乱を避けるため、自由席車と指定席車が連結されている場合には、自由席のお客様は自由席車に乗ることが義務付けられていて、指定席車に入ると、指定席料金を請求されます。
いくら、自由席が満員であって、指定席がガラガラであっても、自由席のお客様が指定席に行くと、料金を徴収されます。
私はこの制度がどうしても腑に落ちません。
旅客営業規則によると、
(座席指定券の改札及び引渡し)
第236条の3 座席指定券を使用する旅客は、当該旅客車に乗車したときは、直ちに、その乗車に必要な乗車券及び急行券とともにこれを係員に呈示してその改札を受け、また、使用を終えたときは、これを係員に引き渡すものとする。
と、このようになっていますから、「当該旅客車」つまり、指定席車両に乗車したら座席指定券が必要ですよ、というふうに解釈されているのでしょうね。
つまり、指定席車両に一歩でも立ち入ったら指定席券が必要ですよとなるのでしょう。
こういう規則を基に、だからお金をいただきますというのは、お客様の利便性や合理性を全く考えていない、サービスと言えないサービスなわけですから、私は、子どもの頃から、鉄道旅行をするたびにこのルールに親しんできてはいるものの、平成も25年になって、輸送という点で鉄道のコンペティターもたくさん現れてきている中で、いつまでそんなことをやっているのだろうかと思うわけです。
外国では、例えば、私がよく乗る台湾国鉄では、特急「自強号」に自由席という概念はありません。
駅の出札窓口で 「何時の列車」と指定すると、すべて指定席です。
満席の場合はどうするかというと、自動券売機で切符を買うか、窓口で指定なしの券を買って列車に乗り込んで、空いている席に座るわけです。
そして、その席のお客様が乗ってきたら、「はい、どーぞ。」と席を譲ります。
ヨーロッパの鉄道などでも、クラスが同じであれば基本的にどの座席に座ってもよく、予約されている座席には「予約済」のマークがついているけど、そのお客様が来るまでは座っていても構わないわけです。
これは実に合理的な方法だと思います。
例えば、東北新幹線で東京から盛岡まで行くとします。
窓口で切符を買ったら、指定席は満席ですと言われる。
で、車内に入ると、空席がある。
その空席に大宮を出ても誰も来ない。
こういうことはよくあるわけで、結局仙台からお客様が乗ってこられたりする。
もし仙台までと言って指定席を求めれば座席をもらえたかもしれないけれど、盛岡までと言ったがために「満席です」と言われるからです。
だったら、混んでる自由席のお客様が仙台までその指定席に座って行っても何の問題もないはずだと私は思います。
要は、その座席の指定券を持ったお客様がいらっしゃったら席をギブアップして、「はい、どーぞ。」と言えばよいだけの話なのです。
指定席というのは、指定券を持っているお客様は座れますよ、という席だからです。
これが、グリーン車や寝台車のような特別のサービスを提供する特別な車両であれば、「その席は料金がかかりますよ。」と言われるのは理解できるのですが、指定席というのは最初に言った通り、座ることが保証されているというだけの座席なわけで、何も、「ここは指定席車両だから、この車両に立ち入ったら指定席料金を払え。」などと、鉄道会社も、指定席券を買って座っている人も、いちいち目くじらを立てることはないわけです。
自分の隣の座席に座った人が指定券を持っていようが自由席券だろうが、そんなことは、すでに座っているあなたには関係のないことで、いちいちトゲトゲする必要はない。
というのが私の考え。
特別な座席でもなく、特別なクラスでもなく、特別なサービスがあるわけでもない。
指定席というのは、その人の座席が保証されていますよ、というだけのサービスだからで、自由席車も指定席車も、基本的には同じ普通車なのです。
私がこんなことを言うと異論を唱える方もいらっしゃると思いますが、その昔、人々が座ることにどれだけ苦労したか。
上野駅では毎年帰省の時期になるとテント村ができて、列車に座るため、というか、乗るために(下手すれば車内に乗り込むことすらできなかった時代ですから)どれだけ苦労したか。
「ワッペン列車」などという制度を作っていた時代を振り返れば、始発駅はもとより、途中駅からでも、自分が座る座席が確保されているというだけでありがたいわけで、それが指定席であって、そのための料金が指定席料金なのです。
だから、いすみ鉄道の観光急行列車の「指定席券」も、あくまでも座席が保証されているというだけの切符であって、列車がすいていれば指定席を買う必要もないと思いますし、空席があれば指定席に座っていたって別に「お客さん、あんた解ってるのかい? そこは指定席だから、どんなに空いていても座ったら料金がかかるよ。」と言う気もさらさらないのです。
こういう私の考えで、いすみ鉄道の指定席は「ゆる~い」感じで運用しているわけですが、今回のダイヤ改正で、上総中野から大原まで直通列車として運転される列車に大多喜からご乗車になる場合などは、せっかくだから座りたいというお客様にとって、指定席はありがたい存在なんじゃないでしょうか。
ローカル線は座れなければ旅の楽しみが半減する、というのが私のポリシー。
だから、その「座る」ということのための料金が指定席料金だということでいかがでしょうか。
「お前、指定券持ってないのに、座るとは何事だ!」というのは他の鉄道の係員とお客様が言うことであって、いすみ鉄道では、それほど目くじらを立てることでもないし、そういう余裕というか、「まあ、いいんじゃないの。」ということを身を持って体験するのがローカル線の良さだと私は考えています。
とにかく、大手鉄道会社の運用が、いつでも正しいわけではないと私は思いますし、だからといってキリキリすることもないんじゃないか、というぐらいじゃいけないでしょうかね。
300円がもったいなければ、自由席券で指定席に座っていればよいのです。
で、指定席のお客様がいらしたら、即座にどく。
停車駅の度に指定席のお客様がいらっしゃるのではないかとビクビクすることと、300円のどちらが価値があるか、ということで、のんびりしたいと思えば指定席を買えばよいし、たとえ300円でも、支払うのが嫌だ、もったいないと思う人は、指定席のお客様がいつやってくるか、ビクビクしながら乗っていればよいのです。
ただし、その席は指定席だから、その席のお客様がいらしたらサッと席を立つのは当然のこととして、指定席のお客様がいらっしゃるのが前提ですから、座席で弁当を食べたり、散らかしたりして座席まわりを汚すなんてことはもってのほかなのは、鉄道会社に言われるまでもなく、大人として当然のことですよね。
私の仕事は、「そこは指定席だから座っちゃだめだよ。」と言うことではなくて、鉄道会社として、どうしたら指定席を満席にするかを考えなければならないわけですから、新しい作戦を展開しているところです。
どういう作戦か? 
それは指定席に座れる急行券付1日フリー乗車券。
先月、3月24日で開業25周年を迎えたいすみ鉄道ですが、開業25周年記念として土休日に使える1日フリー乗車券(急行列車乗り放題、そのうち1回だけ指定席乗車可能)を発売いたしました。
大人1800円。子供1000円。
いちいち急行券を買う手間も省けますし、当日、乗車前に事前に大多喜駅、大原駅窓口で指定を受ければ1回だけ指定席に座れるという優れものの切符です。
指定席に座れば、急行2回乗車で元が取れるのです。
これでどうだ!

これで、指定席に座るお客様の数がグンと増えます。
1日フリー乗車券の中に指定席料金が1回分だけ含まれているのですからね。
どうせ誰も来ないからと、ちゃっかりキハ28のボックス席に座ったものの、指定のお客様に「どけ」と言われ、ジプシーのように車内をさまようことと、300円を比較して、どちらが良いかは、自分自身で判断すればよいのではないでしょうか。
ケチな奴はケチだからね。
これは、習性ですから、いちいち相手にすることはないのです。
そうそう、いすみ鉄道では指定席券を1人で2枚以上購入するのもOKですよ。
子どもの乗車券を所持していること、などとは言いません。
前の座席に足を投げ出して旅行するのもローカル線の楽しみですからね。
ただし、靴を脱いでから足を乗せてくださいね。
近日中に発売を開始する予定の観光バスツアーも、この急行フリー1日乗車券がセットになる予定です。