エアラインホテル

少し前の話になりますが、8月下旬に博報堂さんのお招きで幹部研修会の講師をさせていただきました。
この研修会はたいそう盛り上がり、研修会終了後、約2時間にわたる懇親会を兼ねた質疑応答で博報堂幹部の皆様方に取り囲まれました。
その席でお酒が出たことから、博報堂さんのお手配でその晩は会場のホテルにお部屋をご用意いただきました。
宿泊したホテルは都内でも高級ホテルの部類に入るエアラインホテルで、翌朝の朝ごはんも焼き魚に小付けが付いた和食で3000円でしたから、庶民の日常とはかけ離れた非日常のお値段で、ホテルのルームキーと一緒に朝食券を渡されたから食べたものの、自腹じゃ絶対に食べないということで、授業料なしで良い勉強をさせていただいたと思います。
ところで、私はいつも不思議に思うのですが、日本では昔から航空会社がホテルを経営しています。
実際の経営は直営であったりフランチャイズであったりと、ホテルによってさまざまだと思いますが、共通しているのは航空会社の名前をそのホテルの冠につけていることで、これは、私の経験からすると、日本独特の不思議なスタイルだと思います。
私が前いた会社は世界的な規模の航空会社でしたが、ホテル事業はやっていませんでしたし、アメリカやヨーロッパでは、出資しているホテルはありますが、航空会社がホテルをやっているという話はまず聞いたことがありません。アジアでは航空会社系と思われるホテルはあることはありますが、たいていは海運会社などの大きな会社の傘下に航空会社やホテルがある形態ですから、航空会社とホテルはグループ会社の一角であって、航空会社の名前がホテルの冠になっているわけではありません。
ところが、日本では赤い翼も青い翼もホテルをやっていて、ホテルの名前にそのエアラインの冠が付いていて、そのホテルが高級ホテルになっているのですから、それは世界的に見ても不思議な光景に見えるわけです。
一般的な話をすれば、たいていの国では航空会社というのはあまり高い地位にあるわけではありませんし、良い会社と思われているものではありません。
これは、航空会社ばかりでなくて、鉄道やバス、タクシーなどの交通機関に勤務しているということ自体が、社会的に高い地位にないというのが常識の外国が多い中にあって、日本は、交通機関に勤務しているというと、「立派な会社ですねえ。」と言われることが多いようですし、それが航空会社ともなれば、「すごいですねえ。」となるようです。
働いている側から見ると、職場の仲間たちはみな優秀で、責任感があって、職業に対する誇りを持っている人たちばかりですから、そういう職場が高い評価を受けるのは当然だと感じますが、その高い評価ゆえに人件費も高くなる傾向にあって、それが現在の運輸業界の経営上の一つのネックになっていることは、小さなバス会社に始まって大手鉄道会社、そして、航空会社に至るまで、共通の課題になっているのです。
ちなみに、成田空港でバリバリ仕事をしているエアラインスタッフでも、「アメリカ人の友達には大学を出て航空会社で働いているなんて恥ずかしくて言えない。」と考えている人も数多くいて、端的に言えば、アメリカやヨーロッパでは航空会社に勤務するというのは大卒者の進む道ではないのが一般的なんですが、インドや東南アジアの各国では、航空会社に勤務するということは一つのステータスであって、高学歴者が集まっている現象が見られます。日本でも経営幹部ばかりでなく現業部門の人間にも大卒者が集まっているというのは、実は発展途上国的で、昭和40年頃ならともかく、今の日本でもそれが見られるというのは不思議な現象だと私は思っています。
そういうお国柄だからだとは思いますが、航空会社の名前を付けたエアラインホテルは日本では高級ホテルの部類に入りますし、それなりにサービスも行き届いているところが多いのも事実だと思います。
実は、先週も福岡で同じエアラインホテルに泊まりましたが、私のお気に入りの朝食無料のチェーン店に比べると、ロビーや共用スペースもゆったりとしていて、部屋のつくりも特にお風呂やトイレがゆったりとしていて快適に過ごすことができました。
でも、不思議なのはそういうエアラインホテルでは朝食が2000円で食べられれば安い方で、とても手が届く値段ではありません。
昔なら、飛行機自体が非日常の高級な乗り物でしたからホテルも高級路線で良かったと思うのですが、今の時代は飛行機も日常化して安い切符もたくさん出ているのだから、エアラインホテルも価格的にもう少し庶民的になっても良いのではないかと思います。
このような日本のエアラインホテルの業態を見ていて、私が見習わなければならないと考えるのは「ブランド化」です。
日本人が航空会社にあこがれを持っていた昭和の時代から、航空旅行が一般化した現在に至るまで、航空会社はブランド化がとても上手で、航空券は安売りをしても決して自己ブランドの安売りをしていないということです。
旧国鉄系列の鉄道会社も今ではいろいろなところで、いろいろなグレードのホテルを展開していて、そこそこサービスは良いのですが、ことブランド化という点においてはどう頑張ってもエアラインホテルの足元にも及ばない。
これはイメージですから、「そんなことないよ。サービスは良いよ。」と言ったところで、ブランド化としては発展途上国のような気がします。
そんな私が最近注目しているホテルが「JR九州ホテル」。
JR各社がホテルを経営したりホテル部門を展開している中で、どの会社も「JRがやってますよ」ということはわからないようにしている気がする中で、九州だけは「JR九州ホテル」と正面切って真っ向勝負していて、ブランド化に挑戦しているように思えるからです。
私も博多はもちろんですが、熊本、鹿児島など、こられのJR九州ホテルを定宿にしていますが、驚いたことになかなか予約が取れないことが多く、先日の福岡でも仕方なしにエアラインホテルに泊まりました。
東京や大阪から見ると、九州のことは西のはずれのことのように感じる人が多いと思いますが、私は九州で起こっていることは日本の未来の縮図のように考えていますから、鉄道会社が自社をブランド化していることにとても興味を持っているのです。
その他の地域では自分の会社の名前を出すと反感を買うようなところも多くある中で、こういうブランド化を展開できるということは、JR九州は地域に根付いた会社であると言えるのではないでしょうか。
日本において、航空会社や鉄道など、運輸業種の評価が高いのは、私はそれぞれの会社で立派な仕事をしているスタッフのおかげだと思っていますが、それを取りまとめる経営幹部になると、どうもうまく行ってないように見えるのが、この国のちょっとさみしいところですね。
いろいろなところに先生がいる今日この頃でございます。