LCCのお客様 その2

人件費の安い東南アジアに拠点を持つLCC(格安航空会社)が日本にも進出してきています。
これに対抗するように、日本の航空会社もLCCを設立して、自社便では採算が取れない路線をLCC化しようと考えているようだというお話をしました。
では、どういう人たちがLCCを好んで利用するのでしょうか。
1990年代からLCCが台頭してきたヨーロッパやアメリカでの例では、LCCのお客様は基本的には若い人たちと一部のシニア層が多く見られました。
LCCの戦略はできるだけ人件費を押さえるためにインターネットを駆使していますから、予約センターに電話をしたり、旅行代理店に航空券を手配してもらうような人はお客様となることはできません。
そういう「人」が間に介在することを求める人は、その分の経費が航空券に載せられますから、LCCでは無理なのです。
だから、ふつうにITを駆使できる若い人たちが、価格につられてお客様になります。
また、外国では、特に英語圏ではリタイアした世代の人たちでもパソコンを使うことにそれほど抵抗感がなかったため、発着する空港が都市部から少し離れていることによる時間的ロスよりも、運賃が安いことを選ぶシニア層が、当初から主要な顧客でした。
1990年代に「予約はオンラインのみですよ」と言って登場したLCCは、当時はインターネットがまだまだ普及する前でしたから、一般の人には理解してもらえないところもありましたが、あれから20年経つということは、当時30歳だった人が50歳になるわけで、インターネット人口が増えるということは、若年層が下からどんどん増えてきて社会の主流になってきたということなのです。
言葉を変えれば、飛行機に乗るのに、予約センターに電話をしたり、旅行会社の窓口で航空券を発券してもらう人は、年々少数派になってきているのですから、A社もJ社も、高いお金を黙って払ってくれる優良顧客を相手にしている商売は、先細り状態にあるのです。
日本におけるLCCの草分けであるスカイマークが日本に登場して既に10数年の年月が流れています。
就航当初、大手旅行代理店などではスカイマークの航空券を取り扱ってくれるところがなく、苦戦していましたが、それをバネにして、スカイマークは旅行代理店などにマージンを払わなくて済むような自社のシステムを作りました。
誕生当初は若いお客様がほとんどだったスカイマークも、今ではシニア層に近い年代の人たちの姿も多く見受けられるようになりましたが、これも、パソコン世代の高齢化の表れだと感じます。
このように、時がたつにして、年齢が上の世代にまで客層を広げていくのがLCCですが、そうなってくると観光路線ばかりでなく、今後、国内線へのLCCの進出が増えるとすれば、狙うのはどうしても主要幹線。
なぜなら、LCCはロードファクターと呼ばれる座席搭乗率が常に80%を超えるような路線でなければ、存在できない宿命があるからです。
だから、国内線も東京―札幌が1万円を切る値段で利用できるようになっても、東京から山形や富山などの路線は、その倍ぐらいの運賃になることが十分に考えられますし、福岡まで片道4万近い運賃が、ソウル往復で2万円などということがすでに発生していることを見ても、ルートによる格差は今後ますます大きくなるでしょう。
そしてLCCの次なる戦略はニューヨーク、ロンドン、フランクフルトといった国際線の幹線になっていくのです。
また、同時に将来を見据えて考えるとすれば、ミャンマーやインドなど、生活が急速に向上している東南アジア地区の10年後、20年後もターゲットになると言えます。
自分たちが歩んできたことが、アジアで起こっていると考えて見ればわかると思います。
思い出してみると、20年前の日本人は今のように気軽に飛行機に乗るような人は、あまり多くありませんでしたし、さらにその20年前と言えば、親戚や知り合いが飛行機に乗ると言えば、見送りの人で送迎デッキがいっぱいになっていた時代だったのです。
そして、今、それと同じことが、途上国で急速に進んできていて、日本が40年かかって変わってきたことが、そういう国ではその半分の20年、いや10年で起こっているのです。
(つづく)