人間万事塞翁が馬

「にんげんばんじさいおうがうま」

世の中は一寸先はどうなるかわからないという意味ですね。

馬が逃げてしまった。
こんな不幸なことはない。

ふつうならそう思うでしょうけど、いやいや、そんなに嘆くことはない。

しばらく経って、逃げた馬がもっと良い馬を連れて戻ってきた。
なんて幸運なことだろう。

ふつうならそう思うでしょうけど、いやいや、そんなに喜んでもいられない。

その馬に息子が乗って、落馬して足を折ってしまった。
なんて不幸なことだろう。こんな馬など来なければ良かったものを。

ふつうならそう思うでしょうけど、いやいや、そんなに悲しむこともない。

しばらく経って隣国との戦争がはじまり、若者は皆兵隊にとられて死んでしまった。
生き延びたのは落馬して足を負傷していた息子だけだった。

確かこんなお話だったような気がします。

昨日の朝のニュースで京都大学の山中教授がインタビューに出ていました。
新型コロナウイルスは長丁場になるだろう。
でも悲観的になることはない。
正しい情報を持って、上手に付き合っていきましょう。

そういう内容でしたが、そのインタビューの画面に出ていたのが「人間万事塞翁が馬」の故事。
教授の研究室に掲げられているようです。

これを見て私はなんだかホッとしました。

楽観視はできないけれど、それほど悲観することもない。

最先端の科学者が研究室にこんな故事を掲げているのですから。

私はいつも思うのですが、こういうことが起きると番狂わせも下剋上も起こるでしょうし、ガラガラ・ポンで何が出るかわかりません。
平常時では絶対に番狂わせなど起こりませんが、こういう時は小さな会社や個人にもどんなチャンスが巡って来るかわからないと思うのです。

例えば航空会社でも全日空が乗務員を大量に一時帰休させて、数千億円の事業資金の借り入れを行っていますが、これに対して日本航空はそんな話は出ていません。

今の若い人たちは皆さん「やっぱANAでしょう。JALはダメだよ。」と言う人が多いですが、それほど全日空は今を時めく航空会社であるというのは疑いもないこと・・・でした。

10年前に経営破たんした日本航空は、新路線拡大を控えて設備投資を抑えていましたから負債が少なく流動資金が確保できているのに対して、日本航空が足踏みしている間をチャンスと考えて積極的な新路線展開をして設備投資をしてきた全日空は抱えるものが大きく、流動資金が少なくなっているから、支払いが多い割には手持ちの現金が少ない。
ビジネスが順調に行っている間は拡大する売り上げから支払いに回すことができますが、売り上げが止まってしまうと支払いができなくなります。自転車操業とは言いませんが、ビジネスというのは少なからず予定した売り上げが入ることを前提に設備投資をしますから、売り上げが入らなくなるととたんに行き詰ります。

日本航空の場合は経営破たんで債権放棄をしてもらうなど抱えるものが全日空に比べるとはるかに少ないことが、幸いに転じているのです。

JR東海も同じですね。
JR東海は東や西のようなドル箱の在来線がありません。
名古屋駅にも2両編成の列車が入ってきたりと、在来線輸送は東京や大阪では考えられないほど小さなものです。
駅ナカなども東や西に比べるとはるかに小さい。
東海道新幹線に売り上げの9割以上を依存している会社です。

こういう体質は、儲かる儲からないは別として、ビジネスモデルとしては実に危うい構造です。
そんな時に2011年に東日本大震災が発生しました。
それを機に、全国的に南海トラフなどの危機感が高まりました。
つまり、東海道新幹線が抱える問題が顕在化したのです。

会社はリニアの建設に踏み切りました。
リニアなど1970年代から開発構想があったのにずっと足踏みしていた装置です。
それが、東日本大震災の後に、急に建設が具体化して、それも自己資金を投入しています。

どうしてか。
経営の危険分散ですね。
万一南海トラフ地震が発生して東海道新幹線が動かなくなっても、会社が維持できるようにということです。

日本の大動脈だから維持しなければならないというのであれば、大動脈として必要なのは物流だというのは過去の例が証明していますから、当然貨物も載せなければなりません。でも、旅客会社のJR東海が自己資金でリニアを建設するということは物流目的ではありませんから、国家の輸送を確保するという意味ではなくて、会社を維持するためのものは明白です。
そういうことを決断して実行できるのはすべて東海道新幹線が順調に動いているうちに、そこから上がる利益で次に収入を産むビジネスを作り上げておきましょうということですから、民間会社としては当然のことではあるのです。

ところが、その新幹線からの利益がピタッと止まってしまいました。
それもいつまで続くかわかりません。

それだけならまだしも、今回のコロナの厄介なところは、終息後に今までのような需要が戻って来るかどうかが疑問であるということ。例えば観光客が多い北陸新幹線や東北新幹線などと違って、ビジネスの出張利用者で成り立っている東海道新幹線は、「のぞみ」から外国人観光客を締め出すなどの政策を取って来ていましたから観光開発も弱い部分があります。世界的に有名な富士山の最優先席に居ながら観光列車1つやっていないのがそれを証明しています。そういう体質があるところへビジネス需要の回復が見られなければ、多額の資金を投入してリニアの建設を続ける必要があるのですかという話になるのは目に見えています。

となると、今までつぎ込んだお金はどうなるのか。
などなど、今回のコロナは「絶対に大丈夫だ」と思われていた超優良企業に一瞬で影がさしている状況なのです。

つまり、人間万事塞翁が馬。

飲食店が閉店に追い込まれていますが、手をこまねいているばかりでなく、キッチンカーを導入してデリバリーしたり、お弁当を始めたり、中には手作りマスクを作って販売を始めたところもあります。600円の定食を出すことと、600円でマスクを売ること。どちらが得策かと考えたら今の時期は後者でしょう。

強いもの、大きなものが残れるわけではありません。
周囲の環境に対応できるものだけが生き残れるのは歴史が証明しています。
そう考えると、私たち弱小企業には大きなチャンスがある。

ピンチの中にチャンスがあるというのは、そういうことなのであります。

【参考】
山本伸弥による新型コロナウイルス情報発信