私だけの観光地

先日、東京の下町に行く機会がありました。

その時にちょっと時間があったので、散歩がてらに歩いてみたんです。

そうしたら、何とも言えない懐かしい気持ちになりまして、すっかり旅気分を味わうことができました。

私は祖父の代から東京生まれの東京育ちですが、東京というところがあまり好きではありません。

空が好きで、空にあこがれていた若いころ、「東京には空がない」と思った私は、自分なりの「みちのくの安達ケ原の二本松」を探して、成田空港に職を見つけて千葉県民になったのでありますが、そういう私の目には今住んでいる新潟県の景色がとても素晴らしく見えるとともに、田舎生まれで田舎育ちの人たちが、「田舎はイヤだ」と言って都会に出たがる気持ちもわかるのです。

自分が生まれ育った場所というのは、良い思い出だけじゃありませんし、会いたくない人もいるでしょうから、それが東京だろうが田舎だろうが、生まれ育ったところというのは必ずしも居心地が良いところではないからです。

さて、そんな私でもお爺さんになってくると東京が懐かしく思う時も出てくるわけでして、先日、なんとなく歩いた東京の下町が、私にはガイドブックに載っていないけれど、自分なりの観光地の景色に見えて、「こういう旅もあるもんだなあ。」と感じたのであります。

江東区役所前の四ツ目通り。
わかりますか?
この景色の価値が。

葛西橋通りとの交差点。
向こうからバスがやってきました。
でも、今はバスですが、私が子供の頃は都電だったのです。

見ればおわかりになると思いますが、江東区や墨田区一帯はゼロメートル地帯と言って水面と地面の高さがほぼ同じ。だから運河に架かる橋はこんな感じの太鼓橋になっているんです。

この太鼓橋を都電がごとごとと音を立てながら、車体をきしませて渡っていたのです。

私は板橋でしたが、墨田区の菊川に親戚がいて、毎月のように遊びに来ていましたから、たくさんの思い出があるんです。
このあたりから都電が消えたのが私が小学6年生の時ですから、今から50年前。
板橋からバスで東京駅まで来て、日本橋から都電に乗って東陽町を回って錦糸町に出るなんてことをやってましたから、久しぶりにこの太鼓橋の景色を見て、大変充実した気持ちになりました。

かつての運河は埋め立てられて親水公園になっていたり、改修されていますが、太鼓橋をごとごとと渡る都電の橋の下を、丸太をつないだポンポン船が通って行くシーンが、脳裏で展開するのです。

最近ではモノ消費からコト消費と言われていますが、この感覚はトキ消費だと思います。
50年という時空を超えたトキ消費が、お金を一切かけなくても、ただブラブラと散歩するだけでも体験できるのですから、私は、どんなところでも観光地になると確信しているのであります。

皆様方もぜひ、自分だけの観光地を見つけてみてください。

それができれば幸せな気分になれますよ。