何かあったら緊急事態宣言

ロサンゼルスから上海に向かっていたデルタ航空のB777がエンジンに支障をきたしてロサンゼルス空港に戻り緊急着陸をしました。

緊急着陸というのは、緊急事態が発生したということで、パイロットがエマージェンシーを宣言して、飛行中の他の航空機を経路から退避させたうえで、最優先順位で着陸を許可される事態です。
では、どうしてエンジンに支障をきたすと緊急事態宣言をするか。
その理由は、いまどきの飛行機にはエンジンが2つしかついていないからです。

2つしかついていなければ、そのうちの1つがダメになれば残りは1つしかありませんから、当然緊急事態です。
これがエンジン4発のB747ジャンボジェットやエンジン3発のMD11が飛んでいた頃と今の航空機との違いです。
エンジン4発のジャンボジェットであれば1発ダメになっても緊急事態宣言などしませんでしたから。

最近ではエンジンの信頼性が飛躍的に上がって来ていますから、それまで3つ4つあったエンジンの数が2つですむようになりました。飛行機というのは不要なものはすべて排除する設計思考がありますから、2つで良いということになれば3つも4つも付けることはあり得ません。
そして、万が一緊急事態が発生したとしても、もう一つのエンジンで3時間とか3時間半とか飛び続けることができるという計算上の前提条件がありますから、極端な例を言えば6~7時間かかる洋上飛行も可能になるのです。

さて、今回のデルタ航空の緊急事態ですが、何が問題かというとロサンゼルスの住宅街の上空で燃料を廃棄して緊急着陸したこと。
たくさんの人が住んでいる町の上空で燃料を廃棄したので、地域住民に被害が出たのです。

飛行機というのは着陸の時に脚に重量がかかりますから、着陸の時には重量を減らさなければなりません。最大離陸重量と最大着陸重量という数字がありますが、意外に思われるかもしれませんが、例えば350トンの重量で離陸したジャンボジェットは280トン以上の重量では着陸できないというような計算上の限界重量というのがありまして、つまり、脚に負担がかかるので離陸はできるけど同じ重量では着陸はできないのです。
通常の飛行では飛行中に燃料を消費しますから、飛行機というのは飛び立つときが一番重くて、飛行中にどんどん軽くなって行って着陸の時が一番軽いのですが、何かあって緊急着陸しなければならない時には、燃料の消費が間に合いませんから燃料を捨てて自分の重量を軽くしなければなりません。
これが緊急事態が発生した時に燃料を捨てる理由です。

では、どうするかというと、燃料を捨てることをFuel DumpとかFuel Jettisonというのですが、それを行なうエリアというのが限られていて、たいていは洋上であったり、あるいは人家のない砂漠地帯だったりと、そのエリアが決められています。
少し前に羽田空港を離陸したアメリカ行の日本航空機が離陸時にエンジンに鳥を吸い込んでトラブル発生した事態がありました。
片方のエンジンがダメになりましたから、当然機長は緊急事態を宣言します。
そして燃料を捨てる場所へ行って、上空を旋回しながら燃料を捨てて、身軽になった状態で羽田空港に戻って来て緊急着陸をしました。
羽田のFuel Dump Areaというのは房総半島沖の太平洋ですから、上空のある程度の高度で燃料を捨てたとしても霧になってほとんど地上には降りて来ませんので、緊急事態発生時の燃料投棄が許されているということです。

ところが、今回のデルタ航空機はロサンゼルスの住宅街の上空で燃料を投棄したことで、地上にいた子供たちが気分が悪くなったりという現象が発生して、それが大きなニュースになったのです。

デルタ航空緊急着陸のテレビニュース


1月14日のデルタ航空89便の飛行経路です。

ロサンゼルス国際空港は通常は海に向かって離陸します。
デルタ航空89便も海に向かって離陸したのですが、離陸から3分もしないうちに右に旋回し戻る意思を示しています。
通常はこのまま洋上に出て日本に向かい、日本の上空を通過して中国本土へ向かうのですが、飛行記録を見ると7000フィートを過ぎたところで上昇をやめて戻る意思を示し、そのまま着陸のための経路に入って、そこで燃料を捨てています。
つまりどういうことかというと、それだけ一刻を争う状況だったということになります。

日本航空の羽田発の便が房総半島沖で燃料を投棄して羽田に戻る場合、同じように緊急事態宣言したとしても離陸から1時間近くかけて羽田に戻って着陸していますが、今回のデルタ航空89便は、離陸から30分足らずで燃料を捨ててロサンゼルス国際空港に緊急着陸していますから、なかなかどうして、緊迫した事態だったということが理解できます。

日本航空のようにエンジンに鳥を吸い込んだような場合はそのエンジン単体の問題ですから、規定に従ってエンジンを停止して、もう片方のエンジンで3時間でも十分飛行できますが、これだけ急いで緊急着陸をしたということは、やはりそれだけの理由があったのではないでしょうか。
それが何かは事故調査の結果を待たなければなりませんが、例えば油圧系統のトラブルや火災など、一刻を争う何かが発生したことが考えられます。
じゃなければ住宅地の上空で燃料をDumpするなんてことは通常考えられませんからね。

と考えれば、現代の双発機のルールに定められている飛行中にエンジンが片方停止した場合、180分以内に緊急着陸できれば良いという考え方もどうなんでしょうかね。

そんなことを考えてしまう私は、やっぱりエンジン4発のジャンボジェットで育った世代なのかもしれませんね。
エンジンが4発の方が2発の飛行機よりも安全だ。
そんなことを今でも信じている古い世代なのかもしれません。

だって、油圧系統のトラブルや火災なんて、エンジンの数には関係ありませんから。

この飛行ルートにBurbankとかGlendaleという文字が見えると思いますが、実は私、今から40年近く前にこのGlendaleという場所にしばらく住んでいたことがありまして、今でも時々当時の夢を見ます。
たぶん、自分が住んでいた場所には今でも地図を見なくてもロサンゼルス空港から車で行くことができると思いますが、それほどロサンゼルスは懐かしい場所なもので、そのロサンゼルスのGlendale上空で燃料を噴射したと聞いたものですから、他人ごとには思えず、今夜はペンを取った次第であります。

最近ではインターネットで道路を辿って街歩きができますのでこの間やってみましたが、自分がいた家にちゃんとたどりつくことができましたので、あながち記憶が間違っていなかったと確信したのであります。
家が当時のままなのにも驚きましたが。

久しぶりに行ってみたくなりましたが、今は無理なので、インターネットで彷徨う毎日であります。

とにかく皆様、ご無事で何よりでした。