青春のスーパースター

最近はテレビを見なくなりましたので、どんなドラマをやっているのか皆目見当が付きません。

「月9」で亀梨君とか山ピーなんて会話を聞いても、なんだかさっぱりな昭和時代の少年のなれの果てなのではございますが、昭和の時代には青春というのが一つのテーマになっていて、青春映画や青春ドラマというのがかなりの人気でありました。

 

昭和30年代の青春のスーパースターは皆様ご存じの加山雄三さんですが、私の世代、昭和40年代の青春のスーパースターは森田健作さん。

そう、現在千葉県知事の森田健作さんが、とにかく日本人なら知らない人はいないというほど有名で人気がありました。

キムタクとかニノとか相葉ちゃんなど足元にも及ばないほど、老若男女、性別、年齢を問わず、知らない人はいないというほどの人気がありました。

 

私が2009年にいすみ鉄道の社長に就任した時、ご挨拶させていただいたのですが、その時、知事である森田健作さんは、「房総半島というのは可能性に満ちているんだ。いすみ鉄道をうまく使えば、その可能性が活かせると考えている。だから頼むぞ。」と私を励ましてくれました。

世の中には悪口を言う人がたくさんいて、房総半島は半島経済で袋小路だから何をやっても駄目だとか、過疎化が進んでいてどうしょうもないなどという話が聞こえてくる中で、その房総半島を「可能性に満ちている。」と信じて疑わない知事の姿勢に私は共感しました。だから、それ以来、房総半島に何とか世間の目を向けるために、いすみ鉄道から光を発信しようと私は頑張っているのでありますが、千葉県も一生懸命応援してくれていると信じております。

 

 

 

2~3年ほど前の千葉県の観光ポスターです。

「ふくらむ、春」の方は銚子電鉄。

「感じる、千葉」の方はいすみ鉄道の大多喜駅。

知事自らがモデルになってローカル線を県の観光ポスターに取り上げてくれるなんてことは、普通ではなかなか考えられません。

でも、可能性を信じているからこそ、そういうポスターを作ってくださっているのだと思います。

 

今日はなぜこんな話をするかというと、この間、ある会合で、都内の一流企業の30代の幹部候補生の方々と話をしていた時のこと、その席上で、ある鉄道が話題になりました。

 

ある踏切の写真ですが、皆さん、ここどこかわかりますか?

大して鉄道に詳しくない方でも、30代、40代ぐらいの方なら知っている人が多いと思います。

江ノ電の鎌倉高校前の踏切ですね。

 

平日でもこうやってたくさんの観光客が、カメラを構えて列車が来るのを今か今かと待ち構えている。

最近では、ほとんどが中国、台湾、韓国人などの外国人ばかりです。

 

そこを列車が通り過ぎていく。

たかが踏切ですが、これだけ賑わう観光地になりました。

その会合の席で私と話していた若い人たちも、皆さん、「ああ、ここは有名ですねえ。」と口をそろえて言いました。

 

で、私は申し上げたんです。

 

「江ノ電って、廃止対象路線だったんですよ。」って。

 

そうしたら皆さん、「え~っ。」となりました。

 

そりゃそうですよね。今は365日ほぼ満員の観光客であふれかえっている江ノ電ですが、昭和40年代には廃止対象路線に上げられていました。経済成長があってマイカーブームになると皆さん車の方が便利ですからね。乗る人は少なくなっていくし、路面電車区間もある江ノ電は交通の邪魔だという人たちも多かったんです。

そして、いよいよ廃止かもしれないなんて話が本格化した時、あるテレビドラマで取り上げられたんです。

 

それが、森田健作さん主演の青春ドラマです。

 

昭和40年代半ばごろの話ですが、何しろ当時のスーパースターが主演するドラマですから、ものすごい視聴率。

そのロケ地が鎌倉で、ドラマの中で随所に江ノ電が出てくる。

東京の山手線や中央線を見慣れた人たちにとって見たら、小さくてかわいい江ノ電は、「何この電車? 面白そう。」というわけです。

当時のドラマは今とは違ってだいたい1年間やるのですから、1年間ずっとお茶の間に江ノ電が出てくる。

主演がスーパースターですから、ドラマのタイトルは変わっても、翌年も森田健作さんが同じような青春ドラマを主演して、また江ノ電が出てくる。そのうちに青春ドラマのストーリーの主役が生徒から先生に変わって、今度は中村雅俊さんになって、また江ノ電が出てくる。

近くに撮影所があったからかもしれませんが、とにかく青春ドラマに何年にもわたって江ノ電が登場するようになって、わ~っと観光客が押し寄せるようになり、江ノ電は廃止を免れたのです。

 

40代以下の皆様はご存じないかもしれませんが、これは本当の話。50代以上の人なら誰でも知っています。

ドラマで有名になって、皆出かけるようになる。行ってみると実に良いところですから、皆さん「ここは良い」となるわけで、いろいろな人が小説を書いたり漫画を描いたりし始める。そして、また有名になっていく。こういう上昇スパイラルが始まって、現在に続いているのです。

ドラマで有名になった極楽寺は江ノ電で一番寂しいところにある駅でしたし、鎌倉高校前も小さな小さな駅でしたが、青春ドラマやフーテンの寅さんに取り上げられるとあっという間にファンでごった返すようになったのです。

 

ということは、皆さん、お気づきですか?

森田健作という人は、おそらく本人は知らない間に、江ノ電といすみ鉄道という2つの鉄道を救っていることになるのです。

その時代を過ごしてきた私から見たら、まさしくその通り。
彼がドラマで主人公にならなかったら、彼が知事にならなかったら、江ノ電もいすみ鉄道も、多分消えてなくなっていたのです。

 

これが「可能性」なんですよね。

 

ところが、ここに一つ問題があるのです。

江ノ電の沿線住民はこういうのです。

「観光客は邪魔だ。迷惑だ。」

「観光客が来ると渋滞して車が動かない。」

「観光客が多くて電車の通勤客が迷惑している。」

 

確かにそうかもしれません。

でも、お客様が来てくれなくなったら地域の財源はどうするのでしょうか?

日本が国を挙げて観光客誘致をしようとしているのはどうしてでしょうか?

日本で一番儲かっている自治体はどこか知ってますか?

東京都ですよ。

その東京でさえ、観光誘致を高らかに謳っているのですから、それ以外の地域で、観光客が迷惑だなどといってよいところなどないのです。

そういうことをよく理解できない地域の人たちが江ノ電沿線にいるのですが、これは何も江ノ電に限ったことではないようです。日本全国、そういうところが多いんですよね。

 

 

いすみ鉄道も、同じように何の変哲もない踏切が「名所」になって来ています。

実は、今の時代はこういうのも立派な観光なのです。

 

でも、いすみ鉄道の沿線は、農家の皆さんなど、彼らのような観光客に好意的な方が多いのが、私の自慢なんです。

 

「写真撮るのに邪魔だと思ったから、線路の脇の竹を切っといたよ。」

「空地を駐車場にして、300円ぐらいで停められるようにしてあげたら便利に思ってくれるかなあ。」

こんなありがたい地域住民の人もいるんですから。

 

いすみ鉄道も、いいところまで来ていると、私は思います。

 

そして、その大元は、森田健作知事なのであります。

 

政治家というのは、自分から「俺は偉いんだぞ。」というのではなくて、周囲から尊敬されるような人物でなければならないのです。

鉄道ファンの皆様には、森田健作という人が、廃止対象路線だった2つの鉄道を救った人であるという事実を知っておいていただきたいのであります。

 

(選挙時期じゃないから、こんな話しても問題ないですよね。)