昭和の残照 その4

このところ「昭和の残照」として私が子供の頃に撮影した写真を解説をつけてご紹介しています。
これがなかなかご好評をいただいておりまして、いすみ鉄道を楽しいと思っていらしていただいている皆様は、昭和時代をお過ごしいただいた思い出があるか、または昭和に対しての憧れをお持ちの方であることが解ります。
そういう皆様方が、どうやったらお楽しみいただけるか。
と言うことで、本日は「昭和の残照」ではございますが、昭和の話ではありません。
今のいすみ鉄道のお話です。
以前から申し上げておりますが、いすみ鉄道は、素材を提供するビジネスです。
素材を提供するというのは、完成品ではありません。
お客様がご自身で完成品にしていただく必要があるということになります。
つまり、いすみ鉄道のサービスは、時刻通りに安全、正確に列車が線路の上を行ったり来たりするのが仕事でありサービスであります。そういう列車に乗って、「やっぱりいいなあ。」とか、「ローカル線は味があるな。」とか、ふらりと降りた無人駅で「やっぱり、良いよなあ。」などということは、すべてお客様が勝手にそう思うだけのことで、これがお客様ご自身で素材を完成品にさせるということになります。
同じ列車に乗っても、「こんな昭和のおんぼろのどこが良いのか。」とか、「ちょっと降りただけなのに、次の列車まで1時間も列車がないなんて不便極まりない。」などと言う人たちは、ご自身で素材を完成させるスキルがない方であって、そういう人はいすみ鉄道にいらしていただいても決してお楽しみいただくことはできませんよ、と申しあげているのが、「ここには何もないがあります。」というキャッチコピーなのであります。
いすみ鉄道という商品は、誰にでもご満足いただける商品ではございません。
万人受けする大衆向け商品ではないですよ。
だから、ご自身で楽しめる方だけにいらしていただきたい。
私はそう考えていますし、日本全国のローカル線やその沿線の田舎の町は、基本的には万人受けするようなところではありませんから、観光バスの団体旅行者が大挙して押しかけてくるような、そういう戦略は取るべきではありませんよ、というのがいすみ鉄道の観光戦略なのであります。
でも、いくらいすみ鉄道が素材を提供して、お客様がそれを勝手に解釈することが「いすみ鉄道の楽しみ方である。」と言っても、やっぱり少しぐらいスパイスというか調味料は必要で、それはなぜかというと、素材の味が引き立つからなんですね。
ということで、こんな展示をキハの車内に掲げてみました。


▲東北新幹線と上越新幹線が開業した当時の昭和50年代半ばの国鉄の中づり広告です。
今までも一部掲示していましたが、リニューアルしてみました。

▲元祖ムーミン列車とサロンエクスプレス。覚えてますか?

▲こういう広告もありましたね。


▲もちろん今までの国鉄代表作も引き続き掲示しています。

▲この広告はご存知でしょうか?
「座席を立つときに、切符を忘れないようにしてください。」というメッセージではありません。
国鉄時代には無賃乗車や不正乗車が横行していまして、「きちんと切符を買いましょう。」というキャンペーンです。
当時はオレンジキャンペーンと呼ばれていました。
切符=オレンジというイメージの原点ですね。
これから10数年経って登場した切符を買うことができる便利なカードが、オレンジカードです。
こういう車内広告をさりげなく掲示しておくと、気づいたお客様は、気づいた瞬間に昭和の汽車旅の気分になるわけで、それが素材の味の方向性を決めるスパイスになるということであります。
そして、これがいすみ鉄道で今も見られる「昭和の残照」なのです。
ご理解いただける方と、ご理解いただけない方とがはっきり分かれるのがこのあたりだと思いますが、これが、ローカル鉄道を旅するということは文化的行動であると言われるゆえんなのであります。

▲本日の国吉駅です。
アジサイが咲き始めました。
▼こちらはタチアオイです。


国吉駅に到着するキハを撮影してみました。
1枚はキハにピントを合わせてみましたが、もう1枚は花にピントを合わせてみました。
どちらが良いかは、ご覧になられる皆様方がお決めいただくことだと思いますが、こういうことが、ローカル線が素材であり文化であるということなのでございます。
あなたは素材をご自身で味付け、調理できる方でしょうか。
それとも。
ちなみに私は都会育ちですから、都会という素材を調理することは多分できないと思います。
そういうもんなんですよね。
観光というのは、非日常、脱日常体験なのでありますから。