旅の手帖 3月号


ただ今発売中の雑誌「旅の手帖 3月号」です。
表紙はいすみ鉄道です。
コンビニの雑誌コーナーで見つけて私は、「あれ?」と思いました。
「取材受けたっけなあ?」
この雑誌の取材を受けた記憶がなかったからなんです。
早速購入してみると、駅弁コーナーや古い駅舎など、鉄道旅をテーマにした記事が盛りだくさん載っていて、実に充実した内容の鉄道旅特集号なのですが、いすみ鉄道はというと、「車両が懐かしい鉄道会社」というコーナーにちょこっと載っているだけなんですね。
その時私は、「そうか、そういうことだったのか。」と気が付きました。
それは、いすみ鉄道は今や「春の鉄道旅のシンボルになっている。」ということです。
内容的には小さな記事として取り上げられているだけでも、ド~ンと表紙になっているということは、観光のシンボル的存在として旅行業界の皆さんは認識していただいていて、「そろそろ暖かくなったから、どこかへ旅行したいなあ。」という気持ちの皆さんの心をグサッと鷲掴みにする旅行雑誌としては、いすみ鉄道の春のシーンが無くてはならない春の汽車旅のシンボルになっているのです。
そう考えて思い出した鉄道があります。
スイスのベルニナ特急です。

スイス政府観光局のホームページ
スイス政府観光局のホームページを開くと飛び込んでくるのはスイスの観光鉄道です。
ベルニナ特急や氷河特急を始めとするスイスの観光鉄道は、スイス観光のシンボルになっているのは皆さんご存知だと思います。
スイスアルプスの絶景を見ながら、列車で旅をするのがスイス観光の定番とされています。
でも、例えばベルニナ特急は1日4往復の列車が走っていますが、私は「????」といつも思います。
それは、4往復程度の観光列車では、こんな山の中の線路を維持管理運営することは収入的には不可能だということです。もちろん、アメリカやヨーロッパでは、鉄道はインフラですから公設民営という考え方が徹底していて、完全に上下分離された状態で運営されているわけですが、それでも、これだけ豪華な観光車両を建造して、山の中奥深く分け入り、いくつものトンネルがある長い路線を、鉄道運賃収入だけで賄うことは不可能です。そうです、スイスの観光列車は一部を除き「赤字」なんですね。
でも、赤字にもかかわらず走っているのはどうしてかというと、それはこれらの観光鉄道が走る姿がスイス観光のシンボルになっているからなんです。
世界中の人たちが、雪山と観光列車の写真を見て、「スイスへ行ってみたいなあ。」と感じて、スイスへ観光にやってくる。実際に観光鉄道に乗るのは、スイスに来る旅行者の何百人に一人かもしれませんが、それでも、スイスという国に観光客がやってくるツールになっているから、観光産業全体が潤うわけで、そのために観光鉄道は走ることができるわけです。
振り返って日本はどうでしょうか。
私の大好きなローカル線の東の横綱ともいえる只見線が、災害で不通になって間もなく5年になろうとしています。同じく、ローカル線の西の横綱の三江線が、地元も会社ももてあましていて、今まさに捨てられようとしています。
でも皆さん、ちょっと考えてみてください。
観光のシンボルとなるような絶景路線というのはだいたいが都会から遠く離れた不便なところで、「昔の人はよくこんなところに鉄道を敷いたなあ。」と思えるような、昔からの交通の難所がほとんどなんです。そして、そういうところこそ、観光名所としての価値があるんですね。
でも、今はそういう難所は新幹線や高速道路が迂回して走っていますから、交通機関としては誰も乗らなくなっている。だから日本人は、「こんなもの要らない。」と偉い人たちが真剣に議論している光景が全国的にみられるわけです。
日本の偉い人たちは、自分たちはスイスの観光ポスターに載っているベルニナ特急の写真を見て、「行ってみたいなあ。」と思うにもかかわらず、自分たちの地域にも同じように使える鉄道があるということに気付かないし、利用者がいない、儲からない、利益が出ないという理由だけで、あっさりと捨ててしまうんです。
私の友人の星賢孝さんが撮影した只見線の写真をご紹介します。
星さんは只見線沿線の住人で、四季折々の只見線を記録してFACEBOOKで発信しています。



このように只見線は四季折々の変化に富んだ美しい風景の中を走る絶景鉄道ですが、特に冬のシーンが素晴らしい。
このシーンを中国や台湾、韓国、東南アジアの人たちが見たらどう思うでしょうか?
誰もが、「行ってみたい。乗ってみたい。」と思うはずです。
そして、こういう鉄道が走る日本だから、福島だから旅行にやってくるのです。
つまり、日本や福島県、新潟県の観光シンボルになりえる貴重な素材なんです。
でも、だからといって、只見線の雪景色に誘われて日本にやってくる外国人全員が只見線に乗るわけではありません。スイスのベルニナ特急と同じように、このシーンに誘われて日本にやってくる外国人のうちの、たぶん何百人に一人、いや、何千人に一人しか、実際に只見線には乗らないかもしれない。けれども、彼らは只見線の雪景色の写真を見て、「日本に来たいなあ」と思って日本にやってくるわけですから、日本全体としては収入になるわけです。そしてそういう人たちは雪景色の鉄道を求めて、ニセコへ行ったり、飛騨へ行ったりと、いろいろなところへ旅するでしょうから、いろいろな地域が潤うようになる。だから只見線を観光鉄道のシンボルとして使う価値があるのです。
ベルニナ特急も氷河特急も、1日4往復程度の運行では公設民営でも赤字です。
でも、走っていなければダメなんですね。
ところが日本では、只見線を運営する鉄道会社や沿線地域としては、雪景色の鉄道が観光のシンボルになることは理解しても、それを見た観光客がニセコや飛騨に行かれてしまっては、自分の所の収入になりませんから、面白くもなんともない。だから、さっさと直そうとしなかったんですね。
このように、日本の鉄道経営というものは地域も含めて非常に近視眼的になっている。
なぜならば鉄道会社は株式会社であり、ローカル線としての鉄道輸送は地域輸送とされているからなんです。だから、自分の会社が儲からなければやらないし、地域の人が乗らなければ必要ないという理論が堂々とまかり通っていて、その結果として日本全体で地域が疲弊して、儲かるところだけに集中するようになってしまったのです。
私は、いすみ鉄道は第3セクター鉄道ですから、たとえ株式会社(利益追求が目的)とはいえ、いすみ鉄道が地域のシンボルになって、地域に人が来てお金を落としてもらえれば、鉄道運賃収入にはならなくても地域へ利益還元できると思いますし、房総半島には来なくても、「千葉に行ってみよう。」と思っていただければ、千葉県全体としてはプラスになります。外国の皆さんが、いすみ鉄道のシーンを見て、「日本に行ってみたいなあ。」と旅行に来ていただければ、直接いすみ鉄道の運賃収入にはならなくても、日本全体としてはプラスになるはずです。そうすればいすみ鉄道のようなローカル鉄道だって生き残る道はあるわけで、生き残る道があるということは、結果として「地域の足を守る」ということになりますから、鉄道沿線地域の利益が守られることだと考えています。

もうすぐ、このシーンが見られる季節になります。
国鉄が廃止したものを地元が意を決して引き受けた。
その時に植えた桜の木が30年近くたって今こんなに大きくなりました。
この景色は資源であり、財産であると思います。
そして、その資源から得られる富は、例えば地域が有名になるとか、地域産品が売れるようになるとか、観光収入になるとかいう形で長年鉄道を守り続けてきた地元の人たちが得ても良いのではないでしょうか。
いすみ鉄道の写真や映像を見て沿線地域に来ていただくみなさんへお願いです。
お昼ご飯やお土産物、コンビニなどで、一人3000円は沿線地域にお金を落としていただけませんでしょうか。
皆さんがいすみ鉄道に乗車していただければ一番ありがたいのですが、いすみ鉄道は最大連結しても2両です。外房線の特急列車が10両編成で大原駅に到着したとしたら、皆さんが乗ろうと思ったら乗せきれません。レストラン列車も3月発売分まですでに満席をいただいております。
だから、観光でいらっしゃる皆さんは、車で来てもかまいませんので、沿線地域でお金を使ってお帰り下さい。
お昼ご飯にお刺身定食を食べて、お土産を買って、コンビニに寄ればだいたい一人3000円です。
そうすることで地域に経済が生まれます。
そしてこれは紛れもないいすみ鉄道効果です。
そうすれば、地域の人たちはいすみ鉄道効果を実感することができて、「いすみ鉄道が走っていれば、地域全体で考えるとプラスになるね。」と理解していただけます。
そうなれば、いすみ鉄道は走り続けることができますし、スイスのベルニナ特急と同じような役割を果たすことができると考えるのです。
いすみ鉄道が千葉県へ、そして房総半島へ行こうというシンボル的役割を果たすことができる季節です。
どうぞ千葉県へ春の旅行にお越しください。
千葉は良いところですよ。
そして、お一人ミニマム3000円。
よろしくお願いいたします。