いすみ鉄道の新型車両の設計思想

いすみ鉄道の新型車両は窓が開きます。
5両のうち3両にはトイレが付いています。
これには理由があります。
昨日の京浜東北線もそうですが、昨今の鉄道の事故を見ていればお分かりいただけると思いますが、電力が供給されなくなった途端に何も対応できなくなります。
走行できなくなるだけでなく、明かりもつかなければ空調も止まります。
単なる箱と化してしまいます。
鉄道車両は高速化と省エネ性のために、過去の歴史ではどんどん軽量化が進んできています。
車体自体を軽くすることで、性能が向上するという設計思考がパターン化されています。
余計なものは取り付けないし、その車両が10年20年の運用期間中に1回あるかないかの事態などは当然考慮されていない。
だから電気が止まると手も足も出ない。
せめて窓でも開けば良いと思いますが、基本的に今の電車は窓が開かない。
電車のスピードが上がっていることもあるけれど、メンテナンスしやすくするためや、窓が開くと危険だからと言う理由で窓は嵌め殺し状態。
つまりセキュリティーなんですが、この「窓が開くと危険」と言うのは、第1次的セキュリティーであって、非常時や、緊急事態の時の乗客の安全という第2次的セキュリティーについては、1両に数か所の窓が3分の1ぐらい開けば換気上十分でしょう的な、最低生存ラインでしか考えられていないようで、今や最高気温38度が平気に出る時代ですから、昨日の京浜東北線やこの間の東海道新幹線の列車立往生を見ても、その最低生存ラインが正しいかどうかも疑わしいと思います。
電車を軽量化するためには車体の金属を薄くするのも一つの方法ですが、日本の鉄道車両は、ATSなどの保安設備が充実しているため、万一正面衝突したら・・・という発想がほとんど無い。事故が起きない前提で設計されていますから、事故があった時の写真を見ると、車体はペラペラの紙のようで、ぐちゃぐちゃになってしまっています。
事故というのは、未知の部分に原因があるものもあるわけで、既知の部分の設計思想では着いていかないところで大事故が発生するわけですが、軽量化とメンテナンス性能のために余計なものは取り付けないという発想が、昨今ではすべて裏目に出ているというのが私の印象です。
いすみ鉄道の新型車両をどういう形にしようかと考えていた時に、今回の京浜東北線や先日の東海道新幹線のような密室になるのを避けるため、窓が開く車両にしました。
たとえ数分間でも駅間で電源が落ちた場合には大きな問題になることはわかっています。
自動車の車内に小さな子供を放置した事件がたくさんありますが、それと同じになるわけです。
だから窓を開けてもらったわけで、何も国吉駅で駅弁を買えるようにするためではありません。
鉄道車両メーカーの設計者は「窓を開くようにするんですか?」といぶかしがりましたが、私は、「はい、お願いします。」と上記の理由を伝えました。
いすみ鉄道よりも少し前に新型車両に入れ替えた山口県の錦川鉄道の社長さんが、「鳥塚さん、トイレは必要だよ。高齢者が多いし、途中区間で列車が立ち往生した場合などの時に困るからね。」とアドバイスしてくれました。
26.8㎞のいすみ鉄道にどうしてトイレが必要なんだと、さんざん言われましたが、観光鉄道であることを理由に、5両中3両にトイレを設置しました。
だいたい、近距離列車のトイレなどというものは緊急避難用であるわけで、本来は無くても良い物なのでしょうが、高齢者や子供連れのお客様が増えている現状を考えると、私は必要だと判断したわけです。
何も、ビール列車をやるために付けたわけではないのです。
個人的には皆さんこのぐらいのことは普通に考えられると思います。
鉄道会社の職員の皆様方も、そんなことは百も承知のはずです。
でも、組織の一員となると、なぜか誰も言い出せなくなる。まして、新入社員で入った会社に定年まで勤めるのが美徳とされている日本の会社では「和」という名前で組織への迎合を求められます。
これが日本のサラリーマン社会システムの最大の弱点です。
鉄道会社のような「良い会社に勤めてるね。」と言われるような大きな会社では、なおさらでしょうね。
そういう時はTOPが判断して号令をかけなければ、組織は何も変わりません。
TOPが数字ばかり見ているような持ち回り制の組織では大きな問題になっていることすら気づかないものがあるでしょうね。
だから、新型車両になればなるほど、平時は実に快適だけど、いざ何かあった場合には手も足も出なくなる。
「お客さん、想定外ですよ。」って。
空調が完備しているから窓が開く必要はありません。そう言いながら空調が止まる。
電車の中でCMが流れるモニターがあって、次の駅はこちら側のドアが開きますなんて細かなことまで教えてくれるけど、途中駅で電車が止まったときには何の役にも立たない。
何も途中駅で電車が止まった時のために、線路を舗装して歩きやすくしましょうとは言わないけれど、桜木町で京浜東北線の電車が止まると、常磐線の電車にまで影響が出る時代には、電気がストップするなんてことは今や「想定内」のことなのですから、せめて最寄りの駅まで走行できるだけのパワーぐらいは非常用として携帯しておきましょうよ。と言うのが私の意見。
だって、電車の床下見ると、スカスカじゃないですか。
10両編成が10㎞ぐらい走れるような緊急用のバッテリーぐらい搭載しようと思えばできるわけで、それが車両メーカーまで傘下に入れた鉄道会社の利点なんじゃないかなあ。
50年も60年も前から、自分で動力を持たない客車には走行中に充電するバッテリーが床下に着いていたのですが、そういうことすら忘れ去られている気がします。
鉄道会社が車両メーカーを傘下に入れるってことは、実はとても怖いことだと私は思います。
なぜならば、ユーザーとメーカーが一緒になるからです。
不具合だとか、リコールだとか、そういう事例が発生した時の対応がとても難しくなります。
でも、今の時代、やる気になれば技術的には何とでもなるんじゃないでしょうか。
日本の車両を外国に輸出しようなんてのは、それからの話ですよ。
少なくとも、外人にはこんなことで大騒ぎするような新型車両は受け入れられませんからね。
昨日の事故をテレビで見ていて、桜木町駅の駅員さんが、乗客に非常用に備え付けてあった飲料水を配っている姿が映っていました。
上からの指示は的を得ていなかったり、お客からは罵声を浴びせられるし、こういう時の現場の対応って、とても難しいと思いますが、乗務員さんや駅員さんなど、鉄道の現場の職員の皆様方の使命感ある活躍には、本当に頭が下がりますね。
大変なお仕事、お疲れ様でした。