時代が後からついてくる。 その2

4月の初旬に、三陸鉄道が震災から3年で全線復活し運転再開したニュースは日本中を駆け巡りました。
三陸鉄道は岩手県の三陸海岸を走るローカル線で、地域の人たちの大切な足なんですが、その限られた地域のための鉄道が復活したことが全国ニュースになるという事実を考えてみても、都会の人たちは被災地に思いを寄せていて、今でも心配していて、だから「三陸鉄道が開通してよかったなあ。」と思っていることがわかります。
三陸鉄道は確かに交通機関なんですが、現地での輸送人員で言ったらバスやマイカーの方がはるかに多いわけですから、輸送力という点では三陸鉄道が開通するよりも、道路が開通するほうがはるかに大切なんですが、でも、「道路が開通しました。」と言ったってニュースにはならないんです。
それが鉄道、特にローカル線が持つ力であって、ローカル線の情報発信力であり、ローカル線が走る地域が持つ可能性なんですね。
都会に住む人たちはみんなローカル線にあこがれを持っている。
「乗ってみたいなあ。」「行ってみたいなあ。」「ローカル線が走る地域はよいなあ。」と思っているから、テレビでローカル線をやると視聴率がグンと上がるわけです。
昔は蛍光灯やシャワーといった「文明」が世の中をリードしていったんですが、モノが行き渡った今の時代は「文化」的な面が時代をリードしていく。その「文化」は音楽や芸術だけじゃなくて、ローカル線に思いを馳せるというような心も「文化」ですから、私はローカル線だって「文化」だと考えるんです。
私は、いすみ鉄道の社長に就任した5年前から、ローカル線にはそういう力があるから、田舎の人たちだけに任せていたんじゃだめなんですよ。田舎の人はすぐにローカル線を捨ててしまうけれど、都会の人にとってもローカル線は大事なんですよ。だから、国がちゃんと力を貸さなければだめなんですよ。と言い続けているんですね。



ここ数年、いすみ鉄道で毎週末にみられる光景です。
これは地元の人たちではなく、都会からくる人たちに田舎が受け入れられている証明です。
ということは、ローカル線問題は田舎の問題ではなく、実は都会人の文化に関する問題で、かつて国が国民のレクリエーション対策に熱心だったように、ローカル線はこの国の「文化」として、日本が国として取り組まなければならない問題だということなんです。
ところが、えらい人たちはローカル線を地域交通としてだけ見てきていたので、地域交通であれば「バスで十分ですよ。」という言い方を過去40年間ずっと言っていて、ローカル線を次々に廃止して、ついでにその地域までダメにしてきたという事実があって、私は、そのやり方ではダメですよ。この国は良くなりませんよと、ことあるごとに、えらい人たちに申しあげているんです。
でも、昨日も書きましたが、国の担当者の人たちは新しい時代を作り出す能力など持ち合わせていませんから、私の言ってることを理解できないし、理解できたとしても、自分の仕事の枠に当てはまらないから、新しい時代を作ろうとしている私のことを「異端」と見るんですね。
先日、私は台湾を旅行してきましたが、台湾の鉄道はかつての日本が作ったものです。日本が統治していた時代のものは、戦後、国によっては「すべて取り壊せ。」となって、全部きれいに壊して新しくしてしまったところもあるようですが、台湾では、20年ぐらい前に誰かがふと気が付いて、「こういう古いものはたとえ日本が作ったものであっても、きちんと保存しよう。」という考え方に変わったようです。
それで、日本時代に建設された古い駅舎などを大切に保存して手入れをして、それが今、観光地になっているんです。
今回、秋田県の由利高原鉄道が姉妹鉄道提携した平渓線は100年も前に日本が石炭産出のための路線として建設した路線です。
いすみ鉄道が姉妹提携の実現を目指している集集線という路線は、同じく100年前に日本が木材の産出のために建設した路線です。
戦前の靖国神社の鳥居の木材は集集線で運び出されたものだと話に聞きましたが、どちらの路線も建設当初の目的はすでに終了していて、はっきり言って地域交通という点ではいらない路線なんです。
でも、そのいらない路線を観光路線化して、今では観光列車が走って、観光客があふれているんですね。
ところが、日本ではいまだにローカル線は「使用済み」の「不要なもの」で、「お荷物」という考え方が蔓延しているわけで、この原因はただ一つ。国が国鉄をやめたときにローカル線を一緒に切り捨てて、地方の自治体にまかせっきりの丸投げをしたからなんです。
わずかながらの手切れ金を渡して、「あとはお前たちでやりなさい。」となって、そんな手切れ金なんかはすぐになくなってしまいますから、ローカル線は地方にとっての「お荷物」以外の何物でもなくて、できるだけ早く辞めたいとほとんどすべてのローカル線を抱える自治体が考えているのです。
この点では、私は日本よりも台湾の方が「文化」という点でははるかに上を行っていると感じています。



[:up:] 台湾国鉄 集集線 の終着駅 車埕駅
かつて材木の積み出しでにぎわった山の中の終着駅は、今、観光鉄道の終着駅としてたくさんの観光客でにぎわっています。
これは平日の様子ですが、土休日になると列車も駅構内も人であふれかえります。
台湾の若者たちには、この駅で結婚式を挙げるのが夢だという人たちもたくさんいるんです。
いすみ鉄道がモデルとしているのはこういう鉄道なんですね。
この写真を見る限りでは決して鉄道マニアだけの駅ではなくて、一般の人たちがこれだけローカル線に興味を持っているということがお分かりいただけると思います。
この国が40年以上もローカル線問題を解決することができずに、今でも全国各地でローカル線をどうしようかと言っているということは、「今までと同じやり方」では解決しませんから、「今までと違ったやり方」が求められるのは子供でも解る理論なのですが、前例のないことに踏み出せない人たちが管理している社会では、それを理解しようとしないし、理解しようとしてもそういうシステムがないんですね。
だから本来、私たちをサポートするのが仕事であるはずの人たちが、私たちの行く手にハードルを課すようなことを平気でするんです。
国力が弱くなっているということがしきりに言われていますが、経済だけじゃなくて、国の中の仕組みの多くの部分が足かせになっているんです。
でも、私の仕事は新しい時代を作り出すことですから、どんどん先に進んでいかなければなりません。時間の無駄遣いはできないんです。
普段は偉そうに「安全、安全」と言っている人たちが、今年度に入ってから安全のための補助金をいきなり3割もカットしてきて知らん顔を決め込んでいる姿を見て、「これほど無責任な人間はいないな。」と、今、公募社長同士ではらわたが煮えくり返っているんですが、その程度の人たちを相手に腹を立てても仕方ないんですね。
そこで私がとった行動とは・・・
財務省に行って直接掛け合ってきました。
国交省に言っても「予算がありません。」という無責任な答えしか返ってこないのならば、この国の仕組みを考えた時に、次に私がとるべき行動は、財務省へ行くことで、こと予算に関しては国交省ではお話になりませんから、直接財務省に行って掛け合ってみたのです。
ローカル鉄道の社長が直接財務省に行くなんてのは前例がないでしょうし、前代未聞かもしれませんが、時代を作り出していくということは前例がないことを連続してやっていくということですから、私はお邪魔して偉い方に直談判させていただいた次第であります。
何も赤字を補てんしてくれと言ってるのではありません。
老朽化した設備を修繕する予算を取ってくださいと申し上げているんです。
これは「安全」のために先手を打っていかなければならないからで、観光鉄道だろうが、地域交通だろうが、安全がすべての基本なんですが、第3セクターと呼ばれるローカル線は、今までの担当者たちが何もやってこなかったところが多くて、今、集中的に設備を更新しなければならない時期なんです。
いすみ鉄道などのローカル線は、都会人にとって必要なんです。
そういうローカル線を小さな子供のうちから体験してもらうことで、この国の将来がよくなるんです。
ローカル線を知らない子供たちばかりが大人になったら、この国は新幹線と高速道路と空港しかない国になってしまいます。そしてそういう国は経済だけでなく、文化的にも衰退するんです。
だから、ローカル線を今、何とかしなければならない。
今ならまだ間に合うんです。
25年以上前に国鉄をやめて交通政策を総合的に考えることを放棄した役所にはできないことを私たちがやっているんです。
今の時代、国が地方への交付金を切り詰める時期に来ています。
でも、一律に切り詰めるのではなく、頑張っているところ、有効に使ってくれそうなところには、今まで以上にお金を出す必要があるんです。
そして、少ない財源を有効に使うことが、改革なんじゃないでしょうか。
日本全国見てみると、可能性があるところと可能性がないところがよくわかります。
今でも箱モノを作ったり、無駄遣いをしているところがたくさんあって、そういうところに限って、役場の建物の中の電気を消して「節約」しているつもりになっている。
いすみ鉄道なんか、箱モノは一切作らず、お金を生み出す努力を効果的にやっているわけですから、私に予算を付けていただければ、誰が見ても有効に使ってるという見本をお見せいたします。
先日、たっぷりお時間をいただいて、いすみ鉄道のようなローカル線の果たす役割をお話しさせていただきました。
だからと言って、すぐにどうなるものではないということは解っていますが、半年後、1年後に「時代が後からついてくる」という確信をもって、私としては今日も頑張って前代未聞に挑んでいくしかないんですね。
精神と肉体が続く限り。
(おわり)

関東財務局千葉財務事務所にて
岡部所長さん(右)と西荒井総務課長さん(左)
たっぷりとお時間をいただき、お話しさせていただきましてありがとうございました。
ご支援期待しております。
国会で「ローカル線は文化である」と取り上げられる日も近いと私は確信しているのです。
縦割りではなくて、物事をトータルに考えることができる役所が、今、この国には必要ですね。
本来は政治の仕事だと思いますが、期待しても始まりませんから、私たちがやっていくしかないんです。