地域おこしの法則化 その3

 鳥取県の第3セクター、若桜(わかさ)鉄道の山田社長さんが、先日面白い話をされていました。
「ローカル線がだめになったのはモータリゼーションだと言われています。でも、モータリゼーションでダメになったのはローカル線だけじゃなくて、鳥取県も同じです。なぜならば、鳥取県では自動車を作っていないからです。沿線の皆様方が自動車を購入する。そうすると、鳥取県のお金が、自動車会社の本社がある都会の都道府県に出て行ってしまうんです。だから、鳥取県からお金がどんどんなくなっていく。これを食い止めるためには、都会の人たちに鳥取県にいらしていただいて、鳥取県でお金を使ってもらわなければなりません。」
ローカル線の社長とは言え、山田社長さんは、このように日本全体を見て、どうして行こうかという方針を立てて行動されていらっしゃることが、この言葉からも良くわかります。
自動車の購入だけじゃなくて、例えば鳥取県の人が、自分の子どもを東京の大学へ通わせるとします。するとどういうことが起きるかというと、やはり同じように鳥取県のお金が東京へ出て行ってしまいます。学費と仕送りで年間200万円かかるとすれば、子供一人を東京の大学へ行かせるだけで4年間で800万円ものお金が鳥取県から出て行ってしまうわけです。
昔の田舎では農業や漁業、林業などが盛んでしたから、そういう地場産業を都会へ輸出することで、収支のバランスをとることが可能でしたが、地場産業が衰退している今、地域は収支のバランスをとることができないわけで、これは何も鳥取県だけの問題ではなくて、北海道から沖縄まで、日本全国の田舎の町のお金が、大都市に吸い上げられる構造になっているのです。

▲若桜鉄道の山田社長さん(左)。SL走行社会実験に石破大臣が駆けつけていただいた時の一コマ。お隣は由利高原鉄道の春田社長さん。ローカル線で奮闘する公募社長3名を大臣が激励してくれました。
だから、田舎の人からしてみたら、中央から補助金をもらうということは当たり前のことで、補助金はバラマキだと批判する人たちは、皆さん都会にいて、都会で生活している都市生活者ばかりで、田舎の現状を知らない人がほとんどだということも、法則というかパターンの一つなのです。
今の田舎の現状を見た場合、たとえバラマキであっても、補助金をもらえればとりあえず食べていくことができる。腹が減って立ち上がれない人がいたら、まず、その人にご飯を食べさせてあげて、体力を付けさせてあげることが必要で、体力がついて立ち上がることができたら、今度は独り歩きできるようにしてあげるという、2段構えが必要なのが田舎の現状ですから、今回の地方創生のシステムが2段構えになっているのは、ある意味今までの補助金とは違っていて、よくできたシステムだと思います。
さて、その補助金ですが、今までの補助金は、とにかく「パクッ」と食べてしまって「はい御仕舞い」。そこから何も生み出さない使われ方がほとんどでした。山の中に橋を掛けたりトンネルを作ったり。確かにそこに住んでいる一部の人たちにとっては便利にはなるかもしれないけれど、費用対効果が考慮されていないし、作ってしまったがための維持管理が将来的に重くのしかかるのが地方の補助金の使い方でしたが、今回の地方創生の掛け声は「持続可能なシステムづくり」ですから、上から降りてきた補助金をパッと使って、次に続かないようなところは、生き残ることができないという、きわめて厳しい課題が課せられているということも事実なのです。
今、この瞬間でも、「地方創生で向こう5年間補助金が出るから、当面大丈夫だ。」と思っている地域が、おそらく日本全国津々浦々にたくさん存在すると思いますが、そういうところはまず生き残ることができない。なぜならば、補助金が出ている5年間に、きちんとお金を稼ぐシステムを作り上げて、補助金が切れた後は独り立ちして生きて行かれるようにすることが求められているわけですから、補助金頼みで、食いつぶしてきたところは、今までと同じ考え方では生きていくことは不可能だということを、まず理解しなければなりません。
そして、補助金が出ているうちに、持続可能なシステムづくりをして、補助金が切れた後は自分たちで生きていかなければならないわけで、そう考えると地方創生の補助金というのは大学の学費のような性格のものであることがわかります。
4年間、親から学費を出してもらって、それで一人前になって、大学を卒業したら独り立ちして生計を立てていかなければならないのと同じように、国が面倒を見てくれている間に実力をつけて独り立ちをしなければならないわけで、いつまでも補助金を頼りにしているわけにはいかないということを、肝に銘じなければならないのですが、そのことを本当に理解している自治体がいくつあるかを考えると、とても不安になるというものです。
お祭りやイベントを1発やって何百万円かの補助金を使って、それで活性化したなどと考えているところは、将来が危ういのは明白ですが、その原因となっているのが、今までその町に住んできた人々の考え方にあるわけですから、これがすなわち町が廃れていく法則であって、そこのところをしっかり把握しておかないと、どうやっても将来はないのであります。
私は、いすみ鉄道というローカル線を使って、
1:地域の宣伝をして、地域を知ってもらい、地域に興味を持ってもらうこと。
2:地域に興味を持っていただいた方に、実際にいらしていただき、お金を使っていただくこと。
3:地域にいらしていただいた方に、地域を気に入っていただき、リピーターになっていただくこと。
4:リピーターになっていただいた方に、地域を宣伝していただくこと。
5:そして、新しいファンを作り出して、地域にいらしていただくこと。
6:沿線地域を故郷のように思ってくれる若い人たちをたくさん育てること。
こうすることが、持続可能なシステムづくりにつながっていき、地域経済が少しでも活性化し、将来的には移住を希望する人が出てくれば、地域の人口を増やすことも可能ではないか。
それが、新しいローカル線としての役割なのではないか。
だから、いつまでも「地域の大切な足を守る」というお題目1本に頼らずに、新しいローカル線の使い方を提案してきましたが、こういうことが、もしかしたら地域を元気にするための法則かもしれない。
そういう信念を持って前進しています。
とは言っても、いくら私が頑張っても、ローカル線というのは構造的な問題を抱えていますから、いすみ鉄道が将来どうなるかはわかりません。でも、いすみ鉄道沿線地域以外の全国のローカル線を維持している地域が、少なくとも「いすみ鉄道方式」という法則をご理解いただき、お気づきいただき、ローカル線の新しい使い方をすることで、今後、1つでも廃止されるローカル線が減れば、廃れていく田舎の現状を食い止めることができるわけですから、日本全体で見たら、それだけいすみ鉄道は日本の田舎町に貢献することにはなるのではないでしょうか。
そう思って、日夜新しい法則を作り出していくのであります。
(おわり)