地域おこしの法則化

 地方創生が全国で叫ばれていますね。
学者先生や評論家、コンサルタントの方々など、いろいろな方々が、地方創生をテーマに活躍されていますが、そういう方々に共通しているのは、「パターンさがし」。つまり、法則を見つけることです。
法則さえ見つければ、その法則を各地で展開することで、同じような問題が解決できる。
これが、研究者の課題になっている部分だと思います。
最近では、ある大学の先生が、「いすみ鉄道方式」ということで、ローカル線を再生させて、それを地域おこしに関連付ける一つの法則として、私がいすみ鉄道でやっている事例をパターン化、法則化してご紹介していただいているという話を聞きます。
自分が渦中に飛び込んで夢中でやっていることは、なかなか自分では冷静に分析することはできませんから、そのような偉い先生が分析していただくことは誠にありがたいことですし、法則を見つけ出してパターン化していただくことで、日本全国のローカル線が廃止にならずに済んで、その沿線地域も元気になることができれば、ローカル線新時代の幕開けですから、こんなにうれしいことはありません。
だから、「いすみ鉄道方式」を研究していただくことは大歓迎なんです。
そして、どのような学術的見解が出てくるか、楽しみでもあるわけです。
法則を見つけ出すときにまず大切なのは、2つのことを見つけ出さなければならないということです。
地域が疲弊して、このままで行ったら将来的に消えてなくなってしまう。それも、そんなに遠い将来ではなくて、今手を打たなければ間に合わない状態だということは、人間の体で言えば、病気にかかって、余命いくばくもない状態と同じです。
地方の現状がそうだとすれば、やらなければならないことは2つです。
まず1つ目は、どうしてそのような病気にかかって、死に直面するような状況になってしまったのかという、今置かれている現状を認識してその原因を見つけ出すこと。2つ目は、その見つけ出した病巣、原因というものを除去して、治療行為を行って、体力を付けさせて、立ち直れるようにすることです。
ところが、いろいろなところで話題になっている地方創生の方法論を見てみると、専門家の先生やコンサルの方々と言うのは、2番目の「治療行為を行って、体力を付けさせ、立ち直れるようにすること。」という事に関してはノウハウをお持ちで、正しいことをおっしゃっているのでしょうが、1番目の、田舎の町が、今、どうしてこれほど廃れてしまったのかということの現状分析をされていなかったり、そこの研究がなされていない場合が多くて、結果として第2番目の治療策が有効に機能していないように見えます。
田舎の町が、なぜ今のように、これほどまで廃れてしまったのかということは、例えば工業団地や企業が出て行ってしまったとか、海外旅行の需要が拡大して、それまでたくさん来ていた観光客が来なくなったとか、いろいろな原因があるのですが、こういうことを一言で言うとしたら、「その町に長年住んできた人たちが、その町をそのように廃れさせてしまった」わけですから、まず、その前提に立って、廃れた原因を究明することをやらないと、病巣を除去できないし、有効な治療策が役に立たないということだと思います。
だから、もし、そういう地域に治療行為だけを行ったとしても、「5年後の再発率何パーセント」と言われるように、必ずまた同じ状況に逆戻りするわけで、どういうことかと言うと、補助金をいくらつぎ込んだとしても、その補助金が切れたら終わってしまうということになるのです。
長年そこに住んできた人たちが、その町を現状のように廃れさせてしまった。
これが最大の理由なんですが、実際にその町の皆さんにしてみたら、「俺は何もそんなことをした覚えはない。」と言われるでしょうし、こういうことを面と向かって言うのは酷なことかもしれません。
でも、私は、「町を廃れさせるようなことをした覚えはない。」ということが、すなわち原因であると思っています。
それは、言葉を変えれば、「何もしてこなかった。」ということだからで、言い換えれば「何もしないこと。」は看過できないということなのです。
企業に勤めるサラリーマンや、個人商店の方など、よくお解りいただけると思いますが、会社やお店が生きていくためには、流行や時代の流れを察知して、その時代にあった商品を取りそろえたり開発したりするなど、世の中の変化に合わせて、常に対策を立てて実行していかなければなりません。
だから「何もしないこと。」が許されるわけないということを体感されているわけですが、田舎にいると、毎日が同じことの繰り返しで、特に農家の人たちは毎年同じことを同じようにするのが仕事なわけですから、十年一日のような生活をしている。そういう生活の中にいると、「何もしないこと」が正当化されるというか、それすら気づかないことが多くて、「どうして?」「俺たちが何か悪いことをした?」というのが現状なんですね。
それと、もう一つ田舎の特徴としては、公務員や公共の仕事をする人の割合が高いということ。
田舎は仕事があまりありませんから、昔から、学校を出たら、先生になるか役場や農協に入るか、国鉄か、消防、警察など、公共的な仕事に就く人が多いということが50年前から見られる現象です。そして、そういう公共的仕事の会社に共通して言えるのは、「前例主義」ですから、前例がないことはやりたくない。いや、やりたくてもできない仕組みが組織の中に出来上がっているわけですから、ちょっと元気な人や、反骨精神があって、町を変えてやるなどと考えている人たちは、結局田舎の社会では村八分になってしまって、都会に出て行ってしまうわけで、つまり、出る杭は打たれて、さんざんな目にあって、地元に根付かない構造になっているのです。
こういう現状と言うのは、日本全国どこの田舎へ行ってもだいたい共通してみられることですから、まずそこを分析して法則を見つけ出して、病巣を取り除くことをしないと、いくらお金をつぎ込んでも、優秀な先生にいらしていただいても、5年後の生存率はかなり低くなるということを認識しなければならないのです。
(つづく)