新幹線か飛行機か その2

輸送にはいろいろな特色がありますが、人の輸送というのは双方向、つまり行ったり来たりです。これが、貨物輸送になると基本的には片方向です。
つまり、行った人は帰ってきますが、行った貨物は戻ってきません。
航空会社では旅客営業は1人のお客様を見つけてくると、ほとんどが往復輸送で航空券を2枚買ってくれますが、貨物営業は1個の荷物を見つけてきても、その荷物は運んでしまえば終わりで、基本的には戻ってくることはありませんから片道切符です。だから、同じ営業をするのでも旅客営業の方が効率が良くて売り上げも上がるわけです。
人の輸送の双方向性というのは、1人の人が往復するのはもちろんですが、2つの地域からそれぞれに向かう輸送があるのも特色です。
先日お話ししました秋田を例にとると、秋田の人が東京へ来るという輸送と、東京の人が秋田に行くという輸送があって、たいていの場合、それぞれの人が往復利用しますから、両方の出発地でそれぞれのお客様を見つけて営業をしているということになります。
貨物輸送も同じように秋田と東京の両側でお客様を見つけるわけですが、秋田で採れた米や野菜は東京へ送られますが、これは一方通行ですから、その米がしばらく経って秋田へ戻るということはありませんので、東京では別のお客様、別の貨物を探さなければならないということになります。
さて、話を「新幹線か飛行機か」に戻しますが、先日、秋田へ行ったときに、秋田の人は東京へ行くのに「飛行機で行く」という選択肢がほとんどないということに気づいたとお伝えしました。これに対し、東京の人は、「新幹線で行こうか、それとも飛行機にしようか。」と考える人が多いのですが、ではなぜ、秋田の人が飛行機という選択肢がないのかと言えば、それは、秋田の人のほとんどが、東京に行くということは、東京に用がある。つまり、上野、東京、新宿、渋谷、池袋やその周辺、せいぜい浦安のディズニーランドに用事がある人がほとんどだからだと思います。
だから、飛行機で羽田空港まで連れて行かれても、羽田空港から都内の目的地に結局戻ってこなければなりませんが、新幹線であれば、着いたところが目的地となるので便利だからです。
私の友人で長野県の信越線沿線出身の人がいるのですが、お袋さんが上京してくるときは必ず上野駅で下車する。だから上野に停車しない新幹線には乗れないと言うので理由を聞いてみると、信越本線の特急、急行時代の昔から、お袋さんの東京での行動の起点は上野駅であるということ。だからすべてを上野を起点としてどちらへ行こうか考えているそうです。また、東京の電車でも、例えば東京駅から上野駅へ行くのに、京浜東北線は絶対に乗らない。なぜならば、間違えて乗ったらどこへ連れて行かれるかわからないからで、その点、山手線であれば、何かあっても一周回って戻ってくるから心配ないという考えらしいのです。
こういう考えの人は今の時代特殊な例かもしれませんが、田舎の人から見たら今でも東京はある面そのように見えるのかもしれませんから、羽田空港に着く飛行機はそれだけで不安材料なのかもしれません。
私が子供のころ、福島のおばあちゃんが訪ねてくるときによく言ってた、「上野駅からお前のうちまでは来られる。でも他へは行けない」ということばを思い出します。
これに対し、東京の人が秋田へ行く場合は、まず東京駅か羽田空港へ行かなければなりません。
東京の人というのは、東京都内に住んでいるだけでなく、神奈川県の人もいれば東京西部の人も、埼玉も茨城も、そして私のように千葉県に住んでいる人も、東京駅や羽田空港を利用するという点では東京の人ですから、そういう人たちにしてみると、秋田に行く場合には、秋田の人が到着地優先で考えるのに対して、東京の人は出発地優先で利便性を考えるのです。
そうすると、昨今発達している高速バス網で、神奈川県や千葉県の人は東京駅よりも羽田空港の方が便利な地域がたくさんあります。
私のように荷物が多い人間は車で都内の発駅まで行きますが、羽田空港ならば1日1500円の駐車料金が、東京駅だと新幹線利用割引を使っても1日5000円ですから、利便性だけでなく、金額的にもちょっと考えてしまいます。
でも、同じ東京でも埼玉県や茨城県の人は、東京駅や上野駅に出てくる方が何かと便利ですから、新幹線という選択肢の人が多いのではないでしょうか。
これは何も秋田だけじゃなくて、新幹線と飛行機のダブルトラックになっている地域は日本中どこでも同じだと思いますが、その距離はというと、700kmから800kmぐらい。所要時間にして4時間前後が飛行機利用の分岐点と言われていますから、東京から広島ぐらいになると飛行機を選ぶ人が多くなり、福岡になると最初の選択肢が飛行機になるんじゃないかと思います。
今度、開通する北陸新幹線では金沢まで3時間半で到着するようですから、ぎりぎり新幹線に軍配が上がりそうですが、それでも先ほど申し上げたように、神奈川県や千葉県地域のように羽田空港へのアクセスが良いところでは、金沢へ行くといえば今まで通り飛行機で小松へ飛ぶ人も多いのではないかと思います。
そう考えると、新幹線が走っていない地域は、東京へ出るのに在来線から新幹線に乗継というのはなかなか不便ですから、当然飛行機という選択になるでしょう。まして鉄道会社が夜行列車を辞めてしまう現状では、学生や若者のように「何が何でも安く行きたい。」と夜行バスを利用する人でもない限り、飛行機という選択肢になるでしょうから、東京への輸送としての在来線特急から新幹線連絡というスタイルはだいぶ薄れてきていると思います。
だとすれば、無理して新幹線が来ることを望むよりも、飛行場を整備し、東京へ直結する航空路線を誘致するほうが、背負わされる負担が少なくて効率的で現実的だと思います。
そうなれば、新幹線のない長野県の南信地区や岐阜県、山形県の日本海側あたりよりも、鳥取県や島根県の方が東京への時間距離が近くなるわけで、考え方によっては、有利な位置に立てると私は考えているのですが、いかがでしょうか。
今日はいすみ鉄道のスタッフが岡山に出張しています。
もちろん日帰りですが、勝浦や大多喜あたりから岡山へ日帰りするとなると、やっぱり羽田空港から飛行機になるようで、私が言う前から「もちろん飛行機ですよ。」と言ってましたが、飛行機という選択肢がない新潟への出張は1泊ですが、新潟より遠い岡山でも飛行機であれば日帰りが可能なわけで、だとすれば、東京からの距離が遠いところでも十分に競争に勝てるのではないでしょうか。
田舎の人だって、乗りなれてくるとやっぱり飛行機を選択する時代なんじゃないかなあと考えるわけです。
ということで、今日のビッグニュースはJRが羽田空港直結の鉄道として、東京、渋谷、新木場の路線を建設するという話題。
これならば羽田空港に到着したお客さんも、迷わず都内の目的地に20分程度で行かれますよね。
ということは、JRが羽田空港アクセスを整備すると、自社の新幹線のお客さんを奪うことになると考えなければなりませんが、実際のところはどうなのでしょうか。
これはあくまでも私の想像ですが、新幹線にも陰りが見えてきています。北陸新幹線が開業すれば、上越新幹線はますます乗りが悪くなるし、東北新幹線も仙台、盛岡、八戸と進むにつれて乗りが悪くなって、新青森はじり貧の状況ですから、北海道新幹線に期待できるとも思えません。
では、どうするかと言えば、私はJRがいつまでも鉄道会社に終始しているとは考えません。簡単な話、JRも航空会社をやれば良いんです。
今の時代、航空会社は自社で飛行機、整備場、乗務員、訓練施設などを保有する必要もなくなってきています。フランチャイズでウエットリースしてJRが飛行機を飛ばすことだってできるし、外資のLCCと手を組んでも良いし、ダメになりそうな航空会社を会社ごと買い取るという方法もあるかもしれません。
もし、羽田から大阪へJRが飛行機を飛ばしたらどうでしょう。東京駅、新宿駅から羽田空港に直結する列車を走らせて、空港まで乗り換えなしになれば、リニアなんていらなくなるんです。
まあ、あくまでも私の想像の世界ですが、そのぐらいの発想力はJR幹部の皆さんにはあるんじゃないでしょうか。
今から10数年後にリニア開業の目処がたったころ、リニア不要論が出てくるのは、私には見えているんです。
なぜならば今の時代に20年30年もかかるプロジェクトを建設する根拠となっている現時点での需要予測が正しいとも思えませんからね。
皆様はいかがお考えでしょうか。
あくまでも、私の想像の話ですから、ここだけの話ですよ。