ビジネスクラスとビジネスホテル その2

海外旅行へ行かれる皆様方というのは、たいていは観光目的で行かれると思います。
観光旅行というのは、「もういくつ寝るとハワイ。」などと、指折り数えて待ち焦がれるものですから、別の見方をすれば、はるか以前から日程や旅程が決まっています。そして、そういう旅行は、自分のスケジュールの中ですべての予定に優先して行いますから、一度行くと決めて申し込んだら何が何でも必ず行くものです。
海外旅行だけじゃなくて、国内線のホームページを見ていると、今ならさしずめ10月の航空券が格安の値段で販売されていますが、観光旅行であれば、国内旅行でも今から10月の旅程を決めて、万難を排して、何としてでも出かけることができますから、とても安い値段で航空券が手に入るわけです。
つまり、そういう観光旅行のためのツアーや航空券というのは、旅程の変更がきかないし、キャンセルもできない。できたとしても高い金額のキャンセル料金が請求されることが条件となっていて、その条件を了承したうえでの旅行商品であり航空券なわけです。
ところが、ビジネスマンの出張というのは、大臣の親善訪問ではありませんから、ずっと以前から予定が組まれているというものではなくて、会社の指示で急に出張が決まったり、現地での滞在を延長したり短縮したりと、フレキシブルに動くことが求められます。
そういうビジネスマンの人たちが利用する航空券というのは、日程だけじゃなくてルートなども自由自在に変更ができることが求められますから、そういう条件の航空券を探し出すと、ノーマルチケット、つまり、正規運賃の航空券になるわけです。
ところが、その正規運賃の航空券というのはとても高額な運賃で、例えば東京からニューヨークへ行く正規運賃はエコノミークラスでも50万円以上するわけです。
格安航空券では10万円も出せばいろいろありますから、雲泥の差ですね。
ビジネスで出張する人たちは、同じエコノミーの切符でも、とても高い切符を買っているということです。
でも、その人がいくらの航空券を買っていようとも、一歩飛行機の中に入れば、座席の大きさや出される機内食などは格安チケットのお客様と全く変わりません。
会社から航空券を支給されているとはいえ、出張で重い責任を負って旅行する自分と、観光旅行で浮かれている団体客が同じ機内に隣り合わせで乗り合わせて、受けるサービスも同じとなれば、これは誰だってイライラするでしょう。
そこで、ジャンボジェットの登場のころに考え出された新しいサービスが、ビジネスクラス。
つまり出張で利用する正規運賃をお支払いいただいているエコノミークラスの社用族の方々に、団体運賃のエコノミー客とは少し違った高級なサービスを開始したのがビジネスクラスの始まりなんですと昨日申し上げました。
当時の飛行機はファーストクラスとエコノミークラスの2クラス制でしたが、エコノミーよりも上だけど、ファーストクラスではありませんという中間のクラスを設定して、「ビジネスクラス」というものが登場したのです。
このビジネスクラスは、かつてアメリカに存在したパンアメリカン航空(通称パンナム)という会社が「クリッパー」というブランド名で登場したことから、その頭文字をとって「Cクラス」と呼ばれるようになり、今でもビジネスクラスの航空運賃の表示を「C」と表記している航空会社が多く残っているのです。
さて、私は航空会社に長く勤務していて、たくさんの出張をしてきました。出張だけじゃなくて、個人的な旅行も多くしてきましたが、そういう時に社員が使用する航空券というのは、「空席があれば乗れる」航空券です。「空席があれば乗れる」というのは、簡単に言えば、予約ができない航空券で、さまざまな制約をすり抜けて飛行機に潜り込むのは至難の業だったのですが、逆に言うと、予約ができないものですから、予定変更も何もあったもんじゃないわけです。
空港へ行って、「席ありますか?」とたずねて、「大丈夫ですよ。」と言われればOKという世界を20年もやってきた人間にとって見ると、何日も前から予約して飛行機に乗るという感覚がないわけです。
ところが、すでに航空会社を辞めて5年の日々が経過し、飛行機に乗るには予約して切符を買って乗る人間になって久しいわけですが、今でも飛行機に乗るのを簡単に考えすぎているキライがあって、いろいろなところで壁にぶち当たるわけです。
個人旅行をするときでも格安の航空券やツアー切符を利用して、旅程変更が必要になってしまうことがあります。でも、その切符では変更も払い戻しもできませんから、簡単に言えば、その切符を捨てて新しい航空券を買いなおすなんてことはしょっちゅうなんです。
例えば、列車の撮影に出かけて、雨が降ったからもう1日延長したいとか、明日帰る予定が急用が入って今日帰らなければならないとか、今年になってからでも、もう3回も新しい切符の買い直しをやっているのですが、その度にあらかじめ用意しておいた航空券は紙くずになって捨てています。
個人で旅行する場合はともかくとして、特に会社の出張で行く場合は、フレキシブルに対応できないような航空券を使うことは最初からお金を捨てるようなものですから、どうしても正規運賃の航空券を買うことになります。
そうすると、ほとんどの場合はビジネスクラスになる。
つまり、結果的にビジネスクラスに乗っているわけです。
だから、一番つまらないと思うのは、国内線のようにビジネスクラスがない路線では、フルフェアーの正規運賃を払って、3人掛けの真ん中の席なんてこともあるわけで、(つまり、直前に予約したり、予約なしで空港へ行ったりするから)、海外へ行く場合は特にですが、少しぐらい金額が高くても、正規運賃の航空券を買うことが結局割安になるということなんですね。
もっとも、いろいろ裏技もあるわけで、私はこのところ数回台湾に出張していて、そのほとんどをビジネスクラスで往復していますが、払っている運賃はエコノミークラスと同じ金額かそれ以下ですから、会社の経費を無駄遣いしているわけではありませんのでいらぬご心配は不要というもの。
それよりも、日本というのはとても良い国で、お客様を平等に扱ってくれますが、一歩海外に出ると、エコノミーとビジネスではお客の扱い方が全く違いますから、出張等でフレキシブルな対応をしていただきたいと思うのであれば、格安ツアーの切符を買って経費節約をしているようではだめなんですね。
ここ数年日本でもLCCが台頭してきていますので、少しずつ日本人も理解できるようになってきていると思いますが、例えば出張で台湾に行くときに「バニラを予約しました。片道8000円でした。」と言って「それはよく経費を節減したな。」と褒められる時代ではありません。
「おまえ、その会社ちゃんと飛ぶのか? もし欠航になって商談ができなかったらどうするつもりだ」と言われてしまいます。
それと同じことが格安航空券にも言えるわけで、そう考えると、「バニラじゃなくて赤い翼でしょう。」というのは当然だし、「ツアー切符じゃなくて変更可能な運賃でしょう。」となるのも当然ですから、ある程度旅程に柔軟さが必要な地位の人たちは出張で行くときは結果的にビジネスクラスになるということなんですね。
同じビジネスマンでも、会社から地位が下とみられている人たちは、出張規定に「エコノミークラス利用」と書かれているわけですが、そういう人たちは、出張そのものにフレキシブルさを求められない人たちですから、「言われたとおりに行って来い。」と言われて、往復共に旅程変更できない航空券を持たされるというのももう一つの現実なんですが、私が不思議に思うのは、この「エコノミークラス利用に限る」という出張規定で、世の中にはエコノミークラスより安いビジネスクラスの切符なんてたくさん出ているにもかかわらず、要は料金の問題じゃなくて利用するクラスの問題ですから、特に公務員の人たちが海外出張に使っている航空券は、エコノミークラスでも目の玉が飛び出るぐらいの金額のものが多く、そうなってくると本末転倒以外の何物でもありません。
税金を節約するのではなくて、波風が立たなければなんでも良いわけですから、だんだん判断基準がおかしくなってくるわけで、そういう人たちが物事を決めるポジションにいるこの日本という国の将来は恐ろしいことだと私は思うのです。
さて、今度の月曜日、6月9日は台湾の鉄道記念日にあたる「鉄路節」です。
今、いすみ鉄道では姉妹鉄道締結へ向けた動きが活発になってきていて、この鉄路節にもご招待されていますので、また出かけてまいります。
なかなか忙しい旅程をこなしていますが、飛行機で台湾に行くと思うと遠いなあと感じまあすが、考え方を変えれば、新幹線で岡山へ行くような感覚ですから、それほど身構えることもないということなんですね。
ただし、観光旅行ではありませんので、わくわく感を感じなくなってしまったのが、なんだかさみしく感じます。
どこかに出かけるということもそうですが、年間60~70回飛行機に乗って、100日以上も自宅にいない身としては、飛行機に乗るのも、ホテルに泊まるのもわくわくしない人間になってしまっています。
格安のツアー切符を買って、すべての予定をそこに合わせて、「あと何日」と指折り数えてわくわくしているエコノミークラスのお客様の方が、ビジネスクラスの乗客よりもはるかに幸せだということだけは、どうやら真実のようですね。