「まだバスがある」から「もうバスもない」へ

このところ、バス会社が全国で悲鳴を上げています。

コロナで仕事がなくなった人がたくさんいる反面、人手不足が深刻化している。
日本は雇用の流動性が低かったことが原因になっているかもしれませんが、バス会社が悲鳴を上げやすくなっているのかもしれませんね。

今日話題になっているのは山口県の岩国バスが、「運転士が退職したのでバスが走れません。」という内容の紙がバス停に貼ってあるということ。

確かに正直でよろしい。

運転士の「退職理由」をバス停に掲示の山口・いわくにバス「個人情報漏えい」批判に会社は「運転士も知っています」

実はバスだけじゃなくて、例えばホテルなどでも客室清掃スタッフが集まらないから全館のうち数フロアを閉めているとか、観光旅館でもコロナで従業員に辞めてもらったけど、コロナが終わっても戻ってきてくれない。だから、お部屋を全室稼働できないというのも普通の話。
かえって部屋数を少なくした方が単価が高くて良いという話も聞きます。

ファミレスや居酒屋などでも、客席が空いているのにお客様を入れることができない。

今年に入ってから、地方都市へ行くとそういうところがたくさんあります。

この間、どう見ても混んでなさそうなお店に入ろうとしたら「予約はお持ちですか?」と言われ、「ない!」と言ったら断られましたので、一回りしてくる間にスマホで予約を入れたら、予約ができたので、もう一度その店に行って「予約あります。」と伝えたら、「ようこそ、いらっしゃいませ。」ってのがありました。
もちろんお店の中は空いていて、1時間以上いましたけど、満席にはなりませんでした。

つまり、そういうことなのです。

鉄道というのはぜいたく品だと国交省は言っていて、なぜかというとお金がかかるから。
鉄道の特性というのは高速性と大量性ですから、1両でのんびり走る田舎のローカル線が鉄道である必要はなく、バスで十分ではないか。
だから、鉄道はぜいたく品なので、補助金は出せない。
「まだバスがあるだろう。」

鉄道が廃止になって、バスしかなくなれば後がないので、いよいよ感が増します。だからバスには補助金を出すけど、鉄道には補助金は出しません。

国はこの理論を40年も前から言ってきてるんです。

最近ではそれに乗じて阿呆な鉄道会社幹部が、「1両で数人しか乗っていないディーゼルカーなら、環境を考えたらバスの方が優れている。」などと公式の場で堂々とのたまう姿も見られていて、それって違うでしょう? なぜなら、「1両に数人しか乗っていないのは、会社としての営業努力の欠如ですから。」と私は思うのですが、やめたくて仕方がない人たちは鉄道を悪者にして、バスを擁護してきました。

でも、ここへ来て、世の中が急に変化をしていて、人手不足はもちろんだけど、あちらこちらで同時多発的に「降参の白旗」を上げ始めてきているという現象がみられるのです。

最初に白旗を上げたのが大阪の金剛バスという会社ですが、金剛バスが走っているところって過疎地じゃないんですよ。富田林市という大阪のベッドタウンですから。そういうところでもすでにバスが維持できなくなってきているんです。

つまり、今までずっと我慢してきたけど、もう我慢の限界ということなのでしょうね。

【ABC特集】「限界です、正直言いまして」(バス会社社長) 「全国の路線バス事業者のうち黒字を出しているのは6%ほど」(専門家) 運転手不足に乗客減少で路線バスがピンチ!

例えばJR北海道で鉄道が廃止になっても「まだバスがある」と思って廃止にしたところのバスが数年で運行できなくなったり、函館本線の維持管理にお金を出したくないから廃線にしてバスにしましょうかと協議をしている時に、その地域のバス会社が「うちは無理ですよ。」と言い始めたり。
もしかしたら鉄道が廃止になる前にバスが無くなってしまうというのが現実味を帯びてきているような気がします。

そういう時に、沿線の市町村は都道府県に何とかしてくれと言うのでしょうね。
北海道庁もいったん廃線で合意した地域が、バスが無くなる可能性に気付いて「さあ、困った」と言われても、「何をいまさら」なのではないでしょうか。
結論を出すならその前にもっといろいろなことを勉強しなければならないと思いますが、田舎の市町村議会の議員のセンセ方ときたら・・・
廃線と決めた後になって、バスがないから何とかしてくれは通じません。

世の中の仕組みとしては、まず地元が動くこと。そうすれば県や道が動くことができて、道府県が動けば国が動くのです。

金額の大小は別として、自分たちが鉄道を維持管理するためのお金を出すのを拒否してバスで良いと決めたのであれば、あとはどうやってバス路線を維持していくかは、まず自分たちで考えなければならないと思います。

一言でローカル鉄道と言っても、田舎の鉄道は「JR路線」「私鉄路線」「第3セクター路線」などに分かれていて、少なくとも「第3セクター路線」のところは地元の行政がなんとか鉄道を残そうと頑張ってくれているところですが、JR路線や私鉄路線の沿線自治体は、長年「鉄道なんか関係ない」と言ってきたところが多くて、ここへきて急に存廃議論が沸き上がって、たぶん、「鉄道にお金を出すぐらいなら、じゃあ、バスでいいか?」となっていくと思いますが、時代はすでに「まだバスがある」から、「もうバスもない」時代に入って行っていることは確かですから、あとは自分たちで運営する町営バスとか、大きな設備投資をして自動運転にするかしかないのではないでしょうか。

なぜなら、第3セクター鉄道沿線、特に国鉄時代の赤字ローカル線を引き継いだような地域は、「自分たちのことは自分たちでやる」という基本的な姿勢があることろですから、国鉄の分割民営化から40年近くたっても、きちんと自分たちの町に鉄道が走っている。
これに対して、そうじゃない地域は国や県に「何とかしてくれ!」という地域が多そうですから、10月に改正された法律の趣旨としても、「まずは自分たちでどうしたいのかを考えて、自分たちで動きましょう。」となっているのです。

ということで、急速に大変な時代になってきましたね。
バスだけじゃなくて、鉄道も人手不足で大変なんですよ。

ただ、トキめき鉄道もそうですが、第3セクターというのは地域の皆さんが一生懸命支えてくれています。燃料費が急騰して赤字がかさむといえば、「大変だろうから、その分援助するよ。」と言って助けてくれるというシステムがありますから、私としては何とか鉄道の運行を通じて地域輸送はもちろんのこと、観光集客のツールとしても何とか地域の皆様方に貢献したいと、毎日考えているのであります。

JR沿線の自治体にもそういう姿勢が少しでもあれば、地域交通の問題の半分ぐらいはスムーズに解決するんじゃないかと私は考えます。

「大井川鉄道」の復旧支援求め…地元住民ら“支援する会”が国に要望書提出

それにしても、この大井川鐡道のニュース。
6000人の川根本町の住民のうち、4000人が大井川鉄道の早期復旧に署名したとのこと。
さらに、地域外の、たぶん東京や大阪などの大都市の人たちが3万人署名したのですから、すごいことだと思いませんか?

大井川鐡道って、定期外旅客収入が全体の9割以上を占めるので、地域の生活の足ではなくて、完全に観光鉄道なんですけど、そういう地域の住民の3人に2人が早期復旧に署名したということは、SLが来なくなった山奥の町は、災害不通から1年経過して、ボディブローのようにダメージが効いてきているのでしょうね。
自分たちの足にはなっていないけど、生活のためには必要だという住民のコンセンサスを得たということですから。

確か津和野もそうでした。
津和野は山陰の小京都として有名な観光地ですから、津和野の人たちは「山陰の小京都」で集客していると思っていた。SLで客が来ているなんて思ってなかったんです。
そんなあるとき、C57が壊れてSLが長期運休になったら、ぱったり観光客が来なくなった。
それで初めて気が付いたんですよね。
写真を撮りに来るだけの人を含めて、SLがお客様を連れて来ていたことに。

山陰の小京都として「おいでませ山口へ」ってキャンペーンをやって観光客がでごった返したのって、ディスカバージャパンの時代。50年近くも前の話ですからね。

大井川鐡道も川根本町が動き始めたということは、静岡県も国も少しずつ動き始めなければならなくなりますから、少しは明かりが見えてくるかもしれません。

ただ、私としては全線40㎞を復旧させるよりも、半分の20kmであれば、SL列車は1日2往復できますから、そちらの方が効率が良い観光列車になるのではないかとは思いますけどね。

9月に訪ねたときに書いたニュースがこちらです。

恐るべし大井川鉄道 どこへも行かないトーマス号が今日も走る!

今月末に友人が企画する撮影ツアーでもう一度お邪魔する予定ですが、地元の様子を見てきたいと思います。

とにかく、まずは自分たちのことは自分たちでやる。

「まだバスがある」から、「もうバスもない」時代になるのですから、今ある鉄道を少しでも大切にすることから始めないと、鉄道に出すよりももっと大きなお金を出して自分たちでバスをやることになると、私は思います。


▲途中下車無しの1時間の往復で客単価4000円超ですから、すごい商売だと私は思います。