車と共存する地方鉄道

インターネットのYAHOOニュースにこんな記事が出ていました。
地方路線とパークアンドライド(5月9日配信)
詳細はリンクをご覧いただくとして、これを書いた杉山淳一さんという記者の方は、自分の足でいろいろ調べて記事を書いていらっしゃることがよくわかります。
いすみ鉄道では、当然と言えば当然なんですが、マイカーでいらっしゃるお客様に便利なように大多喜駅に駅前駐車場を設置しています。
これは、大多喜町の方針によるもので、駅前に駐車場があった方が少しでも利用者が増えるんじゃないかと考えた役場の人たち、町内の人たちが、土地を提供してくれて開設してくれたもので、実は私が就任する前から無料駐車場としてあったのです。
いすみ鉄道がお客様が増えるようになってきて、私は、都会からのお客様にとっては駐車場というのはありがたいものですが、無料駐車場だと本当に停めたい人が停められなくなるし、実際に全く無関係のダンプカーなどが停めて場所をふさいでいたりしていましたので、「有料にしましょう。そうすれば運用も楽になりますから。」と言って、役場に提案したんです。
そうしたらこれが結構もめまして、なぜならば、田舎の人というのはお金を払って車を停めるという発想が全くないわけで、そんなことしたら地元の人が利用できなくなるとか、いろいろ意見を言うだけ言う人がたくさん出てきたんです。
でも、やっぱり基本はいすみ鉄道を利用しやすくするための駐車場だからとなって、最初の1時間まで無料で、1日停めても500円という料金設定に落ち着いたんです。
大多喜町の人たちのすごいところは、いろいろ意見は出るんだけれど、「いすみ鉄道のため」となると、最後はきっちり意見がまとまることで、これはいすみ市も同じなんですね。
今では大多喜駅前に駐車場があるだけでも、都会から来る観光客にとってはありがたいことですし、1日500円で安心して車が停められるなんてありがたいことだというのは、都会の皆様にとっては常識なんですね。
だいたい都心では30分300円とか当たり前ですからね。
まして、駐車場を有料化したことで、きちんと管理できるようになりましたから、誰の車かわからないようなダンプカーや放置車もなくなりましたので、無料の時に比べたら安心できるようになったんです。
さて、私は、都内や横浜方面からいすみ鉄道に来るとしたら、東京からベイラインをトレースするように蘇我まで来て、そこからいきなり山越えをして房総半島の外側を回るJR外房線のルートは、どう考えても遠回りだし、だったらアクアラインを通って車で直接やってくる方が簡単ですから、「皆さん車でいらしてください。」とことあるごとに申しあげているんですが、鉄道会社の社長が「車で来ても良いですよ。」というのが意外性があって興味深いようで、マスコミの皆様方が取り上げてくれて広まってしまったわけです。でも、本当のところは、何もJRに乗るなと言っているわけではなくて、ただ、実際の輸送を考えた場合、東京駅からやってくる外房線の特急は5両とか10両編成で、普通列車も6両や8両編成です。
ところが、大原駅で接続するいすみ鉄道の列車はふだんは1両で、つないでもせいぜい2両が限界ですから、「鉄道を応援するのに車では行くのはけしからん。」と、皆さんがJRに乗ってくるようになったら、いすみ鉄道はパンクしてしまうのです。
上総中野で接続する小湊鉄道の列車も最大4両でやってきますが、それを待ち受けるいすみ鉄道は1両か2両ですから、やっぱりパンクしてしまいます。
それが、そもそもいすみ鉄道のキャパシティーであり、ビジネスの器ですから、無責任に「列車でいらしてください。」と申し上げるわけにはいかないんです。
鉄道で来る人は、観光鉄道とはいうものの、しっかり「足」として利用するという側面もあるわけで、本数が少ないいすみ鉄道のようなローカル線では、「乗り切れませんから次の列車をお待ちください。」というわけにもいきません。
これに対して、車で来るお客様にとっては、一言でいえば「物見遊山」の乗車ですから、混んでいて乗れそうになければ、「乗るのやめようか。」で済むわけです。
つまり、どうしても乗らなければならないお客様が鉄道利用でいらっしゃるお客様で、別に乗らなくても目的が達成されるお客様が車のお客様ですから、この2種類のお客様が存在することで、「フローコントロール」が可能になるのです。
だから車のお客様も必要であって、ウエルカムなんです。
そしてもう一つ。忘れてはいけない考え方があります。
それはいすみ鉄道の1日フリー乗車券は1枚1000円だということ。
この1000円のフリー乗車券がいすみ鉄道の商品なんですね。
ところが、東京駅から特急列車で大原まで往復すると約5000円かかります。
皆さんは、大原までの交通費として5000円を考えるかもしれませんが、私は違う考え方です。
どういうことかというと、いすみ鉄道まで鉄道で来るということは、つまり、1000円の商品を買うのに5000円かかるわけで、通信販売で考えたら1000円の商品を買うのに、送料が5000円かかるのと同じなんです。
そして、通信販売の送料ならばたくさん商品を買えば相対的に送料が安くなりますが、鉄道利用でいすみ鉄道へ来る場合は、2人、3人と数が増える分だけ、送料も同額増えていくのと同じなわけです。
これに対して、車で来る場合は、何人かで来てもコストはほとんど同じですから、通信販売の送料と同じで、みんなで来れば来るだけ割安になるわけで、1000円の商品を売るビジネスを展開する側としては、お客様に無駄に送料を払っていただくのであれば、その分たくさん商品を買ってもらって、同じ送料で済むことになる「車」という手段をお勧めすることが、サービスであり、売上アップの基本であると私は考えるわけです。
そして、これは、私の大ボスである千葉県知事の「アクアラインを800円に」という方針に沿うもので、千葉県の観光は、アクアラインがなくてはならないものなんですね。
JRは大きな組織であって、儲かる商売もたくさんやってますし、私から見たらまだまだいくらでも売り上げをあげられる環境にあります。
だから、JRはJRで自分のところの列車のお客様を増やす努力をすればよいわけで、いすみ鉄道がJRの心配をする必要はないと考えています。
こんなことを言うと、「3セクの社長の分際で生意気だ。」とJRは怒るかもしれませんが、だいたいそういうことに目くじらを立てるのは下っ端の人間だというのが世の常でありますから、JRだって上の方の人たちはみなさんしっかり考えていらっしゃるはずだし、いすみ鉄道のやり方から学べるものはいくらでもあるはずだと、一生懸命研究しているはずなんです。
当然のことですが、いすみ鉄道はJRに喧嘩を売っているわけでもなんでもなくて、例えば、都内南部や神奈川県方面からの人は車でアクアラインを通ってくるのが便利ですが、東京西部や城北地区、埼玉方面からはやっぱりJRでいらしていただくのが便利だと考えていますから、日帰り観光地のいすみ鉄道としては東京発の「わかしお1号」と「新宿わかしお」の到着に合わせて、大原で接続するキハのダイヤを設定していますし、共同企画をお願いしてホームページのTOPに「JRとのコラボ企画」を宣伝しているわけで、上総中野まで小湊鉄道が4両で来ても何とか全員を乗せきれるように、土休日に上総中野で接続する列車にも主にキハを充てているということなんです。
皆様、いすみ鉄道へいらっしゃるときは、どうぞお好きな方法でお越しください。
そしてそれぞれの楽しみ方ができるのが、ローカル線の楽しいところなんですね。

先日、JR新潟支社と北越急行と新潟県十日町の行政の皆様方がいすみ鉄道に勉強にいらっしゃいました。
「うちから何を勉強するんですか? なにもないですよ。」と申し上げましたが、皆様とても熱心なんです。
JR新潟支社の皆様は今年に入ってから「イタリアンランチクルーズ」など視察にいらしていただいていますし、十日町の方々も2度目のご訪問なんですが、なんでそんなに真剣なのかというと、来年、北陸新幹線が開業すると富山、金沢方面への乗客の流れが北越急行を通らなくなりますし、十日町もルートから外れます。上越新幹線だって、現在は越後湯沢までほぼ満席ですが、それがなくなるわけなんです。
だから皆さん真剣なんですね。
先を見据えてどんどん行動していくという皆様方の姿勢から、私もたくさんのものを学ばせていただきました。
ぜひ一緒に頑張りましょう。
ご訪問ありがとうございました。
余談ですが、北陸新幹線開業後、北越急行「ほくほく線」はたぶん何らかの形の観光列車を走らせると思うのですが、どんな列車を走らせてくれるか、今から楽しみですね。
私としては大いに期待しています。
だからお茶を濁したような車両や、どこかのパクリのような列車じゃ許しませんよ。
いすみ鉄道に視察にいらしたんですから、半端な気持ちで観光列車などできませんからね。
ということで、今から本当に楽しみです。
(さりげなくプレッシャーをかけたつもり。)