ローカル線で働く楽しみ

ローカル線というのは大都市近郊の輸送機関のように、人々を目的地まで運ぶという使命は少ない路線です。
だからと言って、ローカル線は不要なのかというと、決してそんなことはなくて、ローカル線があればみんなを笑顔にすることができるし、その地域も笑顔になるし、全国や世界に向けた話題にもなるんです。
交通というのは、目的地に人を運ぶだけでは単なる文明の手段なんですが、ローカル線のようにいろいろな使い方ができることに気が付けば、それは文化になるんです。
ところが、文明というのは、東京から大阪まで新幹線が3時間10分だったのが、この50年間で30分短縮されたなどというように、数値に置き換えることができますから、解りやすいし、評価されやすい。
つまり、数値で証明されれば、誰だってわかるわけです。
でも、文化というのは、文明よりも高度なものですから、全員に一律に理解してもらえるものではなくて、解る人にはわかりますが、解らない人にはどうやって説明しても理解してもらえないんです。
音楽や芸術などもそうですが、良さがわからない人には良さがわからないんですね。
だから、「ローカル線は文化です。」といくら言ったところで、理解できない人には理解してもらえませんから、「そういうことに税金を使うのはけしからん。」とか言い出す人も出てくるんです。
でも、それって、その人が理解できないというだけの理由で文化を否定しているわけですから、本当はその人自身が恥ずかしいことを主張しているということになるのですが、権力がある上の人たちには、文明の尺度で物事を測る人たちばかりで、文化の尺度で物事を判断する人は少ないんです。
だから、日本はヨーロッパに比べて遅れているといわれていますし、最近では台湾の鉄道趣味などを見ていても、日本より台湾の方が文化的にはるかに進んでいる国民が多いことに気が付くのです。
私は、かつて航空会社に勤務していましたが、その会社では世界一速い旅客機を運航していました。
超音速で飛ぶその旅客機は現代文明の粋を集めた存在で、会社にも大きな利益をもたらしてくれましたし、日本の航空会社は逆立ちしてもかなわない会社でしたから、私はそういう飛行機を飛ばしている自分の会社に誇りを持っていたんです。
ところが、ある時を境に、会社の幹部はその超音速の飛行機を、「もうやめます。」と発表したんです。
私はとても残念に思って、会社のトップが日本に来た時に尋ねたんです。
「会社の看板であり、高収入をもたらしている世界最速の飛行機をどうしてやめるんですか?」と。
そうしたら、社長がこう言いました。
「もうそういう時代じゃないんだよ。」
リーマンショックが起こって景気が悪くなる何年も前の話です。
飛行機は古くなってきてはいましたが、改修すればまだまだ使用することは可能でしたし、会社にもより多くの利益をもたらすと思っていたんです。
でも、「もうそういう時代じゃないんだよ。」というのが経営トップの判断だったんです。
後になって考えてみると、その後にリーマンショックが起こり、日本航空もおかしくなってしまいましたが、私の元いた会社が、あのまま超音速の飛行機を飛ばし続けていて、さらに設備投資をしていたとしたら、もしかしたらというか、確実に、いま、会社そのものが存在していなかったんじゃないかと思います。
つまり、ヨーロッパというところは、文化的背景がとても強いところですから、何でもかんでも新しくすることが近代化だと、この21世紀の時代になっても、国も企業も上げて頑張っているような極東の小さな国では、ヨーロッパの足元にも及ばないんですね。
お金があるとか、技術があるとか、そういう尺度ではなくて、文化というものは、はっきりとした誰にでもわかる物差しで測れるものではないですから、国や組織の指導者の人たちにとって見たら、よほど能力がない限りは説明ができないし、文化ということを中心にした統治機構は、この国の組織の中の指導者たちには扱いきれないんです。
そんな時、いすみ鉄道のようなローカル線は、「リニア? もうそんな時代じゃないよ。」と平気で言っているし、ローカル線の新しい文化的な使い方をきちんと説明できているわけで、この国の中でも文化的な人々からは支持されているわけですから、これからはいすみ鉄道のようなローカル線が文化を発展させていく時代であると、私はことあるごとに申しあげているのですが、この国のいろいろなシステムを管理する人たちは、そういうことが理解できない人たちがほとんどですから、私は毎日、胃腸がいくつあっても足りない思いをしているのです。
でも、そのローカル線文化というものをしっかりと理解してくれて、応援してくれている人たちもたくさんいらして、そういう人たちがいすみ鉄道にお越しいただいて、ローカル線の良さをいっぱい発信してくれて応援してくれていますから、私は心強い思いで日夜仕事に突き進んでいくことができるのです。

カシオペアの向谷実さん(右)。いつも応援していただいてます。

トワエモアの白鳥恵美子さん。茂原にお住まいで、いすみ鉄道の力強い応援団です。


中川家の礼二さん。上総中川駅で1日駅長をやるのが夢だそうです。その夢、すぐにかなえられますよ。

NHKの飯田キャスター。経済ニュースの取材でいらしていただきました。ローカル線文化のよき理解者です。

こちらはNHKの国井アナウンサー。小さな旅で取材に来ていただきました。

同じくNHKの「あさいち」で取材に来てくれた俳優の篠山アッキ―さん。
震災直後、日本に元気を届けようということで、アッキーさんがやってきて、キハ52を1両、一人で汗だくになりながらモップかけと掃除をしてくれました。

鉄道員の制服を着ているのはミッツ・マングローブさん。
彼は本当は「鉄男くん」なんです。

いすみ鉄道の一番の応援者はこの方。森田健作千葉県知事です。
本当にいつもありがとうございます。
この写真は私のお袋のところに飾ってあって、近所の人にお袋が自慢している1枚です。
私もお袋も昔から知事の大ファンなんです。

この方は、有名人ではありませんから皆様方ご存じないかもしれませんが、元関東運輸局局長の神谷さん。
この方が「いすみ鉄道を応援する!」と宣言していただいて、今、キハ52が走ってるんです。神谷さんがローカル線を文化としてご理解いただかなかったら、今のいすみ鉄道はありませんし、キハ52もキハ28も解体されていたんです。
だから、鉄道ファンの皆様方にとっても恩人なんです。
撮り鉄さんも乗り鉄さんも、神谷さんには足を向けて寝られませんよ。
神谷さん、ありがとうございました。

小学館「新・鉄子の旅」の作者、ほあしかのこさんと。
面が割れてはまずいようです。

AKB48から演歌デビューした岩佐美咲さん。
大原駅での折り返し時間に撮影したこの写真は、いすみ鉄道の影山運転士の自慢の一枚。
岩佐さんと自分のところだけ切り取って、携帯の待ち受けになっているかもしれません。

NHKドラマの撮影の合間に主演の吹石一恵さんと一緒に国吉駅の猫と遊ぶ影山運転士。
吹石さん、石黒賢さんの運転士としての演技指導担当で、この時は立派に勤務中です。
まったく、けしからん。
勤務中に職務以外のことやったり、芸能人と写真を撮ったりサインをもらったりするなんて服務規程違反で言語道断。
厳正に対処します。
私がもしこんなことを言ったらどうしますか。
こういうことを言うのは、文化ではなくて文明と言う尺度でしか仕事を判断できない経営者や管理者が、与えられた仕事をただやっているというだけの会社なんじゃないでしょうか。
大都市圏の輸送機関ならともかく、いかめしで有名なローカル線は、いすみ鉄道と同じような文化として理解することが必要なはずで、そう考えると、いくら経営トップを入れ替えたとしても、先が見えてるというか、たかが知れてるということが、よく理解できる今日この頃です。
現場を支える職員の皆様、頑張ってくださいね。

例えば、今では全国的に有名になったこの踏切。
これほど絵になる踏切を「いいなあ」と思うのが文化で、「4種踏切はけしからん。警報機と遮断機を付けなさい。」というのが文明なんです。
皆様方にはご理解いただけますよね。