団塊の世代の旅行需要

毎年夏になるとテレビや新聞で戦争の話をします。
昭和20年に戦争が終わって今年で68年です。
私は昭和35年生まれですから、戦後15年の時代に生まれましたし、小学校で戦争の話を先生から聞かされていた時は戦後25年ぐらいということになりますから、今思えば、まだまだ戦争の色が各所に残っていたのだろうと思います。
私の担任の先生は当時30歳前でしたが、台湾生まれでしたし、中国から引き揚げてきたなんて話をしていた大人たちは、30代から40代にもたくさんいました。
そう考えると、そういう話を直接聞いて今でも記憶している私自身も、かなり古い人間ということになりますね。
さて、団塊の世代という言葉をよく聞くと思いますが、団塊の世代というのは、戦後のベビーブームと言われる昭和22年から24年ぐらいにかけて生まれた人たちを指すようです。
戦後2~4年で生まれたということは、戦後68年の今年、彼らは64~66歳ということになります。
この、団塊の世代の人たちは、今、すでに退職してしばらく時間が経っている状態ですが、彼らの時代は基本的には終身雇用制が定着していましたので、いわゆる働かないサラリーマンを含めて、その数の多さに紛れて何とか逃げ切った人たち、つまり、退職金もきちんともらって、社会保障制度の恩恵も受けている人たちであると私は考えています。
そして、昨今よく言われるのが、団塊の世代の人たちのお財布をねらった商売が、盛んに行われているということです。
もう今から20年近く前になりますが、1990年代半ばごろの話です。
当時は、バブルの崩壊で、航空業界も大きな痛手を受けていました。
ファーストやビジネスクラスにお客様が乗らなくなったのです。
それまでは、ファーストやビジネスクラスは、会社の出張に利用されていました。
ビジネスクラスという名前の由来も、出張用というところからきていますが、それまで会社の経費で上級クラスを利用させてもらっていた人たちが、バブル崩壊で会社が左前になり、経費がかけられなくなったので、エコノミーに乗れと言われるようになりました。こうして、ファーストやビジネスからお客様がいなくなったわけです。
私は、空港の現場にいましたから、そういう空気を肌で感じていましたが、同時に、そのころから、お金のある人たちが、自分のお金でビジネスクラスを利用し始めていることもわかりました。
生活に余裕がある人たちが、ビジネスクラスを利用して個人で海外旅行を始めていたのです。
たまたま営業部の先輩とお酒を飲んでいた時に、ビジネスクラスのお客様はどこにいるのだろうか、という話になって、私は、「お金を持っている層が日本にはいますから、旅行会社が販売するグループ旅行でもビジネスを選択できるようにしたらどうですか?」ということを伝えました。
それまでは旅行会社に申し込む団体旅行といえば必ずエコノミークラスと相場が決まっていたのですが、それをビジネスクラスで旅行できるツアーを作ったらどうかと進言したのです。
その先輩は、「そうか、それはいい。俺も賛成する。」と言って、「レジャービジネス」というカテゴリーを作り出しました。
当時、ちょうど、地中海の豪華客船の旅などという旅行が流行り始めた頃でしたので、この「レジャービジネス」(言葉としてはおかしいですが)は結構ヒットしたことを覚えています。
何しろ、それまで、団体旅行というと価格の競争になっていたのが、50万とか80万という価格の団体旅行が誕生したのですから、新しい需要を開拓することに成功したわけです。
それまでの航空会社の営業というのは、ファーストやビジネスクラスを売るためには海外出張が多い一流企業に営業に出かけていましたし、エコノミークラスの営業は団体で席を買ってくれる旅行会社が相手だったわけです。
つまり、旅行会社がビジネスクラスの団体旅行を企画するなんて、それまでの営業では考えられませんでしたが、そこをうまく開拓することができたわけです。
その営業部の先輩というのが、現スカイマーク会長の井手さんです。
私は、井手さんが開拓した新しい旅行マーケットを空港でじっくりと観察しました。
一体どういう人たちがそういう旅行に参加するのだろうかと見ていたのですが、わかったのは「熟年」と呼ばれる人たちが多いということで、当時、団塊の世代の人たちはまだ40代後半でしたから、当時の熟年は昭和一ケタと呼ばれる戦前派の人たちが中心でした。
団塊の世代の人たちは、「俺たちもリタイアしたらああいう旅行をしよう。」と自分たちの番が来ることを待っていたわけで、昭和一けたの人たちに自分たちの将来像を見ていたということになります。
それから15年ぐらいの時間を経て、団塊の世代の人たちも退職期を迎え、旅行需要がさらに伸びているというのが、日本で昨今言われている団塊の世代の人たちのマーケットということなのです。
(つづく)