団塊の世代の旅行需要 その2

団塊の世代の人たちの需要が、今の日本の旅行産業を支えていると言われています。
彼らは年金も社会保障制度も(すくなくともこれからの人たちよりは)充実していて、悠々自適のリタイア生活を送っていると思われているのがその所以です。
いすみ鉄道で、イタリアンランチクルーズ列車などという1万円以上もする高級商品を発売して、それが瞬間的に満席になるような状況を見て、取材に来た新聞社の人が、「やっぱり団塊の世代ねらいですか?」と私に聞いてきました。
その人は、私の口から、「今の時代、やっぱりお金を持っている(と言われている)団塊の世代の人をターゲットとするのは当然ですね。」という答えを期待していたようですし、そういう答えならば記事にもしやすいし、読者もうなずくと思っていたのでしょう。
でも、私の答えは、「NO」です。
JRが計画している超豪華列車の旅は、団塊の世代の人たちのようなお金を持った老人向けだとは思いますが、いすみ鉄道として私がやっている旅行商品は、団塊の世代の人たちやそれ以上の人たちに向けて情報を発信しているのではなく、ターゲットとしているものでもありません。
事実、イタリアンランチクルーズにお申込みいただくお客様を見ると、だいたい30代から40代のカップルや女性グループで、あとはお母さんと娘さんというような構成で、団塊の世代の人たちはほとんどいません。
その理由は、情報発信、告知から申し込み、決済まで自社のインターネットでやっていて、旅行会社では申し込みできないことが大きいのかもしれません。
テレビや雑誌で紹介されて、「じゃあ、いすみ鉄道に申し込もう。」と電話をかけると、「お電話では受け付けません。すべてインターネットで。」と言われるし、いざ、インターネットで調べてみるとすでに売り切れという状況ですから、中には再度電話をかけてきて、「次はいつなの?」と聞いてくる人もいます。
すると、対応に出たいすみ鉄道の職員の口からは、「次は多分10月ごろですね。」と言われ、「すべてホームページで発表します。」と取り付く島もない状況ですから、「何て不親切な会社なんだろう。」ということになります。
こういうお客様がだいたい60代後半から70代の人たちで、つまり、団塊の世代以上の人たちですから、商品告知、情報発信の段階で、すでに私が考えるお客様のターゲットには入っていないということなのです。
では、私がどうして団塊の世代以上の人たち、日本の中で一番お金を持っている人たちをターゲットとしていないのか、その理由をご説明いたしましょう。
・理由その1
とても手がかかるお客様です。
前述のように、旅行会社の窓口で職員のアドバイスを受けながら商品を申し込むような方々をターゲットにするには、いすみ鉄道の体制ではできないからです。
・理由その2
いろいろ経験をされていて、経験の蓄積があるお客様だからです。
イタリアン料理を召し上がれ、というと、ミラノではどうだとか、フィレンツェではこうだったとか、いちいちうるさい。
「あなたは知らないだろうから教えてあげるけど。」なんて始まるわけです。
私がヨーロッパの航空会社に長年勤務して、外国を知り尽くしているなんてことは、そういうお客様は知りませんから、料理がどうで、ワインがどうで、だいたいこの車両は何? こんな古い車両を使って・・・・とうんちくが始まるわけです。
私は、自分の経験で知っていますが、日本人はワインを価格で評価します。つまりブランド志向なわけですが、外国人はワインは味で評価しますから、いすみ鉄道の車内でサービスするワインも、「一番安くて一番おいしいワイン」なのですが、そういうことが理解できないのがこの世代の人たち。
なぜなら、バブルを引き起こした人たちだからです。
・理由その3
いずれ居なくなる人たちだからです。
団塊の世代の人たちは今60代後半です。ということは10年後には70代後半になります。
毎日国会でこれからの医療費の増加をどうやりくりするかという議論がされていますが、つまり、団塊の世代の人たちが、今から10年15年でこの国を食いつぶすわけで、そういう人たちの旅行マーケットは、今後、年々縮小していくのは明らかなわけです。
今、観光地を闊歩している前期高齢者の人たちは、やがて後期高齢者となり、自分の足で歩くことも、おいしい料理を食べることもできなくなるわけですから、今からその年齢層を開拓する必要はないわけです。
さてさて、私の考えはどうも団塊の世代の人たちにとっては分が悪いようで、「お前は俺たちをなんだと思っているのか。」などと自分の先輩たちからも言われそうですが、別に団塊の世代以上の人たちを批判しているわけではありません。
彼らは、今後もしばらくの間、旅行需要を支えていくことは間違いないと思いますし、そこに大きなマーケットが存在しているのは事実ではありますが、「ここには何もないがあります。」と掲げているいすみ鉄道では、おそらく彼らを満足させることができないだろうから、簡単に言えば、「うちのお客様にはならない方が良いですよ。」という私のメッセージなわけです。
で、私がローカル線のお客様の需要として開拓していこうと考えているのは40代以下の人たち。
その年代の人たちはバブルを知りませんから、変なうんちくを垂れることもなく、みんな素直で、ローカル線の楽しみ方を自分なりに見つけることができる人たちだからです。
そして、そういう人たちに、「本物」を知ってもらうことが、私の役目だと考えているからです。
伊勢えびも、アワビも、スパゲティーもカレーもとんかつ弁当も、いすみ鉄道に乗って景色を見ながら、揺られながら食べればおいしいわけで、そういう楽しみを素直に自分に受け入れることができる人たちは、どこへ行っても、何を食べても幸せになれる。
そういう生き方をいすみ鉄道で知っていただきたいと考えています。
かつて、地球の反対側へ行くことが目標だった団塊の世代の人たちには気づかないような「小さな幸せ」を見つけることができるのがローカル線の旅。
1万円ちょっとで、食堂車で高級食材を楽しめるのですから、東京からの交通費を考えても、おそらく日本で一番お手軽なレストランクルーズなんじゃないでしょうか。
さて皆様、イタリアンの次は、基本に戻って「船盛り」ですよ。
大原漁港の素晴らしい食材をドーンを盛った船盛り列車がこの秋の「伊勢海老特急」です。
この商品は現在企画の最終段階に入っています。
早ければ9月中にもスタートできそうです。
この船盛り「伊勢海老特急」は二人一組でのお申込みで、2人で2万円程度を予定しています。
もちろん、全てパッケージですから地酒などのアルコール飲料も込の値段で安心です。
準備でき次第ご案内させていただきますので、どうぞご期待ください。
たった10組の募集で、すべてインターネットでのご案内となりますので、インターネットがわからないと言っている間に満席になります。
あしからずご了承ください。
(おわり)