真ん中の座席

今日は居酒屋列車があるので、朝のうちにブログを書いています。
この間のお盆では皆さん帰省や観光に出かけられて、新幹線も空の便も満席状態でしたが、いつも思うのですが、そういう時にしか旅行ができない方々は高いお金を払って窮屈な思いをされているわけで、私のように「人が休んでいるときが書き入れ時」、つまり「旅行に行くとしたら安くて空いているシーズンオフ」という仕事を何十年もしている人間から見ると、とてもお気の毒に感じてしまいます。
お気の毒と言えば飛行機の座席もエコノミークラスでは相変わらず狭く、航空会社出身の私が言うのもなんですが、3人掛けの真ん中の座席がたくさん存在するのですから、航空会社というのはずいぶん罪作りな商売だと思います。
皆さんもそうだと思いますが、誰だって窓側か通路側に座りたいものです。
長距離国際線ともなればなおさらで、トイレに行きやすい通路側を好む人もいれば、寝るための自分のポジションを決めやすい窓側を好む人もいますが、真ん中の座席は一番敬遠されます。
つまり、顧客満足度が低いのが真ん中の座席です。
座席というのは航空会社の商品です。
その商品の3席に1席はお客様が不満に感じる商品であるわけで、航空会社というのは、顧客満足度の低い商品を、それと知りながら、わざわざ生産しているということなのです。
例えば、お弁当屋さんやパン屋さんにしても、商品を3個作って、そのうちの1個は不完全だけど「まあ、いいか。」という商売はしていません。
工業製品を製造する企業でもそうだと思います。
でも、航空会社は、商品である座席のうち、3席に1席はお客様が満足しない商品であると知りつつ販売している、そういう商売をしているのです。
昔、チェックインカウンターで座席を決めていた時代は、満席に近い飛行機で、チェックイン終了間際に「真ん中の座席しかありません。」と言うと、お客様は皆さん不満そうな顔をされました。
今はWebでチェックインできるとか、事前座席指定などという制度があって、航空券を買った時から希望する座席を指定できますが、当時は、通路側や窓側など、事前座席指定をしたければ、同じエコノミークラスでもある程度の金額を出してノーマルに近い航空券を買わなければならず、エアオンと呼ばれる格安航空券では座席のリクエストは聞いてもらえませんでした。
だから、空港で希望する座席がもらえないということは、自分で遅く来たのが悪いとか、事前座席指定できる航空券を買わなかったとか、それなりに不満の理由はお客様側にあるのですが、そうと知っていても文句を言いたくなるのが人情ですし、目の前にいるお客様がこれから12時間近く飛行機に乗られることを考えると、こちらとしても気の毒になったものです。
飛行機と言うのはスペースが命ですから、一人のお客様がどれだけのスペースを専有するかどうかで航空券の値段が違います。
エコノミークラスともなれば、座席のスペースや機内食などのサービスを要求しない代わりに「経済的」あるいは「金銭的」に有利にできているわけで、「エコノミークラス」はそれが語源ですから、座席が広いところに座りたければ、高いお金を出してビジネスクラスやファーストクラス乗ればよいわけです。
日本で航空旅行が一般化してきたのは、1970年代。ちょうど高度経済成長の時です。
その頃の日本人はフォークソングを口ずさんで育った「神田川世代」が多かったですから、自分の下宿を振り返って、3畳一間よりも4畳半、それよりも6畳間の方が家賃が高いというのを身を持って経験していましたから、飛行機が普及する中で、広い座席は高いということは感覚的に受け入れることができたのだと思いますが、同じエコノミークラスでも、3人掛けの真ん中の座席というのは、そういう座席があるということは知っていても、それが自分にあてはめられると憤懣やるかたない。
これを解消するために、20年ぐらい前に国内線の飛行機や新幹線の座席も真ん中の席が4~5cm広いものが登場しましたが、そういう座席が登場すること自体、航空会社もJRも何らかの罪の意識を感じているということでしょう。
新幹線だったら飛行機の座席と比べてシートピッチ(前後の座席間隔)が全然違うし、長距離国際線に比べたら乗っている時間は短いし、両隣や前後の座席のお客様が全員終点まで行くわけじゃないから、途中で座席を移動できる可能性もあり、まだ真ん中の座席は受け入れられるけど、飛行機の真ん中の座席だけは、到着までそのままですからどうしても納得できない。
これが、実際のところじゃないでしょうか。
それでも、航空会社は、今も最新鋭の飛行機に真ん中の座席という商品をせっせと生産して飛ばしているわけです。
だから、私は航空会社の商売と言うのは、罪作りだなあと思っているのです。
最近ではLCCなども飛ぶようになってきて、500円払えば事前座席指定できますとか、1500円払えば足元の広い座席に座れますと、予約やWebチェックインの時点でお客様が選択できるチャンスが与えられるようになりましたが、最近の傾向を見る限りでは、利用客の方もなかなかドライになってきているようで、「500円がもったいないからどこの座席でも文句は言わない。」という人たちが若い世代を中心に増えてきているようです。こういう方法はお客様に選択肢を与えているわけで、真ん中の座席に座ることと500円払うことを比べたお客様自身が、真ん中の座席を選ぶわけですから、航空会社に文句を言う筋合いではなくなります。今では当たり前のこのシステムも、20年ぐらい前までは追加料金を取る根拠がないということで、会社側は誰も言い出せない部分だったのです。
すでに古い人間の仲間入りをしている私などは、LCCに乗るときでも、「予約変更可・手荷物チェックイン・足元の広い座席指定・機内食注文」といろいろオプションを付けてしまいますので、結局、LCCがLCCじゃなくなってしまうという、航空会社にとっては上顧客になっているのです。
真ん中の座席というのも、売り方によっては今の時代は受け入れられる商品なんでしょうね。
おじさん世代よりも、若い人たちの方が、やっぱりスマートだと思う今日この頃です。