ベジ・ミール弁当 発売について その2

いすみ鉄道の始発駅である大原は漁港の町。
ただし、漁港といってもふつうの漁港ではなくて、伊勢海老の漁獲高が日本で1、2を争うほどの漁港で、アワビやサザエも豊富に獲れる特別な漁港だと私は思っています。
だから、4年ほど前にこの地元の素材を活かした伊勢海老弁当を発売しました。
発売当初は、「どうしていすみ鉄道が伊勢海老なんですか?」と皆さんから疑問の声が出ましたが、それは大原漁港、いや、千葉県が伊勢海老の名産地であるということをほとんどの人が知らなかったからです。
そんな時、地元はこの名産品をどうしようとしていたかというと、地元の特産品として売り出すためには、伊勢海老ではなくて「房州海老」と名前を変えてキャンペーンをしようということを言っていて、私はそんなことをしたらせっかくの伊勢海老の価値が半減してしまいますから、急いで伊勢海老弁当を売り出して、「房総半島イコール伊勢海老」ということを徹底しようと考えました。
私の思惑通り伊勢海老弁当が大人気となりましたので、2年前からは「伊勢海老特急」と銘打って、列車の中で伊勢海老、アワビ、サザエなどの高級魚介類を堪能できるレストラン列車を走らせていますが、このレストラン、1人13000円もする高級レストランにもかかわらず、なかなか予約が取れないプラチナチケットになっています。
レストラン列車を企画していたときに、価格設定をいくらにしようかということで、13000円という値段の設定をしたら、地元の人から、「え~?」という驚きとともに、「そんな高い値段でお客さんが来るわけないでしょう。」というようなことを口々に言われました。
そうなんです。地元の人は1万円以上のお金を払って伊勢海老など食べないんですね。
ところが、インターネットでしか予約が取れないという狭い間口にもかかわらず、レストラン列車は発売と同時に売り切れの状態が1年以上も続いているのです。
これは、マーケットがどこにあるかを把握していないとできないことなんですね。
それと同じように、今回発売する「ベジ・ミール弁当」は、肉も魚も使っていない野菜だけの弁当にもかかわらず、伊勢海老弁当よりも高額な1800円という価格設定ですから、地元の人が伊勢海老を1万円出して食べないように、キハをお目当てに来る鉄男君たちや、汽車旅派、駅弁派の皆様は、まず食べようと思わないであろう駅弁なんです。
だから、私は最初に英語のみでご紹介をしました。
つまり、伊勢海老特急が地元の人はお客様ではなくて、都会の人を相手にしているのと同じように、ベジ・ミール弁当は、鉄道ファンやローカル線を旅する皆さんなど、一般的な日本人が対象ではなくて、海外の人に向けて情報発信をしているということなのです。
昨日も書きましたが、日本人は好き嫌いなく、なんでもきれいに食べる子が良い子であるという教育をされてきていますが、外国の人は国によっては食べてはいけないものが厳しく制約されていたりして、そういう人は、日本に来て鉄道で旅行するときに、本当に困難に直面するわけです。
でも、日本人はそういうことを理解する人があまりいなくて、海外の人が安心して食べられる駅弁がない。
そんなことを考えていた時に、いすみ鉄道沿線をはじめとする千葉県には、伊勢海老の時と同じように、まだあまり知られていない素晴らしい地域の産物がたくさんあって、それを活かして世界に通用する料理を作る国際肌の料理人が大多喜駅から5分のところにいらっしゃる事に気付いて、私は、こんな素敵なことを、どうして発信せずにはいられようか、という気持ちになったのです。
そして、鉄男君たちにはトンカツ弁当やガッツリ系の食事で良いかもしれないけれど、いすみ鉄道にムーミンの世界を求めていらっしゃる女性の中には、環境問題に敏感で、今の日本の食文化に疑問を感じていらっしゃる方々もきっといらっしゃると思いますから、そういう女性ファンの皆様にも、千葉県の房総半島は、そういう食生活もできるところなんですよということも知っていただきたいと考えるのであります。
いすみ鉄道としては、毎週日曜日に限定4個のこのお弁当が、たとえ毎回完売したとしても、ビジネスとしてのうまみはありません。
でも、千葉県の持つ素材の素晴らしさと、それをここまで活かす立派な考えのシェフが大多喜にいらっしゃるということは、ぜひお伝えしなければならないことですから、私はこの駅弁をお知らせすることは、ローカル線の社長としての大切な仕事なのではないかと考えるのです。
いかがですか。
これが、いすみ鉄道が今回発売する「ベジ・ミール弁当」のコンセプトです。
日本人の方で、このようなお弁当のお客様になれるのは、おそらくごく少数の皆様方だと思います。
だから、どの鉄道会社もお弁当会社も、手間暇かけてこういうお弁当を作ろうなどと考えないと思いますが、私は、そういうところがチャンスだと思いますから、チャレンジしてみる価値はあるのだと確信しています。
くれぐれも申し上げておきますが、1個1800円もするお弁当ですから、趣旨をご理解いただかないと、せっかく購入されても、「何だこれ?」となるとこでしょう。
そこのところを、どうぞご理解ください。
ちなみに、掛け紙の方が間に合いませんので、3月1日の発売開始日は掛け紙はございませんので悪しからずご了承下さい。
「ここには何もないがあります。」のいすみ鉄道が作った、最高級で最高傑作のお弁当。
明日発売です。
限定4個。
でも、利幅がありませんから、売れ残ったら自分で買って私のお昼ご飯になります。(笑)
(おわり)