日本人の勘違い。

インバウンドの話ですが、つい先日、外国人観光客の来日数が3000万人を超えましたね。

 

今、全国の田舎の課題として、この押し寄せる外国人観光客をどうしたら自分たちのところに来てもらえるか。そのためには何が必要で、どのような情報をどうやって発信したらよいか。これが問われているわけです。

 

この3000万人という外国人観光客は、ここ数年の出来事で、わずか15年ぐらい前までは日本を訪れる外国人は年間500万人だったわけで、「ビジット・ジャパン」のキャンペーンでじわじわと数を増やしてきていたものの、2012年の段階で840万人だったわけです。それがこの5・6年で3倍以上になったわけですが、ではこの3000万人という数が多いか少ないかというと、決して多くはないんです。

 

それは何に比べて多くないかというと、日本人が国内観光をする数。

今の時点で日本人が1泊以上の国内観光をする数は年間2億人。つまり1人が年に2回国内観光をしている計算になりますから、それから比べると3000万人は決して多くないんですね。

 

では、それでもなぜ国がインバウンドを増やそうとしているのかということですが、実は現在約8兆円外国人観光客が日本にお金を落としているのですが、これが2030年に6000万人になると15兆円以上になるわけです。

これに対して現在日本人観光客がいくら年間に旅行費用を使っているかというと約20兆円。ところが2030年にいくら使うかというと、国の予想では22兆円なんです。

どうしてかと言えば、当然ですが人口が減っていくからで、人口分布で一つの塊になっている団塊の世代の人たちが今70歳になるのですが、10年後には80歳になるわけで、だんだん旅行人口が減っていくのですから、日本人に頼っていてはじり貧で伸びシロがないということは明らかで、これに対して外国人観光客の経済的伸びシロは倍あるわけですから、今、団塊の世代の人たちが活発に旅行してお金を消費している間に、次の手を打っておこうというのが、国が提唱するインバウンド政策の根幹にある理由なのです。

 

これは全くローカル線沿線の事情と同じで、沿線人口が減少する一途ですから地域需要では伸びシロがありません。どうがんばったってローカル線が地域輸送だけやっているのでは立ち行かないということは明白な事実でありますから、ではどうやって地域外からお客様にいらしていただくかということが求められるわけですが、田舎にはそういうことすらよく理解できないようなおじいさんが指導者になっていたりするのもこれまた現実ですから、一筋縄ではいかないわけです。

 

では、外国人はどこから来るかというと、まあ、この期に及んで外人イコール金髪の白人と思い込んでいるような田舎のおっさんたちは別として、今の日本では外国人と言えば当然アジア人なわけで、実際問題として日本にやってくる3000万人の内訳は、25パーセントが中国人。同じく25パーセントが韓国人。台湾人が15パーセントで香港が8%。タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムが合わせて約10パーセントと8割以上が東南アジアからの観光客であって、アメリカ人は5パーセント。ヨーロッパからのイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペインは5か国合わせて3.5パーセントしかいないわけですね。

これはJNTOの資料に出ている数字ですから、実際に日本に来ている外国人というのは金髪の白人ではないのです。

 

さて、では、そういう東南アジアの皆様方をお客様として迎え入れるにあたって、当然私たちは顧客心理というものを理解しなければなりません。つまり、何を求めて日本にやって来ているかということでありますが、ここが一番難しいところなんですね。

特に、田舎の人たちは外人なんてあまり見たことありませんし、自分だってあまり行ったこともありませんからなんだかわからないのですが、それでも、田舎の町としては何とか観光客に来ていただかなければならないという目標というか使命があります。

 

では、どうしたらよいかというと、ただ単に東南アジアをターゲットにするのではなくて、まずはどこか国を定めて、そこの地域の人たちにいらしていただくような戦略を立てて営業をすることが必要なわけです。

それが私がいすみ鉄道でやってきた台湾との姉妹鉄道締結で、台湾にターゲットを絞って、まずは友好的な台湾の人たちにいらしていただくことが一番良いだろうと考えたのです。

なぜなら、外人なんて見たこともないような地域の人たちですから、顧客満足度の高いサービスなどできるはずもありません。いろいろヘマも失敗もするでしょう。でも、日本に好意的な感情を抱いてくれている台湾の人たちであれば、多少の失敗は笑って許してくれるはずですから、田舎の人たちが外国人に接する練習台として、台湾はちょうどよいと思ったからです。

 

これは何もいすみ鉄道沿線地域だけの問題ではなくて、日本全国の田舎町がインバウンドのお客様にいらしてもらえるようになるためには、いきなりでは無理ですから、それなりの練習が必要です。そういう時には気心が知れていて、好意を持ってくれている人たちにいらしていただくのが一番ですから、台湾はもちろんですが、ベトナムであったりタイであったり、そういう地域の人たちにいらしていただくことが、練習としては良いのではないかと考えるのです。

 

さて、そういう状況を踏まえた上で田舎の街を歩いてみると、なんだかぎくしゃくしているのに気がつきます。

それは何かというと、できるだけ安い値段のものを提供しようとしているからのようです。

日本人は全国的に見て、外国人観光客には安いサービスを提供しなければならないと考えているのです。

 

例えばJRが外国人観光客向けに販売しているジャパンレールパス。新幹線や特急列車に乗り放題の国内JRパスですが、日本人が知ったら「えっ、そんなに安いの?」という金額で販売しています。でもって、私たち日本人は高い切符を買わされている。

JR北海道内だけの北海道フリーパスなんて日本人が金額聞いたら怒りますよ。「どうしてそんなに安い値段で販売するの。」という金額です。

同じように、いろいろなところで、外国人に対して提供されている商品やサービスがとても安いんです。

どうしてなんでしょうかね。

 

私、思うんですけど、日本人って根本的に東南アジアを下に見てるんじゃないでしょうか。

彼らは経済的に発展途上国で、物価も安いけど給料も安い。

だから日本に来るのは大変だろう。お金もないだろう。安いものしか買えないだろう。

そんな感覚を持っているのではないでしょうか。

その感覚に、いらしていただくためにはサービスしなければならないという義務感。

 

結論から申し上げて、それはほとんど間違いで、今時の東南アジアは物価はほとんど日本とは変わらないです。

昔は、まあ、昔と言っても15年ぐらい前までは、東南アジアに行けば何でも安くて日本に比べて割安感がありましたが、今はずいぶん物価が高くなっていますし、その理由は彼らの経済が上がってきたことはもちろんですが、日本円の価値が下がっている、円安というのもありますね。

 

一時期1ドル70円台になったことがありますが、今は110円台。ということは外国へ行くと70円だったものが110円になっているわけで、さらにその国の物価上昇で70円だったものが100円になっているとすれば、私たちが日本円換算すると、70円だったものが140円ぐらいになっていますから、東南アジアに出かけても昔に比べると割安感はありません。

逆に言えば、東南アジアの人たちは日本に来ても「高い」という感覚が薄れてきていますからどんどんいろんなものを買いたいし、お金を使う準備ができているわけです。でも、日本人の側で、外国人に対してお金を使わせようとしない。

こういうことが、現実として私の目の前で展開しているということが、日本全国の観光地を見ていて気がつきました。

 

日本人はバブル崩壊後、20年以上も経済が足踏みをしています。その間にアジアの近隣諸国の経済はじわじわと上がって来ていますから、彼らにとって今の日本は決して物価が高い国ではありません。だから、一生懸命自国で稼いだお金を日本に使いに来ている。にもかかわらず、日本人が彼らに対して安い価格で商品を販売しようとしていることは、インバウンドにいらしていただいて地域経済を盛り上げようという国の政策とはズレているということなのです。

 

だからといってボッタクリが許されるわけではありませんよ。

私が言いたいのは、東南アジアの人たちは、私たちが思っているほど貧しくはないということです。

まして、日本に頻繁に旅行に来る人たちは、私たちと同じ水準かあるいはそれ以上の生活をしているというのがすでに現実となっているのです。

 

 

先ほど予約した台北のホテルです。

1月18日のお値段です。

この写真は良い部屋のように見えますが、予約画面に進むとシングルベッド1つ、14平米の窓無しの部屋ですよ。

 

台北では1万円以下で泊まれるホテルがずいぶん少なくなりました。

日本の地方都市の方がはるかに安い状況です。

その理由は物価高ということもありますが、外国人には割増料金が適用されているということもあります。

つまり、インバウンドどからお金を稼ぐシステムができているということなのです。

 

東南アジアだからと言って彼らが日本で物価に苦しんでいるということはないのです。

商品としての旅行は、そういう所からスタートしないといけません。

 

5980円昼飯、お土産付のバスツアーなどは収入が足踏みしている日本人向けで、外人の場合は一人いくらお土産を買わせるか、買いたくなるようなお土産をどれだけ揃えるかが問われているのです。