おいしいローカル線

先日お邪魔させていただきました岐阜県の郡上(ぐじょう)市からお礼状が届きました。

長良川鉄道を支援している自治体です。

 

 

私はローカル線というのは、都会人にとっても、地域にとってもおいしい存在だと思っています。

 

都会人は非日常性を求めて旅をしますから意外にも田舎にあこがれている人たちが多く、そういう都会の人たちに田舎の良さを知ってもらうための最高に効果的なツールがローカル線だと思います。

ローカル線があればテレビが来るし、雑誌も来る。新聞も取り上げてくれる。

そうすれば情報発信しやすくなりますから、地域の産物や風景などを都会の人たちに知ってもらうためのツールとして見たら、ローカル線は地域にとって「おいしい使い方」ができるはずです。

都会の人たちは、日本全国の田舎にはおいしいものがたくさんあることを知っています。

だけど、どの田舎にどういうものがあって、どうしたら手に入れることができるか、味わうことができるかということを知りません。

だから、ローカル線が出てくる旅番組を見て、そこで紹介される地域の食材に興味を持てば、「行ってみよう。」「食べてみよう。」という気持ちになります。

そういう点でローカル線は「おいしいもののあるところ。」になります。

 

例えば、いすみ鉄道では「伊勢海老特急」というレストラン列車を走らせています。

千葉県の房総半島は伊勢海老の産地として、昔から大量の伊勢海老が港に揚がっていました。

千葉県の伊勢海老は何も昨日今日はじまったことではありませんが、地元では有名だけど、都会の人は千葉県が伊勢海老の名産地で、いすみ鉄道の始発駅である大原漁港が伊勢海老の漁獲高で日本一になることなど、全く知りません。

私は、都会人が求めるものがここにあるのに、あまりにももったいないと思いましたから、伊勢海老弁当を作って新宿の駅弁大会へ行き、伊勢海老特急を走らせてテレビや雑誌に何度も特集してもらうことで、わずか数年で、いすみ鉄道と言えば伊勢海老列車、ということが全国に知られるようになりました。そうすれば自動的にいすみ市イコール伊勢海老になり、千葉県イコール伊勢海老になりますよね。

伊勢海老だけじゃなくて、アワビやサザエも紹介し、ついでと言ってはなんですが、コメや野菜、肉まで一緒に紹介して、いすみ鉄道沿線にはおいしいものがたくさんあるということを、都会の人に知ってもらっているのです。

そうすれば、都会の人から見たら、いすみ鉄道は「おいしいローカル線」になるし、地元の人から見たら、お客様がたくさん来て、また、都会で地元の商品が売れるようになっておいしい思いができますから、やはりいすみ鉄道は「おいしいローカル線」になるのではないでしょうか。

 

そうやって、関わる人たち皆さんがおいしい思いができれば、「ローカル線があってよかったなあ。」となるはずで、そうすれば、ローカル線を廃止にしないで有効活用できるようになって、結果として大切な地域の足が守られて、過疎化や衰退にストップがかかるのではないか、とまあそんなことを考えているのであります。

 

▲長良川鉄道の観光列車。ほぼ満席の観光客です。

去年までは見られなかった光景が、今、繰り広げられています。

 

ただし、こういう光景を見ても顔をしかめる人たちがいるのも事実です。

 

「おい、満席と言ったって、何人乗ってるんだ。いくら運賃収入があるんだ。」

「これだけ乗ったって、結局は赤字だろう。」

 

そういうことを言う人たちです。

確かにそうです。

朝から晩まで全部の列車を満員にしたって、1両や2両の列車では、結局は赤字です。

鉄道会社は株式会社ですから、そういう観点から見れば、「そんな余計なことはやめた方が良い。」ということになってしまうのです。

 

いろいろ大人の事情はあります。

ローカル鉄道を取り巻く全国共通の大人の事情や、各地域ごとの事情など。

だけど、地域が求められていることは、赤字か黒字かではなくて、去年まで来てなかったお客様が、ローカル線においしいものを探しに来ているということなんです。そして、地域は、そういうお客様をどうやって取り込んでいって、お客様においしい思いをしていただいて、そのお客様からどうやっておいしい思いをさせていただくかということではないでしょうか。

 

私はいつも思うんですよ。

いすみ鉄道や長良川鉄道のような、旧国鉄の赤字ローカル線を引き継いだ第3セクター沿線というのは、国が「お前たちの地域には鉄道なんか要らないんだ。バスで十分だ。」と宣告した地域なんです。そういう地域で、「冗談じゃない。国がやらなければ自分たちでやるんだ。」と言って立ち上がったのが、第3セクター沿線の人たちなんです。

そして、30年近くも歯を食いしばって、ローカル線を守って来たんです。

本当だったら、とっくの昔に廃止されていた鉄道が、今でも走っているのは、そういう努力があったからです。

 

だったら、そういう地域の人たちが、今、自分たちが守り育ててきたそのローカル線から、おいしい思いをしてもおかしくないはずです。

地域が有名になる。

地域に人が来る。

産業が栄え、経済がよくなり、地域が潤う。

ローカル線がそのきっかけになることができれば、おいしい思いができるじゃないですか。

 

都会の人たちが、ローカル線でおいしい思いをできる。

田舎の人たちが、ローカル線でおいしい思いをできる。

そうすることで、ローカル線そのものが維持できれば、そこに働いている人たちにだって、おいしい思いができるはずです。

 

そういうシステムを作って、今、少しずつ動き出している気がします。

いすみ鉄道の事例を、全国の地域の皆様方が、参考にして、少しでも田舎が良くなれば、私がやっている「おいしいローカル線」は、日本のお国のお役にたつと考えております。