観光列車とは何か。

観光鉄道の定義は明確です。

 

ふつうの鉄道が「目的地へ行くために乗る」のに対して、観光鉄道は「乗ることそのものが目的」です。

ディズニーランドで汽車が走ってますが、あの汽車はどこへ行きますか?

一周回って戻ってくるだけで、どこへも行きません。

だけどたくさんの人が行列を作って乗ります。

どうして?

乗りたいから。面白そうだから。楽しそうだから。

理由は人それぞれでしょうが、どこにも行かないから交通機関ではないと言えば乱暴かもしれないけれど、すなわち目的地へ向かうために乗るのではなく、乗ることそのものが目的であるということです。

だから、あの汽車は観光鉄道なのです。

 

では、その観光鉄道に対して、観光列車という言葉があります。

昨今は、特別に改造されたり、新しく建造される豪華な車両が目白押しですが、観光列車というのは、どうもそういう豪華な列車のことを言うと思っている人も多いのではないでしょうか。

でも、私は違うと思います。

だって、豪華絢爛な列車が観光列車なら、いすみ鉄道のようなお金のない鉄道は太刀打ちできないじゃないですか。

お金がたくさんあって、規模が大きな会社が、その力に任せて豪華絢爛な列車を作るのは、それは一つのビジネスプランであって、その列車に乗れるようなお客様の層をあらかじめ設定して、そこでビジネスを行うことが一つのお金儲けの方法でありますから、それは、高級ホテルの一部屋何十万円もするお部屋に泊まって、贅の限りを尽くすことを求める人はそれで良いかもしれないけれど、そうじゃない人もいるわけで、ホテルで言ったら、ビジネスホテルもあれば、観光ホテルもあるわけで、それぞれのお客様の層があるように、観光列車だって、何も最上級ホテルの豪華な部屋に泊まる人たちの専用ではないはずなのです。

 

私は今、北海道にどうしたら観光列車を走らせることができるかという公の会議にメンバーとして参加させていただいております。

なんだか昨今、あまり勉強していない記者の方が、北海道でも豪華列車を走らせる計画がある。経営が厳しい時に何を考えているんだというような記事を書かれたような話を聞いていますが、それがどこの会議を指しているかは知らないけれど、少なくとも私が参加している会議では、北海道で豪華な列車を走らせるなんて話はしていません。

何しろ私が参加している会議ですから、ます予算ありきで、お金をかけて何かをするようなことはあり得ません。

私が委員に選ばれた理由は、いすみ鉄道は特別な予算もない中で、古い車両をそのまま使って、観光列車を運転して、それが大人気になっているからであって、考え方が根本から違うわけですから、私としてはその会議で、まあ、予算100万円ぐらいで観光列車が走らせられないか、などということを本気で考えて提案しているわけです。

 

観光鉄道が「乗ることそのものが目的の鉄道」であれば、観光列車というのは「わざわざ乗りに行きたくなるような列車」でありますから、昭和のオンボロのキハだって、日本では他ではまず乗れなくなりましたから、10年前ならともかく、今の時代は立派な観光列車であると私は考えているのです。

 

ホテルで言えば、ちょっと古いけど、昔よく泊まった庶民派ホテルとでも言いましょうか。

今でこそ5~6000円も出せば、地方都市でならチェーンホテルの快適な部屋に泊まれますが、昔は、ホテルとはいえ、個人経営の旅館がビルになったようなホテルが一般的で、今なら絶対に泊まらないようなホテルですが、当時は「やった~、ホテルだ!」といって、喜んで泊まっていました。

うちは子供が5人いますが、上の2人はすでに30を過ぎていて、その2人が小学校低学年だった頃、旅行に連れて行くと、部屋のベッドがうれしくて、ベッドの上でトランポリンのように飛び跳ねて天井に頭をぶつけていたのを思い出しますが、下の子の時代にはベッドが当たり前になっていましたから、旅行に行ってホテルに泊まってもベッドで喜んだりはしませんでした。

 

わずか30年ほどの間でも日本はこれだけ変わったわけですから、古い駅前ホテルの部屋が今となっては懐かしいのと同じように、オンボロの昭和のディーゼルカーのボックスシートでエンジンの振動に揺られるというのも、一つの観光列車として成り立つのではないかと私は考えているわけで、そういう所にいすみ鉄道が活躍できる隙間があると考えているのです。

 

まあ、一つ申し上げるとすれば、私は昨今の豪華列車をテレビや雑誌で紹介するときに決まって使われる「富裕層向け」という言葉が嫌いだということで、今の時代の主役は決してお金持ちではなくて、お金をかけなくったって自分たちで楽しい時間の過ごし方を見つけることができる人たちが主役であると考えていますから、「富裕層向け」と聞くと、ある種の嫌悪感を覚えるのです。

 

その富裕層の方々というのは、ある程度の年齢の方々で、人生を成功された方々でしょうけど、そういう方々にとっての旅行というものは、「できるだけ遠くへ行って、できるだけ高級なホテルに泊まって、できるだけ豪華なご飯を食べる」ことだったわけですが、今はもうそういう時代ではないと私は考えていますから、お金のない会社が、お金がないなりに、観光列車をやったとしても、全然恥ずかしくはありませんし、入れ物ではなくて内容で勝負したいと考えていますから、そういう点では北海道でも十分に観光列車を走らせることができると真剣に考えているのであります。