哀愁の夜汽車

夜汽車には旅情があります。

これは間違いありませんね。

では、その旅情は何かというと、「情」というのは人それぞれ違いますから決めつけるわけにはいきません。
でも、私は、何も感じないよりはいろいろな思いに耽った方が良いと思います。
特に若いうちはね。

で、若いうちに夢中になって体験して、経験して、思いを募らせておけば、大人になってからも懐かしく思い出すことができますから、人生が豊かになるのではないか。
皆様の人生を豊かにするお手伝いが鉄道会社にできるのであれば、これは世のため人のため、そして将来の鉄道のためになりますから、私はもう10年以上も前から、どこにも行かない夜行列車というのをやっているのであります。

さて、かく言う私ですが、大変恐縮ではありますが、夜汽車というのはあまり好きではありません。
その理由はなんとなく哀しいからです。

悲しいではなくて哀しいということになりますかね。

物心ついた時は私は房総西線の巌根にいました。
駅から10分ほど離れた高柳というところに住んでいたのですが、夜になると汽車の汽笛がよく聞こえる。

遠くでポ~ッと汽笛が聞こえると、母が「そろそろお父さん帰ってくるわよ。」と言う。
そしてしばらくすると、「ただいま」と父が玄関のドアを開ける。

スマホも携帯もポケベルもない時代ですからね。
うちには電話どころかテレビすらなかった。
裸電球の下でご飯を食べようと父の帰りを待っている。
そこへ帰ってくる父。
まぁ、家族の団欒なんですが、今思い出すと薄暗くて哀しい三丁目の夕日の世界です。

お休みの日にはお出かけをします。
巌根に住んでいると、ちょっとよそ行きのお出かけは千葉。
千葉駅が新しくなって、そこに駅ビルができたので、ときどき汽車に乗ってお出かけです。

でもって帰りは夕方。
日の短い時期だとあたりはすっかり日が暮れていて、列車に乗り込んで椅子に座ると、少し離れた向こうのホームには銚子方面の列車が止まっている。
駅のアナウンスは「四街道、八日市場方面」と言ってるんです。

今のような明るい照明の時代ではありません。
茶色い薄汚れた客車。
白熱灯の車内。
先頭の機関車は真っ黒い煙を吐いていて、石炭の焚口を開けるたびに、運転室内がボワ~ッとオレンジ色に照らされる。

「よつかいどう」って、子供心にいい音に聞こえません。
「ようかいちば」
「ようか・いちば」なんですけど、子供の耳には「ようかい・ちば」に聞こえる。
なんだか薄気味悪い列車に乗っていくと「妖怪千葉」に連れて行かれるんだ。

3~4歳のガキの目にはそう映って、耳にはそう聞こえるのです。

ずっと後になって、「旅に出るなら夜の飛行機がセクシー」なんて歌が流行って、うちのカミさんなんかは、「夜の飛行機が良いわあ」なんてよく言ってましたが、私にとってはどうも夜は良くない。
哀しいのであります。

「暗くなる前にお家へ帰りなさい。」と言われたのは誰も同じだと思いますし、別に怖い思いをしたわけでもありません。
お化けがキライというわけでもなく、どちらかと言うとお化けには会ってみたい方。
でも、なんとなく、夜、外にいるのは哀しくて、夜はできるだけ早くお家へ帰って、お部屋の中にいるというのが大人になってからの私の人生。

だから、あまり飲みにも行きませんし、旅先でも夜繰り出すということはしないのです。

別に一人でいるのはイヤじゃないし、高田でのチョンガ―生活は実に快適ではありますが、夜、暗くなって外にいるのがあまり好きではないのです。

そんな私が昨日は磐越西線の最終列車の人となりました。
駅名表がまるで「X攻撃」のような新津を20時半に出る4両編成。
新型車両でした。

最初はそこそこ乗っていたんですが、わずか数駅でガラガラになりました。
何度も乗った路線ではありますが、夜ですから、窓の外は何も見えません。

あらかじめ仕込んであった夜汽車のアテ。
付き合ってくれていた向かい側のお兄さんもいつの間にか下車してしまい、車内は私一人だけになりました。

ただでさえ夜は寂しいというのに、山の中を走る列車に私一人だけですからね。
こうなってくると、いろいろなことが頭をよぎるわけでして、思考回路としてはだんだんと落ち込んでいくのです。

旅は道連れと言いますけど、知らない人と居るよりは一人の方が良いですけど、まぁ、今の時代ですからチャットという手もあるんですけどね。

時間にしてちょうど2時間半ぐらいでしょうか。
終点の会津若松駅に到着しました。

下車したのは私も含めて4人。
私は一番後ろでしたが、先頭車から3人降りてきた。
なんだ、他にも乗ってたのか。
と、貸切じゃなかったことをちょっと残念に思いましたが、落ち込んだ気持ちにさらに拍車をかけたのが雨。

列車を降りたとたんに乾いた道路や線路に雨が降り始めた時の、あの匂いがプ~ンとしてきまして、「どうする? 傘ないぞ。」

ホテルまで雨の中をとぼとぼと歩いたので気持ちはさらに落ち込んで、「おれ、夜中にここで何をやってるんだろう」的な感じになったのであります。

何しろ、お家を出てから昨日で6泊目でしたからね。

一旦夕方お家へ戻ったものの、またすぐに出かけて6泊目。

いい年こいて何やってるんだろう的にもなりますわね。

友達はみな、そろそろ悠々自適ですからねえ。

ということで、夜汽車に乗るとこうなる私ではありますが、そんな私が皆様へお届けするのがえちごトキめき鉄道の夜行列車。

この8月は毎週土曜に運転いたしますよ。
夜行列車をやると455のテーブルを外します。
そして夜行崩れで始発列車になりますから、つまりは翌日曜日は指定席無しの全車自由席急行になります。
なかなか乗り出がありますよ。

私は、大人になってからは夜お家に居るおとなしい人間になりましたが、若いころは夜遊び大好きで、夜行列車もバンバン乗っていましたから、皆様方もそういう経験をしっかりしておくと、きっと大人らしい大人になれますよ、ということで、この夏も、夜行列車、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、本日の一曲は「旅に出るなら夜の飛行機」セクシー、どうぞ▼
石川セリ ライブ SEXY

ちなみにX攻撃はコレ
検索したら出てきた。
お爺さんじゃないとわからなかったね。
ごめん