地方の町の見分け方

「社長さん、今貰っている報酬の倍額をお出ししますからうちに来ませんか?」

このあいだ、ある地方都市の実力者の方とお話をしていたところ、猪突にこう言われました。

ずいぶんストレートなものの言い方をする人だな。
でも、こういう話は嫌いではない。
なぜなら私は外資系育ちだから。
自分の給料をネゴするとか、自分の価値をできるだけ高く売るなんてことは当たり前の話で、かつて私が会社をいくつか変わったのも全くそうだったから。

上から目線で「お前は給料分の働きをしていないから10%自主返納しろ」的なことを言われると、「じゃあ、その分他で稼がせていただきますよ。」というのが私のポリシー。

「で、条件は何ですか?」
私がそういうと、その田舎の町の偉い人は、
「5年間で鉄道の利用者を10%増やしてください。それが求める数字です。」

私はニヤリとしました。
だって、簡単なことですから。
その町を走る路線は私もよく知っていて、まだほとんど何も手を付けていないから、3年あれば10%は行けるでしょう。
そうしたら、さらにインセンティブだな。(爆)

でも、私は
「まぁ、そう焦らずに、今後、いろいろとかかわりを持たせていただければいいんじゃないですか?」
とお答えしました。

ふつうだったら悪い条件でもないし、私が新潟県に縁もゆかりもない人間だということもお調べのようでしたから、二つ返事でOKすると思われたんでしょう。

でも、お受けしませんでした。

では、私がお仕事をお引き受けする条件というのはいったい何でしょうか?

新潟はお酒も食べ物もおいしいし、美人が多いから?

まぁ、それは事実ではありますが、そんな事ではありません。

私がお仕事を引き受けるかどうかを決めるのは、その地域に可能性があるかどうかということを見極めてからです。

3セク鉄道を13年もやっていると、いろいろなところへ出かけます。
その出かけた先で私が見させていただくのは「可能性」です。

では、その可能性とは何か。

例えばですね、ローカル鉄道を預かっていると、いろいろな人がいろいろなことを言ってくる。

「社長、私はこういうアイデアがあるんですが、いかがでしょうか?」
とか、
「こういうことをやったらお客さんが増えると思うんだけど、どうかな?」
とか。

箸にも棒にもかからない企画は別として、私は一応一生懸命お話を聞きます。

そして、中には良いアイデアやプランがあると、

「それは良いですね。で、どなたがおやりになるんですか?」

私はそう聞きます。

そんな時、だいたい3人のうち2人はちょっと顔色が変わります。

「誰がやる? お前がやるに決まってるだろう!」

こういう感じです。

私のところに話に来る人はたいていその町の偉い人。
いわゆる実力者の方々ですが、「俺が言ったことを、お前がやるんだよ。」的なんですね。
3人のうち2人ぐらいが。

正直に申し上げて、そういうところはダメです。
ローカル鉄道の立て直しなどできませんね。
地域おこしだってうまく行ってないと思いますよ。

なぜなら、当事者意識がなさすぎるから。

「お前は税金を使ってるんだから、俺の意見を無視するな。」
っていう田舎のお爺さんとか、3人に2人の確立で存在します。

そう考えると、私は日本全国のローカル鉄道を抱える地域のうち、よくて2つに1つしか残れないのではないかと思ってしまいます。

その点では、私に面と向かって報酬を倍にするから来てくれないかと言った田舎の町の実力者の方は、私のことをよく調べていらしていたし、当事者意識があるんでしょうね。
だから、可能性がある場所だと思います。

では、その可能性は何かというと、「その土地が耕されているかどうか。」です。

私はよそ者の助っ人として地方創生や地域活性化のタネをまくのが仕事だと思っています。
まず最初にやることがタネをまくこと。
そして、芽が出たら大きく育てて、できた作物を地域の皆さんでいただく。
これが仕事だと思っていますし、今までもそうしてきました。

そういう時に見極めが必要なのが、その地域が耕されているかどうか。
これが「可能性」です。

耕されている土地であれば、タネをまけばすぐに芽が出て、みんなで育てれば大きな収穫が得られます。
ところが、永久凍土のような土地であれば、まず耕すところから始めなければなりません。
でも、それは私の仕事ではありませんし、そういう無駄な時間を使うのであれば、他へ行って仕事をした方がはるかに効率的だしやりがいにもなる。

お前が耕して、お前がタネをまいて、お前が水と肥料をやって、お前が収穫するんだ。

第3セクターなんて行政の下請けぐらいにしか見ていなくて、公募社長なんて「お願いしますと頭下げて応募してきたんだろう。」って程度に考えている。
そういう地域ってあるんですよ。

だから私は、そういう地域では自分の時間を使いたくありません。
人生の無駄遣いですから。

ということで、おとといお邪魔した群馬県の安中町ですが、ここはおもしろい所ですよ。
市役所と商工会と地域住民が一体となって、信越本線の廃線跡を盛り上げようと何年も活動していて、それが形になってきているのですから。
県に対して「何とかしてくれ!」なんて言ってない。
自分たちで率先してやってるんです。

当事者意識をお持ちだということを確認させていただきました。

「お前がやるんだよ。」
ではなくて
「一緒にやりましょう。」
ですよ。

私はそういうところで、残りの人生の時間を使おうと思っています。

本日書いたYAHOOニュースです。

https://news.yahoo.co.jp/byline/torizukaakira/20221205-00327010

でも、報酬倍額の話は悪くはないので、今度、久しぶりに乗りに行ってみようかな。
耕されている土地かどうか、一度見に行こうと思っています。(笑)