YAHOOニュース 鉄道版「安全のしおり」

今日は私が監修したYAHOOニュースが発表になりました。

鉄道版「安全のしおり」ーー”もしものとき”私たちができることは

昔の話をするのは恐縮ですが、私が子供の頃は「電車の一番前は危ないよ。」とよく言われました。
私は電車に乗るときはいつも一番前。それも運転士さんのすぐ後ろに陣取って前方の景色を見るのが大好きで、それが高じて今でも「前面展望」なるDVDを作っているのですが、そういう私を見て、親戚のおじさんやおばさんたちは皆さん、「一番前は危ないよ。」というのです。

それだけではありません。
「ドアのそばに立ってちゃだめだよ。」とも言われましたし、「連結のところにも入っちゃだめだよ。」など、面白そうなところは全部ダメダメでした。

どうしてかわかりますか?

一番前というのは電車が衝突した時や脱線した時に一番被害を受けるところです。
ドアのそばというのは、いつドアが開くかわかりませんし、あるいはドアが外れるかもしれません。

連結器のところというのは幌がたいていの場合ボロボロで、いつ落ちるかわからないからです。

電車が正面衝突したり脱線したり、走行中の満員電車のドアがお客様の圧力で外れたり、電車が揺れた瞬間に幌に寄りかかっていた人が転落したり、そうやってたくさんの人が亡くなっていたという過去の歴史があるのですが、そういう事故はたいてい昭和20年代から30年代に発生していて、私が子供だった昭和40年代は、日本人はまだまだそういう生々しい記憶があったことと、当時の大人の人たちは皆さん戦争経験者がほとんどでしたから、どこに命の危険があるかということにたいへん敏感だったからです。

ホテルの部屋に入ったらまずは非常口を確認すること。
いざとなったらどうやって逃げるか、2つ以上のルートを確認しておくこと。
最近ではそんなこともあまり言わなくなりましたね。

でも、昔はホテルが燃えたり旅館が燃えたり、あるいはデパートが燃えたりといった大惨事が数年に一度の割合で発生していましたから、家でも学校でも大人たちは子供に向かって、どこに危険があって、どうしたら避けられるか、ということをいつも説いていたのです。

ところが最近ではどうも自分の命は自分で守るという基本的なことがおろそかになっているような気がします。
歩きスマホでホームから転落するなんてことは、自分で自分の命を守るという原則があれば防げることなんですが、どうもそうじゃない。

そんなことを考えていたら、ここへきて電車の中で火をつけたり刃物を振り回したりする事件が続いて、どうやって逃げたらよいのでしょうか? という話題がもちきりになっています。

日本の鉄道の安全基準というのは、電車がぶつかったり脱線したりしてお客様の命が脅かされるようなことがないようにということが第一で、そのために安全、正確に目的地へ行く各種対策を考えてきた歴史があります。あるいはホームから転落しないようにホームドアを作る。こういうことに主眼が置かれてきていますから、基本的なお約束として、お客様が善人であるということが前提条件になっています。

これに対して航空輸送というのは「お客様は善人である」という前提に立っていませんから、「この人はもしかしたら飛行機に危害を加えるかもしれない。」という見方をしています。

「俺を誰だと思ってるんだ!」と怒ってみても、「カバンの中身をチェックするなんてプライバシーの侵害だ。」とクレームしても、そんなことは聞いてもらえません。

また、いつ何時緊急着陸するかわかりませんし、その時は緊急脱出をしなければなりませんから、常に備えておかなければなりません。

日本人はあまりそういう生々しいお話が苦手な国民のようですが、実際問題として常に逃げる算段を考えておくように、あるいは急な揺れで座席から投げ出されないように備えておくようにと、飛行機に乗るたびに言われます。

多分、この違いなんです。
この違いが鉄道と飛行機の大きな違いなんですが、お客様イコール善人であるという前提が崩れるとしたら、鉄道だって安全に関しての考え方を変えなければならないのです。

今回、YAHOOから相談を受けまして、監修をさせていただきましたが、私としてはかなりソフトに解説して仕上げてもらったつもりです。

実際にはもっともっと厳しいお話しなのですが、前述の通り、日本人は生々しいお話を忌み嫌う傾向にありますので、YAHOOさんとしても、とりあえず差しさわりのないお話しにまとめていただいております。

11月1日に書いたYAHOOニュースはこちらです。
よろしければ合わせてお読みください。

見えて来た鉄道の安全対策の課題