観光列車経済論

ふつうの列車は「目的地へ行くために乗る」ものです。

これに対して観光列車というのは「乗ることそのものが目的です。」

ということは、その地域が目的地でも何でもない人たちでも、乗ってみたいと思えるような列車を走らせれば、皆さんやって来ると私は思います。

今の時代は、地方がやらなければならないことは3つです。

1:自分たちの地域を都会の人たちに(海外の人たちに)どうやって知ってもらうか。

2:知ってもらった人たちにどうやって実際にいらしていただくか。

3:いらしていただいた人たちに、どうやって地域でお金を使っていただくか。

この3つがとりあえず地域がやらなければならないことです。

ふた昔前でしたら工業団地を造成して、企業を誘致してなんてことが言われていましたが、そういう方法は時間もお金もかかる割には即効性が期待できませんし、もうそういう時代ではないことは誰の目にも明らかです。

田舎の町は、自分たちの存在を知ってもらって、来てもらって、お金を使ってもらうことが、地域の衰退を少しでも食い止めるための即効性がある方法だと私は考えます。

知ってもらって、来てもらって、お金を使ってもらう。
こういうことがきちんとできるようになって初めて次のステップに進むことができるのですが、その次のステップというのは「移住」であったり「テレワーク」であったり「地域への投資」であったり、そういうことになるのですが、1~3のステップができもしないのに、やれ移住だ、やれテレワークだ、地域への投資を呼び込むのだと言っている人たちって結構いるわけで、私は、掛け声ばかりは素晴らしいですけど絶対に無理だと思います。

例えば個人商店もそうですが、廃れているお店、ほこりをかぶっている商品が並んでいるお店には誰も来ませんよね。それと同じように廃れている地域や駅前商店街に人を歩かせようったって無理なんです。

じゃあ、どうするか。

やっぱりまず最初にならなければならないのは「自分たちの地域を知ってもらうこと」ですよね。

例えばの2つ目。
私が住んでいる上越市は新潟市、長岡市に次ぐ新潟県で3番目の町です。
地元の人たちは多分そういうプライドもあると思います。
でも、私の友人に「上越市に住んでいるんだ。」というと皆さん必ず「じゃあ、上越新幹線に乗れば行くんだね。」と言います。

上越市の人は笑うかもしれませんが、東京から見たらそう見えるのです。
だから本当は上越市なんて名前を付けちゃいけなかったんです。
だって上越線の方が先にできていたんですから。
中越市も下越市もないわけだし。
でも、多分ですが、上越市の上は上中下の上ですから、県庁所在地の新潟市よりも俺たちの方が上方に近いんだというような気持があったんでしょうね。だから町村合併の時に上越市って名前を付けたのではないでしょうか。
でも、その時にはすでに上越線が走っていて、上越線というのは、戦前から小学校の教科書に載っていたんですよ。列車が山を越えるためにループ線でぐるっと回るとか、トンネルを抜けると雪国だったとか。

上越線というのは、上州と越後を結ぶ路線であって上越市には130年も前から信越線が走っていたにもかかわらず上越市って名前を付けちゃって、今じゃあ北陸新幹線になったのですが、そんなことは都会の人にはまったく関係のないことなんですから、つまりは上越市を前面に出してそれを宣伝することはとても難しいのです。

つまり、「上越にいらしてください。」と言ったら、都会の皆さんはみんな越後湯沢や長岡や新潟市へ行ってしまうのでありますから。

でも多分地元の皆さんはそういうことには気がついていないから、上越市って前面に出してしまうんだろうなあ。

ふつうならそう思うでしょう。
でもね、ここ上越はとても面白いところで、皆さん上越という言葉はほとんど使わないんです。
自分たちは上越市民で、上越を宣伝するのにぜひ上越へいらしてください、などということは一言も言わない。
じゃあなんていうかというと、「高田」「直江津」っていうんです。
合併してから半世紀も経っているのに、皆さん今でも「高田」とか「直江津」って言っている。

私はそこのところがとても面白いと思うんです。

だったら、高田と直江津の両方をいっぺんに宣伝しちゃいましょうよ。
だって、両方とも全国区の駅名なんですから。
上越市を知らない人でも高田や直江津だったら知っているわけで、その両方を走っているのがえちごトキめき鉄道なんだから、鉄道を上手に使って自分たちが住んでいる地域を全国の皆様方に知っていただくことは、比較的簡単にできるのではないでしょうか。

でもって、高田や直江津にえちごトキめき鉄道が走っていて、そこの町には自分としては縁もゆかりもないし、行くような用事はないけれど、わざわざ乗ってみたくなるような列車が走っていて、そういう列車をテレビや雑誌で見かけて、「おっ、いいねえ。乗りに行こう。」とか「写真に撮りたい」とか思っていただいて、「で、どこなの?」って気になって調べてみたらえちごトキめき鉄道で、北陸新幹線に乗れば日帰りも可能な地域だとなれば、高田や直江津に用がない人たちでもやって来るのではないでしょうかね。

で、知ってもらって、来てもらえれば、あとは地域の皆様でそういうお客様をおもてなしをして、お世話をして、お金を使ってもらう工夫をすれば、最初に話をした1~3が観光列車というものを使えば、比較的簡単に、地域の誰にでもできるのではないでしょうか。

まして、観光列車というのは景色の中を走るわけですから、春に乗りに来たら夏にも来たくなるし秋だって冬だって来るでしょう。
スキーのお客様は夏には来ませんから、夏にお客様を呼びたいと思ったら別のマーケットを探さなければなりません。
夏の海にくるお客様は冬にはいらっしゃいませんから、やっぱり別のマーケットを探さなければなりません。
でも、観光列車のお客さまというのは同じお客様が季節を問わずにやって来るという特徴がありますから、それぞれの季節を走る観光列車に同じ方々が乗りに来るというリピーター志向があるわけですが、じゃあ、一人の人が年に何度も同じ場所へやって来るとどういうことが起きるかというと、その人の心の中で「マイブーム」になるわけです。

高田や直江津がマイブームになって、トキ鉄がマイブームになるとどうなるか。

その人は沿線LOVEになって行って、東京の町中のスーパーで「新潟県産」のお米やお酒や野菜や魚を見たら、「おっ」と思って思わず手が伸びるでしょう。

そうすることで3番目の「いらしていただいた方に、どうやってお金を使ってもらうか。」ということが、旅行を終えて家に帰っても続くのですから、要は地域の皆さんは地元の鉄道を上手に使った方が良いですよというのが私の観光列車経済論なのであります。

こんな電車がトキ鉄で走っているということを知ったら、多分全国で人口の1パーセントぐらいの人たちは「おっ、いいねえ。」と思ってくれると思いますよ。

でも、人口の1パーセントって百万人以上ですから、とりあえずそういう人たちをターゲットにするのがよろしいのではないでしょうか。