「ムーンライトながら」廃止に思うこと

ムーンライトながらが廃止になるということで残念な気持ちです。

大垣夜行の153系時代からさんざん乗りましたが、今では正直申し上げて選択肢に入りません。
その理由は体力の衰えと時間の無さ。決してお金に余裕があるわけではありませんが、それよりも体力と時間を優先して「乗ろう」という選択肢がなくなっていました。

でも、若い世代の人たちにとっては、「時間はあるけどお金はない。」というのはもちろんですが、やはりじっくりと自分に向き合うという点でも夜行列車の車内で一晩過ごすというのは大切なことだと思います。

まぁ、一晩車内で自分と向き合うという点では夜行バスだって同じかもしれませんが、鉄道会社的には若い人が夜行列車で旅をするという経験を積んでもらうことで、将来にわたっても鉄道を選択肢に入れてもらうことが可能になると考えてるべきだと私は思います。
逆に言うと、そういう人材育成をきちんとやって行かなければ将来鉄道を選択してくれるお客様がいなくなるという危機感があるわけで、トキめき鉄道で夜行列車をやるというのも、そういう啓蒙的背景があるのです。

小さいころから電車に乗って旅行をしていれば大人になっても旅行をするときに何も考えずに鉄道を選択するし、子供のころそういう経験をさせていなければ、大人になって鉄道で旅行をするという選択肢がなくなります。

こうして断定的発言をすると反感を持つ方もいらっしゃると思いますが、うちには5人の子供がいて、すべて成人しておりますが、上の2人は小さいときから電車に乗せてあちらこちらを旅行してきました。
3番目ぐらいからは私も忙しくなってきましたので家族旅行は車か飛行機というスタイルになって、下の2人はそれが当たり前になってしまいました。

一番下の子は大学3年生ですが、子供のころから野球をやってきましたのでほぼ家族旅行の経験は無し。大学生の今では基本的に新幹線でどこかへ出かけるという選択肢はなく、ふつうにLCCを予約して旅をしていますし、4番目の娘はあちらこちらへコンサートに出かけるときにはやはりLCCの飛行機か高速バス。それも平気で夜行バスに乗っています。
一度、「新幹線の方が速いし便利だよ。」と言ったら返ってきた答えは「新幹線は高い!」そして「どうやってネットで取ったらよいかわからない。」ということでした。コンサートのチケットと一緒にスマホで予約してコンビニ払いが当たり前の世代ですからね。

でも、一番上の息子は昨年九州への出張も新幹線。
この間大阪へも当然新幹線で行きました。

「何で飛行機じゃないの?」と聞いたら、
「飛行機は座席が狭いし。」と言うのです。

彼は高校生の時からふつうに国際線の飛行機に一人で乗って旅をしてきた人間ですから、「飛行機の乗り方がわからない。」とか「不安だ」とかいうのではなくて、第一選択肢が鉄道だということですが、すでにおじさんの域に入っている長男や次男は鉄道派。下の子たちは高速バスやLCC飛行機派というのは、ひとえに親の教育が悪かったのだと反省している次第です。

こうして、鉄道というものが最近では若者たちの選択肢からは確実に外れてきているということは、10年後、20年後、そういう若者たちが鉄道で旅行するとは思えませんから、鉄道はある程度の年齢の人たち向けということになりますが、それは時代の流れでどんどん高齢化していく年齢層ですから、いずれ第一選択肢として鉄道を選んでくれる人たちがいなくなるということ。つまり斜陽産業なのです。

そして、そういう斜陽産業化をすることを防ぐためにはできるだけ若者たちに鉄道に乗ってもらう仕組みを作る必要があって、その意味では夜行列車や長距離鈍行列車というのは必需品だと私は考えます。

でも、今後鉄道が斜陽産業化していくということは、今の20代の人たちが40代50代になる段階で顕著に表れてくるという、20年、30年かかって斜陽化していくわけですから、鉄道会社側としてはまず理解することが不可能ですし、そういう傾向があるということを理解したとしても、株式会社の単年度決算の中で経営改善を求められれば、「夜行列車などやめてしまいましょう。」ということがすなわち経営改善であり、株主様への貢献と考えているから、「ムーンライトながら」は廃止になるのです。

昔、宮崎俊三さんがその著書の中で、「各駅停車というのは一番お得な列車です。なぜなら安い切符で長く乗ってられるからです。」と述べられていましたが、お客様全員が一目散に目的地へ向かうという必要があるとは思えません。中には時間がかかってもよいから安く行きたいという人もいるでしょう。たとえ安い客でもそういう人たちをきちんと取り込んでいくのが将来に続く商売だと私は思いますが、東武や東急、阪急といった創業者以来きちんとした企業理念を受け継いでいる企業と違って、もともと公務員が集まって始めたような会社ですから、そういうことすらわからずに30数年という時間だけが経過してしまって、形だけは大企業になってしまった結果が表れているのが「ムーンライトながら」の廃止なのであります。

国交大臣もおっしゃっていましたが、そろそろ国鉄改革を見直す時期に来ているのは確かかもしれません。

過ぎ去った日々は、今はただ夢の中ですが、そういう夢を追い求める人たちがいる間は、とりあえず新幹線に乗る人はいるかもしれませんが。