鉄道で夢を見る。

11月30日に運転した室蘭本線(苫小牧-岩見沢)の観光列車は私にとっては夢を見ているような1日でした。

往路と復路のそれぞれのお客様をお乗せして朝から晩まで走ったのですが、あっという間に終わってしまったような気がします。

まるで夢見心地だったのですが、ではその夢はいつから見ていたのかというと、実はもうかれこれ45年も前から見ていたことを私は知っています。

1975年の春休み、中学2年生から3年生になる時の春休みでした。
私は室蘭本線にやって来て、ここで列車に乗り、ここで列車を降り、ここを歩いたのです。

追分駅。線路の向こうに広がる空き地には機関区と呼ばれる機関車の車庫がありました。

私が乗ったD51が引く列車はちょうどこの辺りに停車しました。
列車は追分駅で約10分間停車します。

機関車の前でシャッターを押してもらったのがこの写真。14歳の私です。

改札口を出て線路の右側に小さな道がありましたので、私はテクテクと歩いて機関区へ向かいました。
向こうに5~6階建てのマンションが建っているのが見えますが、その辺りに機関区へ渡る構内踏切がありましたので、そこを目指して歩いていると背後で「ボーッ」と汽笛が鳴って、今降りた列車が発車して行きました。


それがこの写真です。

構内を照らす照明塔が見えますが、今の写真と位置関係が確認できると思います。

列車を見送った私は構内踏切を渡って機関区の建物に入りました。
申込書に住所と名前を書くと「気を付けなさい。」と言われただけで中に入れてくれました。
機関区の事務所を出て建物の裏に回ると出区線があって、これから仕事に出るD51が何両も一列に並んでいました。


ナメクジを先頭に出区線に並ぶD51です。

この奥に扇形庫がありました。

木造の機関庫で煙が立ち込めていました。
ナンバープレートをキラリと光らせているD51が写っています。
よく見るとD51320です。
そう、今、追分駅近くにある道の駅「D51ステーション」に展示されている機関車が写っていたのです。

構内を歩き回っていると、苫小牧方向に少し離れたところに1両停まっていました。


D51465です。

運転台に上がって石炭を一掴みいただきました。
今でも我が家に家宝として残っている石炭です。

このあいだ、追分駅を訪ねた時に駅前に動輪が置いてあるのに気付きました。


よく見るとD51465のプレートが付いています。

そう、45年前に運転席に上って石炭をいただいたあの時の機関車です。

追分の機関庫は私が訪ねた1年後に火災で燃えてしまいました。
中に保存されていた数両のD51はこの時に燃え朽ちてしまいましたが、D51465もその1両。かろうじて原形をとどめていた動輪だけが駅前にこうして残されています。

そのD51465ですが、追分を後に帰路についた私は沼ノ端で千歳線の列車に乗り換えました。
その時、貨物列車を引いて爆煙をまき散らしながら現われたのがD51465でした。

その時の写真がこれです。
跨線橋の壁にも煙がたくさんこびりついていますね。
毎日毎日機関車が下を通るのですから、跨線橋も真っ黒になります。

先日、今回の観光列車の打ち合わせに向かう時、沼ノ端で列車を乗り換えました。
乗り換えの時間が30分ほどありましたので駅を出て確かこの辺りだろうと記憶をたどって足を運んでみました。


写真を撮った場所は今は駅前の自転車置き場になっていますが、私にとってはその自転車置き場が大切な思い出の場所なのです。
何しろ45年近く前にここにきているのですから。
そして、今回は45年ぶりに同じ場所に立ったのです。

つまり、今回企画した室蘭本線の観光列車というのは、私にとっては45年も前に仕込みをした「商品」なのであります。

子供の頃の思い出は私の人生の中でいつも夢を見せてくれています。
これが、鉄道は人々の夢を乗せて走るということなのです。

だから、できるだけ小さなうちから鉄道に親しんで、鉄道の思い出を持ってもらいたいと思います。
なぜなら、そうすることで鉄道というものが子供の思い出と一緒に将来へと続いていくからです。

逆に言えば、子供のころに鉄道に親しんでなければ、大人になってから鉄道に愛着など持てるはずもなく、単なる移動手段にしかすぎなくなります。
そして単なる移動手段で良いのであれば、高速バスでも飛行機でも良いし、あるいはマイカーで十分になってしまうからです。

私はそう思っています。

だから、そんな私が鉄道会社の社長にしてもらったからには、鉄道に親しんでいただき、思い出になるような、夢を見られるような、そんな列車を走らせたいのです。

その私が企画した列車がこれです。

12月28日運転の「冬休み親子夜行列車体験号」

お父さんの時代は夜行列車なんて当たり前だったかもしれませんが、今の子供たちは知りません。
お父さんが子供の頃経験した夜行列車をお子さんにも経験させてあげたい。
そうすれば、その子は何十年経っても「俺、昔おやじと一緒に夜行列車に乗ったんだ。」という思い出を持っている大人になるからです。

そういうことをきちんとやって行かないと、この国から鉄道文化というものが消えてしまう。私はそういう危機感を持っています。

だから、親子で楽しんでいただけるように1ボックス単位で発売します。
もちろん大人の人の単独参加も可能です。
良いじゃないですか。列車に揺られて一晩過ごしてみたいなんて、そんな子供心を忘れていない大人たちが夢を見られるというのも素敵ですからね。

詳細につきましては えちごトキめき鉄道のホームページ にてご確認ください。

お申し込みは12月5日から。
メールでのみとなります。

大人1人と子供1人が基本料金ですが、大人2人でも構いません。
ご家族でしたら大人2人と子供2人までOKです。(大人3名以上はNGですが、お子さんが中学生、高校生ならOKです。でも、窮屈ですけどね。)
お1人でご乗車される場合でも料金は一緒です。その場合1ボックスをお1人で占有できます。

行先はどこかって?

そんな野暮なことは聞いてはいけませんよ。
なぜなら、目的地へ行くための夜行列車ではなく、乗ることそのものが目的の夜行列車なのですから。

だって今の鉄道には、特にローカル線には夢も希望も見当たらないでしょ。
そんな時はどうするか。
なかったら作ればよいのです。
需要がなければ需要を作ればよい。
それと同じです。
夢と希望がなかったら、夢と希望を作ればよいのです。

雪の夜に「鉄道で夢を見る」のも良いものですよ。

夢と希望を乗せて走るえちごトキめき鉄道の夜行列車。

皆様方のご乗車をお待ちいたしております。