テレビを見ていたらケミストリーが出ていた。
歌っている歌が「Point of No Return」
日本語では「帰還不能点」
ここを過ぎればもう後戻りはできないという場所のことです。
以前にも書いたと思いますが、この言葉は普通の生活ではなかなか使いませんが、航空業界ではいつもいつも考えなければいけないことで、つまり、飛んでいる飛行機が残りの燃料で飛び続けるためにはパイロットはいつも把握していなければならないことであります。
例えば東京からホノルルまで行くとします。
距離は約6000km。
ホノルルまでの燃料を搭載して羽田、あるいは成田を離陸します。
ホノルルまでの飛行時間は6時間。
6時間分の燃料を搭載して離陸するとします。
航路はずっと太平洋の上ですから、途中に降りるところはありません。
もし、緊急事態が発生したとしたらPoint of No Returnはどこでしょうか。
片道6時間ですから、Point of No Returnは3時間飛行したところ。
ふつうならそう考えますよね。
でも、ホノルルへ行かれたことがある方ならおわかりになると思いますが、行きの東京→ホノルルは6時間ですが、帰りのホノルル→東京は8時間かかります。
その理由は偏西風です。
ジェット気流と呼ばれる風が西から東へ吹いている。
だから、行きは追い風に乗っていくことができますから6時間ですが、帰りは向かい風になるから8時間かかる。
ということは、6時間分の燃料を積んで行ってちょうど半分、3時間たったところで引き返そうとしても帰りは4時間かかりますから成田の数百キロ手前の地点で燃料切れになって墜落してしまいます。
つまり、東京→ホノルルのPoint of No Returnはちょうど半分ではなくて、意外と飛び立ってあまり時間が経たない、まん中よりも手前にあるということになります。
離陸の時もそうですね。
滑走路の長さが限られていますから、もし何かあって離陸を途中で取りやめる場合、残りの滑走路で止まれなければなりません。
その時の意思決定速度をV1と言って、滑走路の長さ、風向き、飛行機の重量などをもとに、離陸の度に計算して割り出します。
離陸滑走を始めてから速度が上がってくると、横で副操縦士が「V1」とコールします。
その声を聞いたら機長は何があっても離陸しなければなりませんし、その声以前であれば何かあったら緊急停止します。
着陸の時もそうですね。
滑走路に向かって降りてくる。
お天気が良い日なら問題ないですけど悪天候で前が見えなかったらどうしますか?
ある高度まで下りてきて滑走路が見えなかったら一旦上昇してもう一度やり直すか、着陸をあきらめて他の空港に行く。
そのある高度のことをDH(Decision Height)と呼びます。
つまり、判断をする高度。
このDHも空港によって違います。
平坦な空港ならば問題ありませんが、近くに山があるようなところではコースが間違っていれば山にぶつかる可能性がありますから、その山よりも高い高度です。
何しろ前が見えない中、降りてくるわけですから。
視界が悪い中進入してきてDHになると横から副操縦士が「ミニマム(最低進入高度)」とコールします。
その時、着陸するのか、それともやり直すのか、瞬時に決定しなければなりません。
「え~と、どうしましょうか?」などと躊躇していることは許されません。
このようにパイロットというのは常にPointo of No Returnを頭に置いて操縦しているわけで、私もそうでしたが隣りにいる教官や副操縦士からいつもいつも「Make a decision」と聞かれます。
「さあ、どうする?」ってことですね。
とまあ、そういう環境に長く居たからでしょうか。
その時その時で決断するということに対して、私は基本的に抵抗感がありません。
よく、「さあ、どうする?」と聞かれてしどろもどろの人がいると思いますが、私はそういうことはありません。
若い時代にそういう生活をしてきたからかもしれませんが、だから3セク会社の社長をやっていられるのだとも思います。
「さあ、どうする?」
「社長、どうしますか?」
「あなた、どうするの?」
そうやって、私は周りから問いかけられて、自分で判断し、自分で決断し、自分で責任を取ってきたのです。
なぜなら、地上での出来事は大したことはありませんから。
空の上の出来事は、万が一自分の判断が間違えば、命がなくなりますからね。
てなことを、テレビを見ていて思い出すのですから、私も年を取ったのだなあと実感するのであります。
もう、人生のPoint of No Returnはとっくの昔に過ぎていますから、あとは何があっても前に進むしかないのであります。
皆さん、覚悟できてますか?
自分の人生ですからね。
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