観光は水ものです。

毎日毎日韓国からの飛行機が飛んでこなくなるとか、韓国人の観光客が来なくなるとか言ったニュースが流れています。

私はずっと航空業界にいて、その間に湾岸戦争だとか、911だとかいろいろありましたから身をもって体験しているんですけど、観光って本当に水もので、災害、天変地異、政変、テロなど、何かあったらピタッと観光客は来なくなります。

例えば、テロが発生する。
夜のニュースで、つまり地球の反対側は昼間ですから、「ただいま入ったニュースです。」と言ってテロがあったことを報じますよね。翌日会社へ行くと、昨日まで入っていた予約が消えているんです。その翌日はさらに減っている。
400人乗りの飛行機が何かあった翌日は100人減って300人に。その翌日はさらに100人減って200人になって行くんです。
夏休みとかでも平気で減って行きます。

これが観光の現実です。

もちろん、テロがあったって、ごく一部の地域のことですから交通機関も動いてるしホテルも通常通り。ということは「お客様ご自身のご都合による取り消し」ですから旅行代金のほとんどが消えてなくなるという覚悟のもとで、それでもキャンセルになるのです。

こういう特徴があるのが観光ですから、私はいすみ鉄道の時に観光鉄道化すると言っても、基本的に大きな設備投資はしませんでした。
観光用の列車は古い車両を使うなんてのは昭和の時代の国鉄では「いろは」の「い」でしたから、つまり、何かあっても耐えられる工夫をそれなりにしていたのです。

今、韓国人が来なくなって北海道が大騒ぎしているとニュースでやっていましたが、観光に依存するというのはつまりはそういうことで、その観光に依存する中でさらに韓国人に依存するということは、危険極まりないことだというのが、今回の事象でよくわかったのではないでしょうか。

では、どうするか。

観光を産業というからには、そういう対策もきちんと取っておくのは当然のことで、突然来なくなっちゃって慌てふためいて「お願いですから来てください。」というようなことはやめたほうが良いと思います。
なぜなら、そんなものは何の戦略でもなく、お客様へこびへつらう商売はやめたほうが良いからです。

観光客が増えると、地域社会にいろいろなトラブルが起きるものです。
例えば昨今京都で見られるように町が汚れたり、地元の人が交通機関に乗れなくなったり。
そんなことは当たり前のことで、そういうことをきちんと考えて、例えば観光税のようなものを徴収して、観光地のインフラを整備するなどしなければならないのは世界の常識です。

私の妹が江ノ島の海の前に住んでいますが、夏の間は買い物にも行かれないと言っています。
目の前の道路が渋滞してとんでもないことになる。
だから、買い物は時差で行い、ふだんの移動は自転車だそうで、江ノ島鎌倉は40年も前からそういう状況だから、それなりに地域住民は対応しているし、それが嫌なら引っ越していくのです。

観光立国とか、観光産業というのであれば、日本人の税金で維持管理しているインフラを、税金を払っていない外国人観光客のために整備するのもおかしな話で、電車の運賃なども、地元の人と旅行者では金額が違っても良いと私は考えています。

金額は違っても良いというのは、地元の利用者には安く、観光客からは高くいただくということですが、日本の場合はどうやら逆で、地元の利用者は高く、観光客には安く乗せているんですよね。JRのパスなんか日本人が聞いたら激怒するような金額で売っているわけですから。

そういうことは戦略でもなんでもないのです。

そんな中で、今日の面白いニュース。

ソウルから石川県の小松空港に飛んできている大韓航空の飛行機が運休になる。
「こまった、こまった。」と他の地域ではなるかもしれませんが石川県の反応は、

石川県 空港企画課 北村課長:
「両国の状況を考えれば運休はやむを得ないと思います。情勢をみながらその後を検討したいです」

とのこと。

日韓関係悪化で…石川・小松=ソウル便が9月に運航休止 利用客困惑も県担当者「やむを得ない」

確かに国と国との問題ですからやむを得ないということなのでしょうが、「その後を検討したい」とは。
なぜなら石川県には金沢や能登という半世紀以上前から日本人向け観光地として定着している場所がありますから、観光を産業としてきちんとした戦略を持っているのでしょう。
前にも申し上げましたが、外国人観光客は年間3000万人ですが、日本人の国内旅行客は年間3億人ですから。

つまり、インバウンドでやってくる外国人は、基本的にはトップアップ(上積み)の部分で、日本人の需要でしっかりとした基盤ができているということなのだと思います。

韓国から大韓航空の飛行機が飛んでこなくなるといっても冷静に考えてみたら現状では週に3便、B737が飛んできているだけですから。
1機に150人として週450人ですからね。
一喜一憂することでもないんですね。

何かあると二言目には「お前らは加害者だ。」というような相手に、「お願いしますから来てください。」ってのは商売としては間違っています。

観光は水ものです。
水というのは高いところから低いところに流れますから、観光客に来てもらうということは、自然の法則に逆らわず、黙っていても来るようなシステムを作るというのが、観光を産業とする地域に求められる戦略ではないでしょうか。