ものの価値

昨日は顧客心理の話をしました。

新橋のガード下の赤ちょうちんで安酒を飲んでいるようなサラリーマンが、豪華列車のメニューやサービスなど企画できるはずはありません。だから、時には贅沢と思えるかもしれないけれど、本物を味わってみることが必要で、そういうことは、決してお金の無駄遣いにはならないと考えているというお話です。

 

ものには値段というものがあって、その値段はどうして決まるかというと、当然原価があって、それに人件費などのコストを載せて、さらに利益を載せたものがものの値段になると言われています。誰だって利益が欲しいですから、利益の部分を大きくしたいと思います。でも、お客様は同じような商品であれば、できるだけ安い価格で手に入れたいと思いますから、利益を多く載せると商品が売れなくなります。では、次にどうするかというと、同じ価格で売っても利益を確保するために、商品原価やコストを下げようという行動に出ます。昨今、人手不足と言われていますから、人件費を削ってしまったら働いてくれる人がいなくなります。だから、人件費以外の商品原価を削ろうとする。このところ気が付くのは、スーパーやコンビニに並んでいる商品が、以前に比べて何となく少し小さくなったように感じること。同じ価格を維持していくためには、会社はそういういろいろな涙ぐましい努力もしていかなければなりません。

 

でも、これは大きな会社だからできることで、小さな会社ではなかなかこのようなやり方では対応できません。それは、いわゆるスケールメリットというものが小さな会社では活かせないからで、同じ商品をたくさん作ってたくさん売るのであれば、1個当たりコスト削減は僅かでもトータル金額としては大きくなりますが、小さな会社ではそういう方式をとることにメリットがないのです。

 

では、小さな会社はどうしたらよいのかというと、大きな会社にはできないようなきめ細やかなサービスであったり、他では手に入らないような商品を作ったりと、何らかの特徴がある商品を作ることが必要になります。どこでも売っているようなものは、結局価格の勝負になりますが、小さな会社では薄利多売といっても所詮大手にはかないませんから、その方法は取れませんが、わざわざそこに買いに行かなければならないような特徴のある商品を作ったり売ったり、あるいはそういうサービスを提供することができれば、お客様はその商品やサービスが欲しくて、わざわざ遠くからでもそれを買いにいらしていただけます。そして、そういう商品やサービスであれば、それ自体で競争できますから、価格の競争をしなくてもよくなります。つまり、安売りのスパイラルに入らなくても、十分に商売をやっていくことができるのです。

何しろ、小さな会社ですから、それほど大きな売り上げも利益も必要ありませんし、人件費も減価償却費も大手に比べたらはるかに小さい金額ですから、商売そのものを維持することも、大手に比べたら楽にできるのですから。

 

さて、この大きな会社、小さな会社という考え方は、そのまま都会と田舎にあてはめられると私は思っていて、つまりは大きな会社が都会で、小さな会社が田舎という風に考えられると思うのですが、都会には何でもそろっていて、それも手近なところに大量にある。これに対して田舎は不便だし、欠品が多くて欲しいものが手に入らない。まあ、簡単に言えば、都会は大手ショッピングモールみたいなもので、田舎は商店街の個人商店のようなものですが、そう考えると、田舎には田舎の商売のやり方があるはずで、つまりは特徴がある商品作り、特徴ある売り場構成、そしてきめ細やかな対応ができれば、私は個人商店でも大規模ショッピングセンターに十分勝てると考えていますから、つまりは田舎には大きな可能性があると感じているのです。

でも、実際にはどうかというと、これは日本全国共通なんですが、田舎の人は皆さん都会にあこがれていて、都会のようになりたいと思っている。だから店構えも取り扱う商品もどんどん都会的なものを取り入れて、都会のようになることが素晴らしいと思っているのです。

 

昔の商売は地域のコミュニティーの中だけで成り立っていました。例えば、東京に商品を仕入れに行って、できるだけ都会のセンスあふれるような商品を仕入れてきて、それをお店に並べると、都会にあこがれている田舎の人たちは、皆さん「いいわねえ」といって買ってくれる。地域のコミュニティーの中だけの商売であればこれで良かったのですが、その地域のコミュニティーが人口減少で崩壊してお客様がいなくなったのであれば、他からお客様を探してこなければなりません。では、お客様はどこにいるかと探してみると、お客様は都会にいることがわかりますから、都会から田舎へお客様にいらしていただかなければなりません。

そういう時には、都会のお客様が田舎に何を求めているかという顧客心理を理解しなければ、都会のお客様は来てくれないのです。

 

なのに、日本全国の田舎の人たちはみなさん都会にあこがれていて、都会的なものを目指しているのですから何となくチグハグで、だからそういうところには都会の人はわざわざお客様になりには行かないのです。

 

そういうことをすべて証明したのが実はいすみ鉄道なんですね。

地元の人たちが見向きもしないローカル鉄道ですが、実は都会人の目から見ると実に魅力的で、おもしろそうに見える。

なぜなら都会にはローカル線はありませんからね。1両の列車で、改札口もなく、のんびりと田園風景の中を走っている。これ以外には何もありませんが、都会の人からしてみたら、それだけで魅力的な商品なんです。

 

だから、観光客がたくさん来てくれるようになって、シーズンにはごった返す鉄道になったんです。

 

田舎に都会と同じものを求めるのが田舎の人たちです。

だから、田舎にあるものはそのままでは商品にならないと思っている。

でも、田舎に都会と違うものを求めるのが都会人です。

だから、田舎はわざわざ都会の真似をしなくても、十分に魅力的なんです。

そういう顧客心理を理解しないと、田舎の人たちはせっかく良い感じで昭和が残っているのに、みんな新しくしてしまうわけで、そういうところには魅力がなくなりますから、都会人は出かけなくなる。

都会人が行かないということは、やがて消えてなくなる運命にあるということなのです。

だから、田舎の人に田舎をやらせていたら、田舎はダメになるのです。

 

私はずーっとこのことを言い続けてきましたから、いすみ鉄道沿線の人たちは、なんとなく理解してくれているようで、最近ではいろいろな活動をしてくれるようになりました。例えば毎週日曜日に大原漁港で開催される港の朝市は、仮設のテントで運営しています。ふつうだったら立派なお店を作りたいと思うでしょうけど、実は都会人から見たら、あの仮設感がたまらないのです。だって、立派な建物のお店なんて、都会にはいくらでもあって、日常の生活でふつうに買い物をしているんですからね。ああいうアウトドア感満載の所で、量り売りや値段の交渉をしながら商品を買う体験って、実にワクワク感があって、それだけで来る価値があるんです。

だから、大きな設備投資をしなくても、今あるもので十分に勝負できるのが田舎の商売なんですね。

 

でも、それができるかどうかは顧客心理をどう理解するか。そして、今あるものにどうやって価値を付けて販売するか.

 

これが田舎という商品の「ものの価値」なのであります。