LCCのお客様

先週、アメリカン航空経営破たんのニュースが全世界に流れました。
カーター政権で航空自由化が行われてからちょうど100社目の経営破たんらしいですが、昔からの航空会社は労働条件などで経営的自由が利かず、LCCと呼ばれるような新興の航空会社にお客様を奪われているのが現実です。
LCCというのはLOW COST CARRIER (低コスト航空会社) の略ですが、日本語では「格安航空会社」と訳されています。
コストが低ければ、価格が安くなるのですから、格安航空会社というのも分かりますが、格安航空の本場、イギリスでは、少なくとも私が在職中はLCCという言葉はほとんど聞きませんでした。
では格安航空会社のことを何というかというと、それは NO FRILLS(ノーフリル)。
フリルというのは洋服の裾についているヒラヒラのことですが、そういう洋服は高級品で、よそ行きの時に着る特別のものですから、そのフリルがないということは、つまり、「ふだん着の」 「特別でない」という意味。
余計なサービスがない分、価格が安いということになります。
ふだん着の飛行機ということになりますが、日本でも昭和40年代ごろまでは、山手線や総武線など、大都市圏の電車(当時は国電)のことを、「ゲタ電」と呼んでいたことを思い出します。これも下駄ばき(つまり、特別でない当時のいつもの格好)で乗る日常の電車という意味でしたから、語意としては英語も日本語も同じようなニュアンスがあるのが面白いですね。
このLCCですが、ついに日本の航空会社も独自にLCCを作るようなニュースが最近よく聞かれます。
日本を代表する航空会社を仮にA社とJ社としましょうか。(笑)
A社の方は外国会社との提携で、すでに2つのLCCを計画中のようですし、J社も当然のように参入することを表明しました。
私は、1990年代以降のヨーロッパでの格安航空会社の台頭を目の当たりにしてきましたが、日本のLCCを見て興味深く思うのは、自社ブランドの弱点を補う路線にLCCを就航させようとしている点です。
例えば、A社は巧みなイメージ戦略で、日本国内では、日本人のマーケットには絶大な人気がありますが、外国人から見ると、NIPPONという名を名乗っていても何とも心細い会社に見えるものです。
路線拡大中の中国では、漢字3文字の会社名が 「毎日空(カラ)で飛んでいる」と読めるようで、プライドが傷つくのでしょうか、国内線の飛行機にはそのままの3文字漢字社名が国際線の飛行機からは撤去されてしまいましたが、認知度としてはJ社に比べるとまだまだ弱く、外国での競争戦略にはなかなか苦戦しています。
ビジネスクラスのことを「クラブ」と呼ぶのがブランドの一つですが、つまり、簡単に言えば、日本人を運ぶための会社なわけですから、日本のマーケットが弱いところでは、そのブランドを維持できない(ビジネスクラスを満席にできない)わけです。
日本では、東京よりも大阪の方がプレミアムマーケットの展開が難しいところですから、大阪を拠点に別の格安会社(LCC)を作って、そういう路線に集中的に展開しようとしているのでしょう。
また、よく「ビーチ便」と呼ばれるような、グアム、サイパンなどのリゾート地への観光便も、新婚旅行などを除いてビジネスクラスの需要がほとんどありませんから、こういう路線もLCC化に適していると考えているようです。
でも、私はこのような自社便のセカンドブランドとしてLCCを展開するやり方は、なんだかお茶を濁しているようで、マーケットにおける需給関係から見ると健全ではないように感じます。
おそらく、監督官庁側の行政的指導に基づいて、遅ればせながら日本でもLCCを、という話だと思いますが、世界に羽ばたいていたJ社の方も、簡単に言えば、このような監督官庁からの行政的指導を忠実に守ってきた結果として会社が破たんしてしまったのですから、御上というのも罪深いものです。
以前に、この話を監督官庁のトップを務めた偉い人の前でしたことがありますが、その時、その方は私のことをじっと見て、「君は、面白い人間だなあ。これから君がどんな仕事をやるか、楽しみに見させてもらうよ。」と言われました。
私は「さすがトップになる人は人間の度量が違うなあ。」と、雲の上にいるようなその方をあらためて尊敬いたしましたが、まあ、その人が良いとか悪いとかでなく、歴史としてJ社は潰れてしまったことは事実ですから、そう申し上げているのです。
さてさて、では、どのような路線にLCCが飛ぶべきかということについて、私なりに一言。
「それは、国内線の幹線ルートであります。」
中国などの発展途上国から観光目的の現地人をたくさん連れてくるルートをいくら飛ばしても、着陸した空港で日本の入国管理局が、中国からの旅行者を前に 「お前たちを入国させることはまかりならん」というような態度で、できるだけ日本に入国させまいと立ちはだかっているのですから、そういうルートにLCCを飛ばしても日本人には意味がない。
東京を中心とした大阪、福岡、札幌、沖縄といった国内線の幹線ルートにLCCが入らなければ改革にも革命にもなりませんし、消費者にとってプラスになるメリットはないのです。
さあ、そうなると大変なのはA社とJ社。国内線のおいしいところをごっそりともって行かれるのですから、これは何としても阻止しなければ経営の根幹にかかわると考えているのでしょう。
先ほども申し上げましたが、私は1990年代から始まったイギリスの格安航空会社戦争を目の当たりにしてきました。
イージージェットやライアンエアという格安航空会社がどのようにして大きくなってきたかを身をもって、ていうか、攻め込まれる側の航空会社という立場から見てきましたから、日本のA社やJ社に言いたいのです。
不採算路線をLCC化するような方法は第一段階にしかすぎません。
そのうち、幹線がLCC化された時の経営準備をしておくべきです。
私がもといた会社もLCCに押されて国内線のおいしい路線からどんどん撤収していきました。
今の国内線でいうと、需要の高いおいしいところは全部LCCに取られてなくなってしまったのです。
(つづく)