なぜ雪が降ると電車が止まるのか。 その2

4年ぶりの大雪が降って東京の電車が大混乱となりました。

 

でも、実際には15㎝か20㎝程度で、このぐらいの雪で止まるのは、雪国の人から見たら笑われますよね。

では、なぜ電車がこのぐらいの雪で止まるかと言えば、それは雪に対して設備ができていないからです。

なぜなら、そんな何年かに一度あるかないかの大雪に対して、設備投資などできない。というのが会社の考えだからで、その理由は民間会社だからだというお話をいたしました。

 

でもこれは電車の話ばかりではありません。飛行場も高速道路も完全にマヒ状態になってしまったのです。

 

大雪というのは自然災害ですが、では、何年かに一度来るか来ないかわからないような自然災害に対して、事前に備えなくても良いのかという話になると、決してそうではありません。「数百年に一度、来るか来ないかもわからないことのために多額のお金をかけて準備をする必要があるのでしょうか。」と言った野党の女性党首がいましたが、そのすぐ後に大震災がやってきて、また火山が噴火してたくさんの人たちが命を落としました。つまり、インフラというものは、きちんとやらなければならないわけで、そういうことを怠ると、国民の生命や財産、あるいは日常生活を守ることができない、というのがインフラであります。

そして、鉄道も飛行場も高速道路も、すべてはインフラなのであります。

 

だけど、いつのころからか、この国は、そのインフラに対して、「赤字」だ「黒字」だばかりを言うようになってしまって、どうもそのあたりからこの国はおかしくなっている。国営企業の残党や公務員たちが、ものごとの判断基準を「赤字」「黒字」だけで判断しようとしているわけで、ビジネスに疎い人たちがそういうことを長年やってきた結果として、今、日本の田舎はダメになって来ている。なぜなら、そういうことは一番弱いところから表面化してくるからです。

 

 

さて、話を鉄道に戻しましょう。

 

昨日のブログでこの写真を載せたところ、「自民党はやっぱり嘘つきだ。」というようなご意見が私の友人から寄せられました。

30数年前の国鉄改革の経緯を知らないのでしょう。つまり、国鉄改革というのは遠い昔のことになってしまっていて、そんなことを知っている人たちは実は少数派になっているというのが、衝撃的ではありますが、事実なのです。

 

私がまだ20代の頃の話ですから、その頃10代だった人たちはすでに50を迎える年齢になっているでしょうし、生まれていなかった人でさえ40歳近くになっているということですから、国民の大半の人たちが知らないのも無理はありませんが、国鉄がJRになる時に、当時の自民党政権は、新しく生まれる民間会社に対していろいろなお約束を定めました。

そのお約束というのが、30数年の年月を経て、だんだんと忘れ去られてきていて、株式の上場というプロセスを経て、自分たちの都合の良いようにすり替えられてきているのです。

 

だから、自民党が嘘をついているわけではなくて、自民党が国民をだましているわけではないのです。

ということをまず念頭に置いてくださいね。

それじゃないと正しく伝わりませんから。

 

そのお約束というのが、ここに書かれている

 

「民営分割 ご期待ください。」

・全国画一からローカル優先のサービスに達します。

・明るく、親切な窓口に変身します。

・楽しい旅行を次々に企画します。

 

「民営分割 ご安心ください。」

・会社間をまたがっても乗り換えもなく、不便になりません。運賃も高くなりません。

・ブルートレインなどの長距離列車もなくなりません。

・ローカル線もなくなりません。

 

これが自民党が国民にお約束したことでありますが、そのために自民党は民営化した後の鉄道会社がきちんと運営できるように、まず、国鉄の赤字という借金を新会社へできるだけ引き継がせることはせずに、借金を棒引きにした後に、それにプラスして収益源となるような手段やお金を新会社へ渡しているのです。

 

その手段というのは新幹線です。

東日本、東海、西日本の3社には新幹線を渡しました。

新幹線は長距離旅客ですから一人あたりの運賃収入も高額で、新幹線特急料金というのも徴収できます。だから、必ず儲かる。誰がやっても儲かるのです。それに加えて駅中などで乗降客に向けてほぼ独占的な商売ができるようなことも認めました。つまり、鉄道運賃収入だけではなかなか経営がうまく行くわけはないけれど、新幹線や駅中、駅前ホテルなどの「おいしい部分」を一緒に渡せば、そこから上がる収益で、もうけが出にくいようなローカル線なども、きちんとやって行かれるだろうということで、簡単に言えば旅立つ息子のリュックサックに「金のなる木」を入れてあげたのです。

本当のことを言えば、新幹線は別会社にして、JRとなった新会社は一生懸命在来線を運営することをさせていれば、必ず儲かる新幹線の利益で国鉄の天文学的な赤字をきちんと返済することもできたし、昭和40年代、50年代に複線化したり電化したりと国民の税金で設備投資してきた在来線が、もてあまされることなくきちんと活性化したのです。

 

私がなぜこんなことを言うかと言えば、お隣の国、台湾では、新幹線が開業しても、その新幹線は高鐵という別会社が運営していて、国鉄は在来線の経営に専念していますから、並行している在来線にも今でも「自強(特急)号」や「莒光(急行)号」という長距離列車が長編成でひっきりなしに走っていて、在来線も新幹線も実にたくさんのお客様でにぎわっているからで、もし、国鉄民営化の時に、新幹線を別会社にして今のJRと切り離していたら、今でも東海道本線や東北本線にたくさんの特急列車が走っていたということが言えるのです。

 

では、なぜ、自民党が国鉄を分割して発足する新会社に必ず儲かる新幹線を渡したのかというと、それは当時、1980年代は世界的に国有企業を民営化しようという動きがあって、その1つが私が以前勤務していたイギリスの旧国営航空でもあるのですが、日本でも電電公社(NTT)、専売公社(JT)、郵政省(日本郵便)などの国営企業の民営化が控えていたからです。民営化のしょっぱなである国鉄の民営化は、国としてぜひとも成功させなければならなかったのです。だから、誰がやっても儲かる新幹線を持たせてくれたのです。

 

それから30年が経過してみると、こういうお約束が国民から忘れ去られている時代になりましたから、「私たちは民間会社ですから、みすみす赤字になるようなローカル線はやりません。儲かるところに資本や設備を投入します。」というようなことを平気で言うようになったのです。

 

では、新幹線を持たない北海道、四国、九州は当時はどうかというと、この3つの会社は「島会社」と呼ばれていて、つまり、儲かる新幹線がないから「いずれ潰れる。」とかげ口を叩かれていました。そこで、自民党は、この3社に対しては「基金」を渡して、その基金を運用することで得られる金利収入などで鉄道事業で発生する赤字の部分を補うことで会社を維持できるという「しくみ」を作りました。

そしてJR北海道に対しては、約2400kmの線路を維持するために必要な基金として6800億円(金額はうろ覚えですが)を渡しました。当時は金利が高い時代でしたから、それでやって行かれるとみたのですが、その後、低金利の時代になったことで、不足する分の金額としてさらに2000数百億円を追加投入して、合計9000億円以上のお金をJR北海道に対して渡していて、基金として運用すれば会社の経営が成り立つとしているのです。これが国民とのお約束です。そして、投入した基金はすべて税金です。

 

ところが、JR北海道は基金の運用益以上の赤字を出すようになってしまいました。このままで行ったら数年後には運用益が底をついて、基金そのものに手を付けなければならない状況にあるということで、「数年後にはやって行かれなくなります。」と宣言したことで、今回のJR北海道問題が表面化しました。つまり、赤字のローカル線を維持していくためには、地元自治体の皆様方にお金を出していただかなければ、廃止にすることになります。というのがJR北海道が言っていることです。

 

でも、私はおかしいと思います。

なぜなら、国民とお約束したときの話では、2400kmの北海道の路線全線をきちんとやっていくために必要な基金として9000億円ものお金を積んでもらっているのです。

ところが、JR北海道の考え方だと、「9000億円の基金でやって行くためには、この路線と、この路線は廃止しなければなりません。」と言っているのです。

 

「いや、そりゃあ違うでしょう。」

というのが私の考えです。

 

まず9000億円ありきで、それでやってかれるのは2000kmですよとか、1500kmですよ、という話ではなくて、

2400kmの線路をきちんと運営していくための基金が9000億円なんです。

そして、それができないのが今のJR北海道の経営陣なのです。

なぜなら、天下の函館本線だって赤字なのですから。

 

確かに大変厳しい気象条件の中でも列車はきちんと走っています。

東京付近の鉄道会社と比べたら、桁違いの設備投資をしているはずです。

そういう不利な条件の中で厳しい競争をしているのは十分に理解しているのですが、そのために基金があるのです。

年間540億円の赤字ということは、1日辺り1億4千万円以上の赤字が発生していることになりますから、そういう体質になっているわけで、そういう体質がある以上、脆弱な沿線地域の自治体がいくらお金を出したとしても、お金をどぶに捨てることになるのは目に見えているのです。

 

つまり、基金で補えないほどの赤字が出ているという原因を突き止めて、その部分を解決していかなければ、地域がお金を出したとしても決して地域のためにはならないのです。

だって、その赤字の1割が北海道新幹線だというのですから。

 

赤字でアップアップして、田舎の町役場に無い袖を振らせようとしている会社が、さらに重い負担となるような新幹線を背負いこんでいるということは、解決しなければならない何か別の問題があると、私は思うのであります。そして、その問題をきちんと解決しなければ、雪が降らなくても電車は走らなくなる危険性があるのです。

 

ということが、今回の東京の大雪をめぐる混乱に対する私の「総括」でございます。

 

 

なお、本件に対する皆様方からのご意見は求めておりませんのご了承ください。

なぜなら、偉そうなことを言っても、いすみ鉄道だって赤字ですからね。

 

ただし、アクセプタブルな金額だと自負しております。

 

(おわり)

 

なお、明日のブログはお休みいたします。